6月15日#2 バカも休む

カルデナスの町を出る一歩手前。
木陰で休憩中。
 
キューバの救いは、木陰に入れば少しは涼しいことだな。
しかし照りだすと暑い。
水はドンドンなくなっていく。
まるで自分が、水を飲んでは汗に変換するただの機械になった気分だ。
草むらで座っていると蚊もうっとおしいなぁ。
 
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しばらく休んでちょっと復活。さあ進もうか。
ただひたすらの直線道路を、一輪車に乗ってみたり、歩いてみたり。

最初は暑かった。
だが、途中の団地?でみつけたベンチで寝転がっていると、どこかおかしい。
なにやらにわかに風が強く、ヒンヤリとしてきたようだ。
 
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起き上がってまわりをよく見ると、いつのまにか空が黒い。
これはひょっとして…と思う間もなく、パラパラと雨が。
うわ、雨かー。
キューバで受ける初の雨。
そして、このあたりに雨を防げそうな建造物はない。
 
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しょうがないな。
ザックから折り畳み傘を取り出してさす。
これぐらいの雨ならカッパは着なくてもいいだろう。
 
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小さい傘で靴と服を少しずつ濡らしながら、若干の上り坂を黙々と歩いてゆく。
さきほどまでの強い日照りと比べれば、この程度の雨はむしろ気持ちいいぐらいとも思える。
装備が濡れてしまうのは少し煩雑であるとしても。

坂を過ぎて風が弱まり、雨が小止みになって薄い虹を見かければ、
傘の出番はひとまず終了と考えていいかな。
 
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路面はまだ少し濡れているので、バス停で休む。
キューバのバス停はコンクリート製が多く、とりあえず屋根もあるので休憩には貴重な存在だ。
 
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今回の雨はすぐに止んでくれてよかった。
こんな島で一日中雨に降られるようなことがあれば、結構キツいものがあるだろう。
できれば雨は避けたいが、天気予報も見られないとなると、あとはまさしく天に任せるしかない。

直線道路も終わりが見えてきた。
この道の末端は小さな町で、T字状に突き当たって国道に接続している。
そしてその国道は、東西に長いキューバをほぼ横断している、いわば島の大動脈のようなものだ。
ハバナから海岸線を伝ってまずバラデロに寄り道をした俺は、
ここでようやくキューバ横断のための本道に戻ってきたことになる。
 
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しかしこの国道、大動脈のわりに1車線である。舗装もあまり良くなさそう。
予想外だ。
ハバナからバラデロ間のかなりの部分が整った2車線道路だったことを考えて、
この幹線国道も幅広い道であろうと勝手に想像していたが、アテがはずれたかもしれない。
1車線の細い道だと安心してユニサイクリングに集中できないんだよなー。
やはり空港から首都、そして首都からリゾート地までだけなんだよ、ちゃんと気合い入れて整備してるのって。

次の町はホベヤノスで、ここから15キロ先らしい。
すっかり日が傾いているが、おそらく夜までには着くだろう。
思ったよりも細くてボロかったとはいえ、やはり幹線国道。
昼間にいた直線道路よりもクルマの数がグッと増えた。
やはりこれではなかなか快適にユニサイクリングというわけにもいかず、時間がかかりそうだ。

そうなるとさっきの小さな町で、店が混んでいて入る気にならず、水を買えなかったことが気がかりである。
暑いと本当に水の消費が早い。
はー、ポカリスエットみたいなおいしいドリンクが飲みたい。2リットルぐらいまとめて飲みたい。
旅の間は色んなことを自由に豊かに考えられるだろうと思いがちだが、
現実には水や食料や寝床の心配ばかりしている気がする。

夕暮れ前。
道端で何か作業していた兄ちゃんに声をかけられたが、
俺は走ってるし、何を言ってるかよくわからないし、挨拶だけして過ぎ去る。
直後にバス停があり、そこで下りてちょっと休憩。
するとなんと、さっきの兄ちゃんがバス停まで追ってきた。

好奇心旺盛な様子でベラララララッとまくしたててくるのだが、かなりまったく意味不明。
困りつつも少しずつ解読していると、なぜかさらに人が増えてくる。
どうもみんな兄ちゃんの家族らしく、同じようなテンションでさらに質問攻めにされるのでたまらん。
スペイン語はわからん!って宣言してるのに、
その返答がスペイン語の長文なのだからもうどうしようもない。
ここはとりあえず自分の知っている単語を駆使して乗り切ろうと思い、
ツラツラしゃべったついでにうっかりテンゴセッ(喉が渇いた)て言ってしまったのが運の尽き。

「なんだ、それなら水を飲ませてやるからウチに来いよ!すぐ近くだ!」

ありがたくもこのようなお申し出が…。
自分で言ってしまったことなので仕方がない。来た道を少しだけ戻って、彼らの家に。
途中、みんなのリクエストに応えて一輪車に乗ってみせたことは言うまでもない。
 
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この家族の生業は酪農業だろうか。
田舎の広い敷地の中に、結構ボロくて小さくて狭い家がポツンと建っている。
まさかここに大家族で住んでいるのか?
いや別棟があるのかもしれない…なんて考えているうちに、冷蔵庫から出してきたコップの水が手渡される。

これは…飲んでも大丈夫なんだろうか…。

コップ内の水は一応透明だが、やはり何か白いモノが沈殿している。
皆が注目している。ここは飲むしかない。

ウッ……泥臭くてまずい。

だがこの家族は、孤独な旅人の渇きを癒してやろうとわざわざ水を提供してくれたのだ。
途中で断る勇気もなく、結局は気合いで飲み干す。
うへぇ、後味も悪い。
味はともかくとしても、腹への影響は大丈夫だろうか。
こんなこともあろうかと成田空港で買っておいたビオフェルミン錠、後で絶対に飲もう。

一杯の水に対して俺がこれほど悩み抜いているのも知らず、
妙にフレンドリーな一家は狭い家の中でのんびりとテレビを観ている。
俺に何かをしきりに訴えるのでよく聞いてみると、
今観ているのはバレーボールのキューバ対日本戦であるらしい。
 
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キューバ人の家に不用意に立ち入らないよう、入口からテレビをのぞきこんでみると、
たしかに対戦相手は日本のようだ。
まさかこんなところで日本人を見かけるとはなぁ。

さて、日も暮れかかっている。
一家は玄関先の安楽椅子を勧めてくれてゆっくり休んでいけという雰囲気だが、
こんなところで夜に突入するわけにはいかない。
じゃあ俺は行くよと立ち上がると、
一家の親父は自分の飼っている牛たちを指さして、またもや何かを激しく訴えている。
 
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え、バカがハポンでなんとやらと…!?

何度も聞き返して、ついに意味がわかった。

「あのバカ(牛)の肉は日本に輸出してるんだぞ!」

なるほどねー。バカって牛なんだな。
勉強になったところで。
では愉快な一家よ、さらばだ。
暗くなる前に、ホベヤノスへ!