4月17日(土)その2 アイスランドで鮨を握る。

カフェテリアの隣にあるスーパーで、スシの食材を買うことに。
そんなもんあるわけないとタカを括っていたのだが、あったよ…。

スシ用の米(なんでスシ用なのかは不明。ジャポニカ米ってことか?)
スシ用の酢(なんで以下略。すでに調合された鮨酢ではない。)
中国かどっか産のワサビペースト。
そしてなんと、キッコーマンの醤油!!
こんな最果ての島で、キッコーマンの醤油に出会えるとは夢にも思わなかった。
意外と手広くやってるんですね、キッコーマン…。

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買い物を済ませ、ローザ宅に戻ってきた。

今日は土曜で仕事も休みだというのに、家に持ち込んでまで仕事をしているローザ。
仕事も暮らしものんびりやってるように見えるアイスランド人の中では、異色の存在だ。

「彼女は毎日働き過ぎで疲れてるんだ。休むと言うことを知らないんだから。」

そう言ってヴァレリオも心配顔である。
彼女はハプンで一番働いている人間に違いない、ということで俺たちの見解は一致した。

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しばらく街に親しんでいたけど、ここはアイスランド。
街を一歩出れば、そこはいつもこんな感じなのだった。

またここを、一輪車で走るとしよう。明日から。

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夕飯時までまだ時間があるので、
俺が泊まっているキャンプ場の裏手にあるあの山に、犬の散歩をかねて登ってみようということに。
山の隣の白いやつ、あれはやっぱり氷河なんだろうなぁ。
気軽に氷河がある島、それがアイスランド。

キャンプ場にクルマを止めて山に登ろうとしたら、
同じ目的でやって来ていたカトリーヌさん達の一行にばったり再会する。
あいかわらずボーッとした感じのカトリーヌさん。
しかし実は彼女、自分の家を一人で建てたという凄まじい根性の持ち主であった。
自力で家を建てるフルートの先生…。素敵です。

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山を散々歩いて、下山中。
犬たちは広大なフィールドを自由に走り回れて楽しそうだ。
もう大丈夫だと思っていたが、さすがにちょっと右ヒザが痛いか。
まだ完全には治ってなかったらしい。
でもこの程度では、明日から再出発する気持ちは変わらない。

ヴァレリオがポツリと言う。

「ここでの生活は、単調なんだ。何もなくて刺激に乏しい。
 仕事もないし、インターネットも使い放題じゃない。
 豊かな歴史と文化がある日本に早く行ってみたいよ。」

「来ればいいんじゃないか。それだけ興味があれば、楽しめると思うよ。
 わりと勘違いしてる部分も多いと思うけどな。
 その辺を、自分の目でしっかり確かめてみるといい。
 もし来ることがあるなら、俺もできる限りのことはする。」
 
ローザ宅に戻ってきた。
ついに、鮨を作らなければならない時がやって来たのだ。
なんで俺がこんな目に…。

まぁとりあえずは、鍋で米を炊こう。

そしてその間、ヴァレリオのパソコンを借りて鮨の作り方を調べまくる。
インターネットはつくづく便利だなぁ。使い放題じゃないけど。

酢に塩と砂糖を混ぜ、鮨酢を作る。
ローザ宅には小さい分量を量れるハカリが無かったので、そこは適当に。

炊き上がった米に鮨酢を混ぜたのはいいが、あ、鮨飯を冷まさなくては!
うちわなんて小粋なモノがアイスランド人宅にあるわけもなく。

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外で冷ます。
いやー冷えるからね、アイスランド。
しゃもじがないのは意外と不便であることに気づいた。

鮨飯が冷めたら、今度は魚の切り身をスシネタっぽく切り刻む。
意外と難しい…。

昨日のお返しのつもりか、ヴァレリオが動画で俺の苦悩する様を撮影している。

「日本の有名なジャパニーズ・シェフが今、スシを作っています!」

とかなんとか解説しているが、
俺のほうは初めてのことでまったく余裕がないので、真剣そのもの。

「…あ、怒ってるわけじゃないよ。」

ぐらいしか言わない。動画に対するサービス精神ゼロ!!

それになぜか、日本料理だからか真剣だからか、
こんな時だけやたらと日本語で独り言をつぶやいてしまうのは不思議である。
しまったー!とか、まずくはない!とか、ワサビつけるの忘れた!!とか。

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ヴァレリオ撮影のヤケに薄暗ーい動画から拝借。
俺が鮨を握るのはこれが最初で最後だと思う。

いくらなんでもネタが一品の握り鮨だけでは寂しいので、
平行してインスタントヌードルも作る。
チキンテイスト、ビーフテイストと色々あったが、
中でも最もワケのわからない『オリエンタルテイスト』というのをあえて選んでおいた。

鮨と違ってインスタントヌードルのほうは気楽なので、

「見ろ、ヌードルをお湯に入れる瞬間!ここが一番大事なところなんだ!」

とか、

「イタリアにはオリーブオイルのソムリエがいるそうだが、
 日本にはヌードルのソムリエがいるんだ!」

などと、適当なことを吹き込んでおく。

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なんとか完成。
ジャパニーズ・スシ!!
それと、オリエンタル味のヌードル。

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さぁ、ローザも呼んで、ディナーといきますか。
ワインを飲みながら鮨を食べるというのはなんかオシャレだ。

ところで、こういう机を見ると無意識に床に座ってしまう俺は正しく日本人で、
ヴァレリオもマネしてあぐらをかいている。
ローザは一生そんなことはしないだろう。

肝心の鮨だが、これが意外と食えた。2人にもなかなか好評、だったと思う。
まぁネタが新鮮で鮨飯の配合がキチンとしてさえいれば、そうそうハズすことも無いのだろう。

イーサという白身魚は淡白な味で、スシネタとしてまったく合格。
たぶん俺がわからないだけで、日本だと和名で普通に知られている魚なんだと思う。
ヌードルのほうは…、オリエンタルテイストだった。

あー、よかった。
ドキドキもんだったが、ようやく肩の荷が下りたよ。

結果として、アイスランド人とイタリア人と日本人の3人が、
毎晩それぞれの国の料理を作って披露するという楽しい夕食を囲むことができた。
こんな風に仕向けてくれたのはもちろんヴァレリオで、
彼に出会っていなければ、鮨も、パスタも、羊のスープも食べることはなかった。

豊かな食生活。
穏やかな暮らし。
気の合う友人。

いろんなものを手に入れたハプンの街。

でも、よし、明日は出発だ。

俺はいつも無いものねだりで、今はまた、孤独な一輪車の旅を欲しているらしい。

余った鮨飯を、米を食える貴重な機会だ!と思って全部食ったら、さすがに多かった。
今動いたら吐く!というほどの満腹。
食い過ぎて苦しいなんて思いを久々にした。

大丈夫、明日からは、元通りだ。