5月13日(木)その1 堪能。ゲイシールとグトルフォス


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寒くて4時半に目が覚めた。
外に出てみたらテントにうっすらと霜がおりている。

油断してテントにシートを被せなかったので天井の通気口から水が入ったらしく、
昨日の雨以来ずっと湿っぽい寝袋がまた追加で濡れている。
湿った寝袋で寝る感覚はちょっと言葉では言い表せないほどアンニュイである。

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うっかり早く起きてしまったので、すぐ隣にあるゲイシールにもう1回寄ることにした。
湯気はあちこちから出ているけど、ブシュー!と噴出するのは数ヶ所だけ。
昨日と同じ場所に陣取り、昨日の教訓を生かして今度は動画を撮ってみるとしよう。



あいかわらずいつ来るかわからん!キィー!!という動画。しかも噴出が控えめ。

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動画が観られない人用にキャプチャー写真。
もっとデカいのが来るまで延々と待機する気力がどうしても芽生えなかった。いわば根負け。

よし、もうゲイシールはいいだろう。
待つのに疲れた。そして飽きた。充分堪能いたしました!

次はこの道をさらに10キロ進んだところにあるグトルフォスに行くぜ!
まだ6時。今なら観光客も少ないに違いない。

早朝の田舎道をグトルフォスめがけて突き進む。
多少しんどくても、手近に目標があるとそれなりにがんばれるものだ。

そして午前7時。
どうやらグトルフォスに着いたみたいだ。
まだ姿は見えないけど、あたりに響く大きな音でわかる。

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グトルフォスへと続く木道。
誰もいないのでユニサイクルで爽やかに突破。
この向こうにはグトルフォスが待ってる!

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おぉっ。
これがグトルフォス。黄金の滝か。

すごい。思ったよりずっとデカい。
地の裂け目に流れ落ちる膨大な量の水、そして滝の爆音と湧き上がる水煙に圧倒される。
ゲイシールやちょっと前に見たゴーザフォスよりも、こっちのほうが数段迫力がある。

左下に見える小道を通って、もっと滝に近づけそうだ。
これは行くしかない!

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ゴーザフォスで撮れなかったカッコイイ写真を、ぜひともここで撮りたい。

岩が濡れてて足場が安定しない。
うっかりツルッとなって滝にポチャッといくと少々悲しいことになりそうだが、でもここはやってみる。
なんせ、このグトルフォスの前でユニサイクルに乗ったヤツは俺が初めてかも知れないからな。

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バランス。

この旅の集大成。

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まだ朝早いので近くの観光ショップは休みかと思っていたら、
掃除をしていたおばさんに呼び止められてコーヒーを飲むことになった。

紙コップのホットコーヒーとちょっとしたケーキで970IK。高っ!!
観光地料金にもほどがあるな。
まぁ、観光客ですから。

おばさんは鼻歌まじりに掃除中。
日本人の観光客がたくさん来るわよ!とおっしゃる。
みんな、『やっぱりアイスランドの物価は高いなぁ』とか思いながら970IKでコーヒーを飲むんだろうか。

ところで彼女、

「グトルフォスにユニサイクルで来た人なんて初めて見たわ。ちょっとクレージーよねぇ!」

みたいなことを言ってた。
と言うことは、やっぱりグトルフォスでユニサイクリングしたのは俺が史上初か?
うーん、そうかも知れない。ちょっと嬉しい。
クレージーと言われるのは好きじゃないが、彼女の言い方はおかしくて好感が持てたよ。

ついにグトルフォスも見た。ホットコーヒーで一息もついた。ついでに水も汲んだ。
さて、元来た道を引き返すとしますか…。
何がイヤって、同じ道を2回通ることほどイヤなことはない。人力なら特に。

店のおばさんと兄ちゃんに見送られて、グトルフォスを出発ー。

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子連れの母馬がジーッと見てる。

馬はなぜか俺をジッと見る。
羊はすぐ逃げる。
牛は無関心。

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午前9時。
グトルフォスからまた10キロ走って、ようやくゲイシールまで戻ってきたよ。

おーおー、性懲りもなくまた元気に噴出してるなぁ。

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ゲイシールを過ぎて黙々と走ってると、
自称ジャーナリストというおっちゃんに話しかけられる。

なんだか愉快な人で、以前に出会った若い日本人女性のことを熱心に話してくれる。
そんな彼がいい顔をして大きく手を広げてる理由は。

「実は昨日から釣りをして回ってるんだよ。」

「へー、このあたりに魚なんているんだ。どれぐらいの大きさ?」

「これぐらいさ!」

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10時。ようやく分岐点まで戻ってきた。

ここをまっすぐ行くと、昨日通過したロウガルバトンの町。
左に行くと最終的にはセルフォスに着く。
同じ道を通らずにレイキャヴィークに帰るには、もちろん左だな。
とりあえずは次のレイクホルトという町を目指そう。

明日は雨予報だ。
レイクホルトがいい町なら、そこで雨をやり過ごすことができるだろう。

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多いよ!!

