6月17日#2 雨雲と…エスペランサ
サンタクララへの道。
なんだかいわくありげな鉄橋。
おそらく戦争時の史跡なのだろうが、暑いので辞書を出して訳す気にもならん。
快晴だ。本当に。
今日はほとんど歩かず、一輪車で長めに走っては木陰で休憩の繰り返し。
こうも照りつけられると、炎天下を歩くよりはこの方法がベストだと思う。
さいわいにもこの辺は道端に緑が多い。どこもこうならいいのに。
今日は日曜のせいか、クルマが少ない。
クルマがいないと走りやすいし、どことなくのんびりしているようで、悪くはないな。
もう何度目かもわからない木陰での休憩中。
遠くに見えていたデカい黒雲が、あっという間にここまで来ていた。
これは…雨雲なのだろうか…。
あ、ポツッときた。
ふぅ、そうか。今日も雨か。
カスカハルの町で話したじいさんも、今日の午後には降るとかいってたような気がする。
今度はこの木陰で持久戦かなぁ。
その時。
通り過ぎたピックアップトラックが、大きくバックして戻ってきた。
乗っているのは妙にハイテンションな若者3人組。
後ろの荷台に乗れ乗れと、しきりに誘ってくれる。
おっ、これで雨を回避できるか!?チャンスだ。
だが、まずは人を見て。
ありがとう。てなわけで、乗せてもらおう。
荷台から前を見る。
乗ってから気づいたが、よく考えたら荷台の上なので、雨が降れば濡れ放題である。
でもさすがはクルマ、あっというまにデカい黒雲を置いてきぼりだ。
おーラッキー!
なんだか陽気な3人組。
それにしても不思議なのは彼らが声をかけてきたタイミングだ。
俺はたまたま道の反対側で休んでたのに、逆のサンタクララ方向に進んでいるとなぜわかったのだろう。
彼らは通過してきた町のどこかで俺のことを知っていたのかもしれない。
で、そんな連中が窓越しに渡してくれたビン入りの黄色い液体は。
うわ、ウィスキーかよ!
ドライバーは飲んでないだろうな!?
見る見る遠ざかる黒雲。
こいつの下に入ると面倒なところだった。
そして黒雲を完全に引き離すと、あたりは元どおりのあっつーい天気に逆戻り。
さっきは少しヒンヤリしていたのに、復活の早いこと。
天候の変化や雲の大きな流れなどが、北海道にどことなく似ていると感じる。
この雄大さはそう、大陸的とでも言うのだろうか。
キューバも北海道もただの島に過ぎないんだけどな。
そういえば俺は大陸を知らないのだ。
デカすぎるフィールドを、それとなく避けているフシがあるから。
クルマは次の町、エスペランサで止まる。
今回は10キロのワープだ。
とにかく雨に降られるわずらわしさを回避できたのはよかった。ありがとう!
とにかく雨に降られるわずらわしさを回避できたのはよかった。ありがとう!
キューバの道を旅しているとわかる。
この国は超ヒッチハイク社会で、クルマは自分で呼び止めるもの。
それはキューバ人なら誰もがやっているごく普通のこと。
だから、見知らぬ他人のためにクルマのほうから止まってくれることなど、通常では考えられないはずなのだ。
枝道から違う方向に走り去るクルマを見送って、俺は再び自分の道に向き合う。
エスペランサはガソスタが1つあるだけの小さな町のようだ。
町の出口の上り坂にさしかかったところで、道端に若者たちがたむろしているのが見える。
その中から、リーダー格っぽい美人でカッコイイ女の子が声をかけてくる。
「あなた、英語はしゃべれる?」
まんなかの彼女、このスペイン語帝国においてなぜか英語ペラペラ。
流暢すぎてむしろ聞き取りにくい。
「この国は好き?」
と聞かれて、
「まぁ、好きだけど。(やっとちょっとだけそういう気にもなってきたレベルで)」
そう答えると、彼女は驚くのだ。
「なんで?本当に?だってアメリカ人はー、ベラベラベラ!!」
ごめん、速すぎて聞き取れなかったよ!
とても大事なことを語ってそうだったのに、これは残念。
他の子たちは英語がわからずチンプンカンプンっぽい雰囲気だったので、
彼女とだけじっくりと話すわけにもいかなかった。
おかげで名前も聞いてない。
二人きりならもっとよく話したかった。
エスペランサ、何もなく通り過ぎるだけだと思っていたのに、そうかこんな町だったか。
こちらは併走男子。
話しかけてくるわけでもないが、好奇心むき出しでジーッとみつめてくる。
どうだ珍しいか。
幹線国道沿いにポツポツと町があるキューバの場合、
自転車は町内だけでなく町と町とを移動する乗り物としても結構重宝しているらしい。
ところで、今日は調子に乗ってユニサイクリングしすぎたか。ちょっとマタが痛いな。
暑い環境でマタが痛くなるまで走ってしまうと、汗でこすれたりかぶれたりしてよくないのだ。
今後はちょっとペースを考えたほうがいいかもしれない。
そんなことを考えながら黙々と走っていると。
ああ、そろそろ来たね、サンタクララ。
この街には一体、何が待っていることだろうか。