ヒビと、宿題。

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通りすがりのオッサンが、
俺のTシャツを見てこう言った。

「あんまりうまくないなぁ。
俺のほうがうまいわ。」

なぜだろう。
愕然とした。

オッサンにはオッサンの見方があるし、
普段の俺ならそんなの気にしない…と思う。

だけど今回は違った。

重く、鈍く、響く。

いろんな感情が沸き上がっては内側で濁り、
沸騰して、床か何か、
思いっきり殴りたい。

あれから数10分たった頃だろうか。
去ったハズの方向からいつのまにかオッサンが戻ってきて、
俺にこう言った。

「もっと立体的に描けよ。」

…ぐ…ぐぁぁ…。

オッサン、頼むから、もう戻ってくるな。
今度来て俺に何か言ってみろ、
たぶん俺は、キャラが変わってしまうぞ…。

幸か不幸か、オッサンはもう来なかった。
だが俺の濁り具合はもうどうしようもなかった。

何のためにこんな旅をしてるかわからない、
とずっと言い続けてきて、
今もそれは変わっていないが、
少なくとも、
あんなことを言われるためじゃなかったハズだ。
何でこんなに、
あんなオッサンの一言で心を掻き乱されなければならないんだ。

最初はだって、
Tシャツに奇抜な文字を書いて売れるか売れないか、ていう、
ただそれだけの旅だったハズなのに。
いつのまに、Tシャツに描く絵に、
こんなにも重い意味を持たせてしまったんだろう。

…俗に、逆境は人を強くするというが、
今の俺のコレは、
点数で言えばどれぐらいなんだろうね…。
強くなるぞ、きっと。

心は次第に冷静さを取り戻しはじめた。

売れないという現実こそ変わらないが、
ま、それがどうした。
Tシャツが売れないからって、
今日明日中に飢え死ぬわけでもない。
ただこうやってブログなんか書いてる手前、
カッコ悪いってだけだ。

もう11時で、松山の商店街に人通りはほぼない。
今日はもう撤収しよう。
四国は、俺を甘やかしてはくれなかった。

撤収作業を始めつつある俺の前に、
酔って少し顔の赤い、サラリーマン風の青年がヌボッと立ちはだかった。
なんだろうこの人。

Tシャツを見ていく人のパターンとしては、
若い女の子は「スゴイねー。」とだけ言って通過。
オッサン系は、無言でしばらく見て、立ち去る。

珍しく彼は当てはまらないな。
そのうち、こう言って話しかけてきた。

「僕は、四国一の社長になりたいんです。」

彼は酔ってはいたが、
語る言葉に曇りはないようだった。
彼は本当に、四国一の社長になりたいんだ。
家族もいる。もうすぐ3歳の息子も。
でも今日は一日中営業して、まったく成果がなかった。

彼はしばらくTシャツを選ぶそぶりを見せていたが、
今の俺に、彼の心を揺さぶるような絵は描けなかったようだ。

そこで彼は、どうしたと思う。

「これからの旅で、今の僕に合う絵がもし描けたら、
いつでもいいから僕に送ってください。」

彼はそう言って、俺に3000円を託したのだった。

…震えた。

今まで生きてきて、これ以上に震えた宿題はない。

「もし忘れたらそれでもいいですから。」

なんて言ってくれたが、

忘れるわけないだろうが!!

描くよ。描く。
九州にいる間に描ければいいが、
もしダメでも、この旅の間に必ず。
将来四国一の社長になる一児のパパにふさわしい絵を描いて、
俺にくれた彼の名刺の会社の住所に、
着払いで送りつけるよ。

あー、アタマがいっぱいだ。

俺の四国に色気はまるでなかったのに、
男気だけが妙にあったんだよ。
いやこれは四国に限らんが…。

行くしかないな。
続けるしかなさそうだ。

次は、九州へ。