あと1キロの透明
九重町まで来たら、少し考えなくてはならない。
このまま国道210号線を通って日田、久留米と出て九州を横断するか。
もしくは、このまま387号線に折れて、さらに山の中を行くかだ。
210ルートだと町も多くアップダウンも少なくおそらく歩道率も高いが、
方角が北西に流れるために大変な遠回りだ。
何しろ久留米まで行くと福岡県に逆戻りになる。
一方で387ルートは、210よりさらに山奥、標高はさらに高く、
しかも歩道は怪しいが、縦断するなら近道だ。
旅は決断の連続である。
ここでの俺は、387を選ぶ。
理由は色々あって、総合的にはこちらに軍配が上がったということだ。
387を選ぶなら、目的地は次の町である小国町の道の駅がいいだろう。
しかし少し遠いな、まだ20キロ以上はある。
いつもより出発が遅かったせいで、今はもう15時過ぎだ。
しかも国道387号線には予想どおり歩道がない。そして上り坂。
この時点でルート選択に疑問を感じはするが、しばらく立ち止まって考え直し、
やはりこのまま行くことを再確認する。もう変えない。
このままフルで歩いて行くとすれば、到着予想は21時頃か。
いずれにせよ途中で夜になるのは避けられないが、あとは道次第だ。
途中、宝泉寺温泉郷という場所を通過する。
立ち寄るつもりもない小さな温泉街である。
でも、国道脇に何もないよりはずっといい。気分がまるで違う。
ここを越えて、さらに標高を上げる。
日は陰り始め、そして道は白く、車道までが雪道の様相を呈し始めた。
路面の凍結を警戒してクルマは徐行気味。行き交うクルマの数も随分と少なくなった。
峠の途中でやはり夜になるな…。
そう考え始めていた時、ふいに坂が終わった。
あれ、ここは何だ?
ああ、町の境界か。
九重町から小国町に変わるんだな。
そして、え、ここから熊本県?
小国町ってもう熊本県だったのか。
そんなことはまるで考えてなかった。
ここから先はもう熊本県で、坂は下りに転じている。
しかも、考えられないことに、
ここからいきなり幅の広い立派な歩道が設置されているのだ。
熊本県えらい!太っ腹!このスケベ!
喜び勇んで歩道に乗ると、足が滑った。
あぶねぇ、凍ってる。
さすがは-2度。
濡れてるように見える場所はすべて凍ってると考えたほうがよさそうだ。
凍結箇所に注意しつつ、下りのユニサイクリングを開始。
おー、早い。これは早い。
こんな辺鄙な場所の国道で、これほどおあつらえ向きな歩道が用意されているとは!
熊本県側のこの道にこんな立派な歩道を組み込んで設計してくれた人に、
会えるものならぜひ会いたい。たぶんあまり出世してない人だと思うが。
会った暁には、全力で握手し、抱き合い、肩を叩き合い、記念写真を撮って、
俺のサイトの永久トップページ画像にするぐらいは間違いない。
あ、その時は国道10号線の設計者も呼んで、
みんなで大いに飲み、21世紀の歩道について語り明かそう。
宴会が少し苦手な俺ではあるが、
この集まりはきっと心の底から楽しめることだろう。
そんなことを考えている間にも一輪車はグングンと標高を下げ、距離を伸ばす。
凍ってるところは本当にツルツルで危ないが、
そこだけ気にしていればこんな快速区間もそうない。
あれよあれよという間に周囲は何もない峠道から町へと開けてきた。
長く険しい道のりを予想していたルートが、後半は嘘みたいにラクだった。
嬉しい誤算だ。
やはり道次第で、移動のスピードはまったく違う。
本日の目標である小国町の道の駅が、あと1キロの地点まで迫ってきた。
あたりはさすがに真っ暗で路面もよく見えず、
適当に走ると氷を踏んで滑ってこけるので、あとは押して歩く。
自然と、決断について考えていた。
今日の決断は成功だった。結果的には。
明日はまたわからない。
旅と同じく、生きていく中では決断する場面がたびたびある。
