阿蘇 こぼれびのくに

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

自慢ではないが、目前に目標がある時の俺は速い。
日頃は決して活性化することのない謎のエネルギー源、
名づけてナゾコーゲンが燃えるのだと俺は勝手に考えている。

道のりは下りがメインなので、多少の向かい風は気にしない。
途中でいつもの俺なら絶対に跨がって写真を撮ってそうなアルパカ?の像もスルーして、
脇目もふらずに待ち合わせの長陽駅を目指す。

それでも小休止ぐらいは必要だ。
信号待ちのついでにコンビニに立ち寄れば、
サービスマンっぽい格好の青年から声をかけられる。
自転車が好きという彼、
マウンテンユニサイクルという怪しい物体にがぜん興味をひかれている模様。
熱いまなざしであれこれと尋ね、試乗にもトライしてみる。

「でもこれ、スポーツ的な乗り物なんですよね。
移動には向きませんよね?」

き、きた、チャンスだ!
「そんなことないですよ!」と機敏な動きでザックをひっくり返し、
背後の日本縦断プレートを見せつける。

「これで北海道から来ましたから。」

ああ、ああ!
今の俺、超カッコいい!
一度でいいからこんなセリフを言ってみたかったんだ!
期待どおりに彼は目を丸くして驚いてくれているし、
俺としてはもう感無量、大満足なのでここで旅を終えてもいい。
いやいや、長陽駅に行かなくては。

ナイスな青年と別れ、俺はさらにゆく。
阿蘇山を一周する道はさすがに距離が長いが、
道もいいことだし夕方までには着くだろう。
ってところで、急になくなる歩道。しかも路肩狭し、クルマ多し。
やむをえず下りて歩く。
痛いペースダウンだなぁと思っていると、
先のミニパーキングで明らかに俺を待ち受けているカップルが!

懐かしの紙パックコーヒーとどら焼きを差し入れてくれるカップルさん。
お、どら焼きは小国町土産か。ドライブの帰りなんだろうな。
ということは、俺と同じくあの高原を通って来たのだろう。
どうもありがとう!

いやー、なんなんだ一体。
阿蘇市街に舞い降りた途端にこの話しかけられぶり。
クルマの多い国道57号に出たせいなんだろうが、
いきなりこれだとさっきの孤独な山越えは一体なんだったんだと思うな。

そんなこともありつつ、目的の長陽駅に到着。
ここから坂東さん宅に電話を入れ、
奥さんの指示に従ってウォークラリー気分でさらにいくらか進むと、
坂東宅に無事到着だ。

変なヤツの急な出現を奥さんにお詫びしつつ、家に上げていただく。
まず目につくのは薪ストーブだ。
煙突から煙の上がる家をよく見かけるなとは思っていたが、
阿蘇市の冬は東北並みに寒くなるんだそうだ。

坂東家は夫婦とまだ小さな男の子が3人もいて、
子だくさんですねーなどと思ったままの感想を言ってみたところ、
なんとこのあたりでは子どもが3人いるのは至って普通のことらしい。
なんでも2人産んだ時点で3人目はいつ?なんて聞かれるそうで、
3人の子育てにおおわらわな奥さんと、
気ままに一輪車なんか漕いでいる俺が同年代というのは、
なかなか信じられないことではある。
しかし、家族は明るく、笑顔は絶えず、家は広いとは言えないが、温かい。
幸せのひとつのカタチの中に、俺は今お邪魔しているのだ。

その後、近くの温泉まで行って旦那さんと合流。
子どもと遊んだりしつつ、ゆっくりと心身を温める。
先日の湯平に続いて二度目の温泉だ。
自発的に入ろうとはあまり思わないが、やはり風呂はいい。

家に戻ると今度は食事なわけで、
なんと七輪でイノシシの肉を焼いて振る舞っていただいた。
イメージどおり、豚肉よりも脂っこくなく、噛みごたえもあって旨い。

家にこもって一歩も出ず毎日ピザだけ食わせた純粋培養のニートの肉が豚肉なら、
今の俺の肉はイノシシ肉だなーなどと考える。
しかし脂は乗ってないし食うところが極端に少ないので、オススメはしない。

それともう1つ驚いたのは、ムカゴ飯。
ムカゴとは長芋になる実のことだそうで、ご飯と一緒に炊かれている。
見た目も味も赤飯に近いと言えば近い。少し苦い大人の味だ。
そんなわけで4歳の長男カズ君は、
箸で器用にムカゴを取りのぞきつつムカゴご飯を食べているのであった。

後半の旅で初めて飲んだビールと、薪ストーブで暖かい家。
そして温泉でほどよくほぐされた心身を包み込む布団。
心地のよい環境を整えてもらい、あとは寝るだけだ。

いや、旅日記を書かなくては。
今書いておかないと後が大変なんだよ。
しかし…!
酒が、布団が、ぬくもりが…。
ああダメだ。もうダメだ。寝る。

えーと、今日の走行は47キロ。
よし、明日の俺、後は任せた。