白い炎

今夜、八戸から船で北海道に行くバイク乗りは俺だけらしい。
まあそんなもんだろう。
俺だって気分で決めただけだし。
原付なら8500円で人馬一体となって北海道に行けるんだからお手ごろだよな。
しかも宿代コミ。
 
このフェリーに乗る時にバイクがいいのは、クルマよりも先に乗れることだ。
そのぶん降りるのは最後になるんだが、別に急いでないのでまったくかまわん。
誰よりも早く乗船し、2等客室(雑魚寝部屋)の隅っこに陣取って、寝袋をかぶって寝る。
で、そこから1度も起き上がらなかった。
買っておいた食料も食わず、トイレにも行かず、海上にいる意識すらないまま、起きたら北海道。
さすがは伝説の一泊便である。
 
苫小牧港はなぜか雨。
北海道に渡れば雨から逃げ切れるハズじゃなかったのか。
だがおかげで気温は高めらしい。7度ぐらい?
道路上に雪もなく、これなら余裕である。
まずは遠回りになるが、札幌でも目指そうか。
最短ルートは高い峠があったりしてまだちょっとヤバそうだからな。
 イメージ 1
 
ほい、札幌。
冬の北海道の公園というのは、完全にタダの雪山か雪捨て場である。
春になってその雪山が硬くなっているらしく、
こんな山脈の上をサラリーマンの皆さまがガッシガッシと歩いて通勤しておられた。
 
それはいいんだが、北海道に来て悩ましいこと。
どれが桜かわからない。
 
もともと北海道には桜の木が少ないような気がする。
少なくとも本州のような鬼気迫る勢いでソメイヨシノを植えている場所はさほど多くはないだろう。
正確に桜の木がどんなものかよく知らなかった自分自身には福島あたりから失望していたが、
ここに来ていよいよ何を信じて進んでいけばいいのかわからなくなってきた。
うーーむ、まぁ、これたぶん桜でしょ。
そんな感じで選び抜いた逸品。たぶん間違ってる。
 
イメージ 2
 
札幌から国道12号というマトモな道を150キロぐらいまっすぐ走っていると、
そのうち勝手に旭川に着いてしまうのだ。
 
普通、旅のライダーというものは北海道に来た初日に興奮度がマックスに達するものだが、
今じゃ北海道在住の俺としては、札幌以降になるといつもの道すぎてこれといった感動がない。
ここまで来ると俺の家ももうすぐだ。
できるだけ、潰れてなければいいなぁ、ぐらいには思う。
 
イメージ 3
 
美瑛町に到着。
ここはやはりまだ雪が多い。
このあたりの桜が咲くのは、ゴールデンウィークの頃。
まだ1ヶ月も先の話である。
 
しばらく家を空けて帰ってくるたびにいつも思うが、今回も意外とちゃんと家はあった。
しかし屋根から落ちた大量の雪が出入り口を塞いでおり、中に入る気には全然ならない。
さらに倉庫のシャッターを開けるのすら面倒だったので、
ここまでよく走ってくれたCD90は、美瑛町最強ニートの誉れ高いヨッシー宅に預けることにした。
 
神戸からここまで、6日かかったな。
距離はちょうど2000キロ。思ったよりは走っていた。
見た目こそお爺ちゃん専用バイクだが、隙のない防寒装備とムリのない乗車姿勢、
そしてツーリングでリッター平均55キロの燃費を醸し出すこのマシンは、まさしくツーリングバイクだ。
旅の相棒としてまったく申し分のない存在であった。
ありがとう!
おかげでまたいい旅ができた。
 
自分の住む町に何時間もいることなく。
バイクを離れ、旭川からバスに乗って札幌へ。
ネットカフェで泊まって、翌朝は電車で千歳空港へ。
あとは飛行機にさえ乗っていれば、自動的に神戸に運ばれる。
バスも電車も飛行機も、オートバイほどにはハシャげない。
きっと自分で方向を変えられない乗り物は苦手なのだろう。
 
行きは6日、帰りは2時間!の空の旅。
あっというまに神戸空港。
1週間ぶりに戻ってきた神戸は、今が桜のピークのようだ。
 
イメージ 4
 
駅から家まで歩くものの、防寒長靴が異常に暑い!
速攻で脱ぎ、久々登場の地下足袋に履き替える。
ふー、これで元の姿に戻った。
 
最初から意図していたわけでもなく、桜ばかり眺める旅になった。
ヒマつぶしという言葉は大嫌いだが、実際はそれに近いムードで始めたものだ。
また会った人。初めて会った人。久しぶりに再会した人。
様々な出会いがあったな。
笑えるぐらい嬉しいことの連続でもあった。
これまでも今回も、出なければよかった旅というものはない。
 
これだけ桜を、ひたすら追い続けた旅があった。
そういうことは、なかなか、忘れないものだと思う。