それはイチゴのショートかモンブランか、というレベルから始まって、
やがてはどの学校に進むか、どんな仕事に就くか、
誰かと結婚はするのか、これからどうやって生きていくのか、
という人生の重要な岐路へと展開する。
そこで思うのは、そもそもなぜ決断が必要なのかということだ。
それは、考えてみれば、
どの道にもそれぞれに魅力があって、迷うからに他ならない。
迷うことがなければ、そもそも決断する必要がないからだ。
どの道も捨てがたいから迷う。
決断とは微妙なバランスの産物で、迷うこと自体は当たり前のことなのだ。
迷って決めた道も、自分で選んだ道なら後悔はしないし、
先のことを前向きに考えて進むことができる。
そう、決断に迷うのは当たり前だ。
迷うほどのことだから決断するのだ。
だから、迷いながら決めたことでも大丈夫。
微妙なバランスの末に転がり出た結論を信じて、俺は進んで行けるだろう。
そう考えると、少し気が楽になったようだ。
道の駅に到着。
小国町の市街は考えていたよりもずっと広く整然とした美しい町並みで、
コンビニやスーパーもあり、まったく申し分がない。
九重町のコンビニで気負いこんで食料をまとめ買いしたが、
まだ半分も減っていない。これは嬉しい取り越し苦労だった。
道の駅が珍妙な形状をしているにしても、寝るには問題なさそうだ。
まずはスーパーで買い物。
熊本に来て大分名物とり天弁当というのを買い、
一応クリスマスってことでケーキっぽいパフェも買っておいた。
とり天が想像以上に旨いのだ。鶏の天ぷらなんだろうか。
やるな大分、出てから良さに気づいた。
21時に到着するハズだったこの町に、18時過ぎに着いてしまった。
予想外にいい道だったおかげだが、時には逆のことだってある。
距離は意外にも38キロしか走っていなかった。
出発が遅かったことだけでなく、
今日の行程は自分の感覚よりも険しいものだったのかもしれない。
今日の決断は良い結果を残して終わったが、明日はまたわからない。
今はとにかくよく寝て、自分の可能性を高めておくことだ。
このまま国道210号線を通って日田、久留米と出て九州を横断するか。
もしくは、このまま387号線に折れて、さらに山の中を行くかだ。
210ルートだと町も多くアップダウンも少なくおそらく歩道率も高いが、
方角が北西に流れるために大変な遠回りだ。
何しろ久留米まで行くと福岡県に逆戻りになる。
一方で387ルートは、210よりさらに山奥、標高はさらに高く、
しかも歩道は怪しいが、縦断するなら近道だ。
旅は決断の連続である。
ここでの俺は、387を選ぶ。
理由は色々あって、総合的にはこちらに軍配が上がったということだ。
387を選ぶなら、目的地は次の町である小国町の道の駅がいいだろう。
しかし少し遠いな、まだ20キロ以上はある。
いつもより出発が遅かったせいで、今はもう15時過ぎだ。
しかも国道387号線には予想どおり歩道がない。そして上り坂。
この時点でルート選択に疑問を感じはするが、しばらく立ち止まって考え直し、
やはりこのまま行くことを再確認する。もう変えない。
このままフルで歩いて行くとすれば、到着予想は21時頃か。
いずれにせよ途中で夜になるのは避けられないが、あとは道次第だ。
途中、宝泉寺温泉郷という場所を通過する。
立ち寄るつもりもない小さな温泉街である。
でも、国道脇に何もないよりはずっといい。気分がまるで違う。
ここを越えて、さらに標高を上げる。
日は陰り始め、そして道は白く、車道までが雪道の様相を呈し始めた。
路面の凍結を警戒してクルマは徐行気味。行き交うクルマの数も随分と少なくなった。
峠の途中でやはり夜になるな…。
そう考え始めていた時、ふいに坂が終わった。
あれ、ここは何だ?
ああ、町の境界か。
九重町から小国町に変わるんだな。
そして、え、ここから熊本県?
