盛者必衰のお断り
……潜血ッッッ!!
毎年日本に帰省した折には健康診断を受けているのだが、今回は検便で潜血があるとお医者さまから告知されてしまったのだ。
今まで血中脂肪が高いと言われる以外はそこそこ健康体だったのに。人間こうやって衰えてゆくのだなあ。最近手の爪なんかもすぐボロボロになるんだよ困るよ。
というわけで、潜血がみつかると次に言われるのは、大腸内視鏡検査を受けろということ。
嫌だ。断る。
胃カメラでさえ超絶苦手で年1回でも悲愴な顔をして決死の覚悟でのぞんでは案の定臨死体験ゲーゲー丸になって優しい看護師さんが背中をさすってくれなければその場で悶死もしくは憤死しそうな勢いであるのに、今度は大腸カメラとな。人を頓死かつ狂死させるつもりか。
大腸カメラ。やりたくない。とてつもなくやりたくない。独身ならやらなかったかもしれないが、今はかわいい子どもの顔が目に浮かぶ。何かあっても困るのでやるしかない。できればまた日本でやりたいところだが、緊急性を考えるとやむをえずアメリカでやるしかない。嫌だ。本当に嫌だ。
で。
大腸内視鏡検査というのは、日本とアメリカではやり方が少々違うらしい。
日本では検査前日は夕食抜きのみ、当日朝から病院で2リットルの下剤を飲むパターンが多いんだって?
アメリカでは、前日は一日絶食して当日も絶食…いやもう絶食ばっかり!お腹空く!
かく言う今は前日の絶食まっただ中なのである。
まあ、やってみると絶食というのは個人的には大したことはない。新手の断食だと思えばよいのだ。健康的だねっ。
しかもアメリカの断食じゃない絶食、透明なジュースはOKで、なんとゼリーやアイスまで食べてもいいらしい。こんなの断食じゃない!
こいつを見てくれ。
前日は絶食、CLEAR LIQUIDS(透明な液体)は飲んで良しと書いてある。
これが妙に具体的で、ジンジャーエールとかゲータレード、そしてJELL-O(アメリカで売ってるあんまりおいしくないゼリー)やPOPCICLES(アイスキャンディー)もアリだと書いてあるではないか。ちなみにCRYSTAL LIGHTはもちろん、ITALIANなんぞ一体何を指しているのかググってもわからん。
というわけで俺は今日、ゼリーとアイスだけを食べている。そして速攻で飽きた。もう何も食べなくていい。
ちなみに牛乳と、赤色と紫色の飲み物は検査にひっかかるのでダメらしい。
そして次はこれだ。謎の下剤群である。
上のDULCOLAXというのがタブレットタイプの下剤であり、前日の午後3時に飲むように指示されたのでさっき飲んだ。
そしてその1時間後に、下のCLENPIQというボトルをまず1本飲む。
日本では2リットルのマズい液体を飲まされるそうだが、こっちではこのボトルを5時間ぐらい空けて2本飲み干し、その間になんでもいいから前述のCLEAR LIQUIDSをたくさん飲んで押し流すという方式らしい。
このCLENPIQ、1時間ほど前に1本目を飲んだ。クランベリー味とか書いてあったが見事にしょっぱくて思わず投げ出しそうになった。例えれば腐ったタマネギを炒めてさらに腐らせたような後味がたまらない。が、まあなんとか飲んだ。夜になったらもう1本だ。なんだかだんだんお腹が痛くなってきたような気がする。
で、5時間たったのでまたもう1本腐ったタマネギジュースを飲んだ。
お腹はちょっと痛くなるものの、あまり大したものが出ない。
自慢じゃないが俺は腸が長いのかねじれているのか昔からお腹が弱くて、こうした下剤みたいなものは大抵効きにくい。人によっては30分で腸がキレイになると言われても、俺は6時間たってもまるで変化なとか思ってたら急にキタわぁ!!
怒涛の濁流が奔流と化して流出してゆく!!思ってたんと違う!!
便がどうこうではなく、体内にひたすらためこんだ薬液と水分(CLEAR LIQUIDS)がとてつもない勢いでナイアガラ瀑布してゆく!!
ああでも、これとおんなじ事象をかつて体験したことがある。
あれは10年ぐらい前、極めて暑い日、ひたすら歩いてメンフィスの街のモーテルにたどりついた時、あまりの喉の渇きから1ガロン(3.79リットル)のリンゴジュースを一気に飲み干してしまった直後に発生したあの状態と同じだ。
まさかあのシャーシャー体験を今になってまたする羽目になるとは…。
まあそんなことはどうでもよい。とりあえず何かが出たっぽいので明日検査を断られるようなことはたぶんないだろう。寝るまでにもうちょっとクリアーな液体になればよさそうだ。よしもうちょっと水を飲もう。
この前日処置、CLENPIQの後味のマズさもそうだが、大量の水分を摂るのが苦手な人にはなかなかキツいだろうと思う。俺は食べ物よりも飲み物のほうが好きな体質なので特に問題ないんだけどな。
では、明日の朝こそが本番である。
どうか医療事故が起きませんように。