牧場の脇で休憩してビスケットを食ってたら、いつのまにかこんな状態に。
この注目度は尋常じゃないな。

アイスランドには本当にやたらと馬がいる。
でもこいつら、一体何のために飼われてるんだろう。何か仕事があるんだろうか。

この疑問を以前セイズィスフィヨルズルで会った怖い顔のヒャッティに聞いてみたら、

「彼らは友だちなんだ!」

と言う明快な答えが返ってきたものだ。
そういえばあの時、ワインを飲みながらポニーのステーキを食ってた。

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追い越して行ったクルマが前方に止まり、
そして中からワラワラとカメラを持った人々が!
うわっなんなんだおまえら!怖いって!!

ささやかな反撃として、撮られる前に撮る。
そして立ち止まることなく、カメラ集団の前を一気に突き抜ける。

日本から来たクールな一輪車野郎が珍しいのはわかるが…。
プチ有名人も意外とラクじゃないな。

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12時。レイクホルトに到着。

坂を上がった高台にポツンとある小さな町だ。
疲れを感じながらやっとたどり着いた町だが、なぜかいい印象を受けない。
ドンヨリとした天気のせいかも知れないが…。

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ガソスタ兼用の小さな店でサンドイッチを買う。
あちこちの町の物価を知る俺からすると、この店はかなり高い。
ついでに店のおばさんの愛想が悪い。
あげくに店の犬がサンドイッチを狙ってくる。やらないぞ!

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とりあえず休憩。疲れた。

この町のキャンプ場は小さくて雨をよけられそうな設備もない。
安いゲストハウスのようなものも見つからない。
せっかく来た町ではあるが、ここではどうしても泊まる気になれない。
同じ小さな町でも、昨日のロウガルバトンは随分いい印象だったのにな。
やっぱり天気や自分のテンションも影響しているのだろう。

この町には泊まらないとして、これからどうしようか。
まぁいい、とりあえずちょっと昼寝しよう。

ちょっとのつもりの昼寝が、起きたら2時間後。

なぜか風向きが変わって強い向かい風になっている。
そして寒い。
ここ最近は暑くてジャマなぐらいだった防寒着を着ていてもなお寒い。

やれやれ。
あんまりいいコンディションじゃないなぁ。
でもこの町に泊まる気にはやっぱりならないし、しょうがないから進むとしよう。

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レイクホルトを出て1キロ。
セルフォスまでは40キロ。

さて、いよいよどうするかだ。問題は明日の雨予報。
今は14時半。
向かい風の中を強行して歩けば、あるいは夜にはセルフォスに着けるかも知れない。
セルフォスならあの橋の下でまたテントを張ることもできるだろうが、
そこに着くまでに雨が降らないという保証はないし、あと40キロというのはしんどい。

もう少し先に行けば、農家の宿があるにはある。
明日の雨をやり過ごすにはそこに泊まるのが上策だとは思うが、
宿に泊まるとなると今日と明日の2連泊になってしまう可能性がある。
なるべくなら出費は抑えたいもんだ。

うーん。
冷たい風の中、トボトボ歩きながらグダグダ悩む。

一応、地図によると、この先の道を脇に入ればロウガラウスという小さな町もあるにはある。
でもレイクホルトですらあんな寂しい様相だったのに、
幹線道路から離れたところにあるロウガラウスが充分な設備を持つ町だとは思えない。
それでも何もないところで雨に降られるよりはマシか。
幹線道路から5キロも寄り道するのは賭けだが、イチかバチかやってみるかなぁ。

なんせ今はもう疲れた。
ゲイシールとグトルフォスを見て、やりがいのある目標を失ってしまったせいもあるかも知れない。
どうすればいいのか色々考えてはみるのだが、うまくまとまらない。

材木を満載したボロいトラックが轟音を立てて俺を追い越す。
しかし、そのトラックは俺の少し前で路肩に寄って止まった。

運転席から男が出てきた。
ボサボサの髪とヒゲになぜか短パン。
首にはゴツいヘッドホンみたいなものをかけているが、これはチェーンソーで材木を切る時に使うものだろう。

もし「クルマに乗って行くか?」と言われても、ありがたいけど断るよ。
「大丈夫か?」と聞かれたら「大丈夫!」と答える。何回も繰り返したいつものパターンだ。
明日は雨で今も疲れて歩いているけど、それぐらいの理由ではクルマに乗せてもらう気にはならない。

怪しい男が近寄ってきた。

そして俺の前で、突然叫ぶ。

「キミに、コーヒーをご馳走したい!!」