小国町ってもう熊本県だったのか。
そんなことはまるで考えてなかった。
ここから先はもう熊本県で、坂は下りに転じている。
しかも、考えられないことに、
ここからいきなり幅の広い立派な歩道が設置されているのだ。
熊本県えらい!太っ腹!このスケベ!
喜び勇んで歩道に乗ると、足が滑った。
あぶねぇ、凍ってる。
さすがは-2度。
濡れてるように見える場所はすべて凍ってると考えたほうがよさそうだ。
凍結箇所に注意しつつ、下りのユニサイクリングを開始。
おー、早い。これは早い。
こんな辺鄙な場所の国道で、これほどおあつらえ向きな歩道が用意されているとは!
熊本県側のこの道にこんな立派な歩道を組み込んで設計してくれた人に、
会えるものならぜひ会いたい。たぶんあまり出世してない人だと思うが。
会った暁には、全力で握手し、抱き合い、肩を叩き合い、記念写真を撮って、
俺のサイトの永久トップページ画像にするぐらいは間違いない。
あ、その時は国道10号線の設計者も呼んで、
みんなで大いに飲み、21世紀の歩道について語り明かそう。
宴会が少し苦手な俺ではあるが、
この集まりはきっと心の底から楽しめることだろう。
そんなことを考えている間にも一輪車はグングンと標高を下げ、距離を伸ばす。
凍ってるところは本当にツルツルで危ないが、
そこだけ気にしていればこんな快速区間もそうない。
あれよあれよという間に周囲は何もない峠道から町へと開けてきた。
長く険しい道のりを予想していたルートが、後半は嘘みたいにラクだった。
嬉しい誤算だ。
やはり道次第で、移動のスピードはまったく違う。
本日の目標である小国町の道の駅が、あと1キロの地点まで迫ってきた。
あたりはさすがに真っ暗で路面もよく見えず、
適当に走ると氷を踏んで滑ってこけるので、あとは押して歩く。
自然と、決断について考えていた。
今日の決断は成功だった。結果的には。
明日はまたわからない。
旅と同じく、生きていく中では決断する場面がたびたびある。
それはイチゴのショートかモンブランか、というレベルから始まって、
やがてはどの学校に進むか、どんな仕事に就くか、
誰かと結婚はするのか、これからどうやって生きていくのか、
という人生の重要な岐路へと展開する。
そこで思うのは、そもそもなぜ決断が必要なのかということだ。
それは、考えてみれば、
どの道にもそれぞれに魅力があって、迷うからに他ならない。
迷うことがなければ、そもそも決断する必要がないからだ。
どの道も捨てがたいから迷う。
決断とは微妙なバランスの産物で、迷うこと自体は当たり前のことなのだ。
迷って決めた道も、自分で選んだ道なら後悔はしないし、
先のことを前向きに考えて進むことができる。
そう、決断に迷うのは当たり前だ。
迷うほどのことだから決断するのだ。
だから、迷いながら決めたことでも大丈夫。
微妙なバランスの末に転がり出た結論を信じて、俺は進んで行けるだろう。
そう考えると、少し気が楽になったようだ。
道の駅に到着。
小国町の市街は考えていたよりもずっと広く整然とした美しい町並みで、
コンビニやスーパーもあり、まったく申し分がない。
九重町のコンビニで気負いこんで食料をまとめ買いしたが、
まだ半分も減っていない。これは嬉しい取り越し苦労だった。
道の駅が珍妙な形状をしているにしても、寝るには問題なさそうだ。
まずはスーパーで買い物。
熊本に来て大分名物とり天弁当というのを買い、
一応クリスマスってことでケーキっぽいパフェも買っておいた。
とり天が想像以上に旨いのだ。鶏の天ぷらなんだろうか。
やるな大分、出てから良さに気づいた。
21時に到着するハズだったこの町に、18時過ぎに着いてしまった。
予想外にいい道だったおかげだが、時には逆のことだってある。
距離は意外にも38キロしか走っていなかった。
出発が遅かったことだけでなく、
今日の行程は自分の感覚よりも険しいものだったのかもしれない。
今日の決断は良い結果を残して終わったが、明日はまたわからない。
今はとにかくよく寝て、自分の可能性を高めておくことだ。