湯平奇譚
大分市から湯布院へと向かう途中の山の中に、
湯平(ゆのひら)温泉という小さな温泉町があって、
実はここは、生まれも育ちも神戸な俺の、
なぜか本籍地だったりする。
今は無人の父方の実家を調査すべく寄ったのだが、
写真の家はさすがにかなり朽ちておった。
小学生の頃は毎年夏休みにはここに来て、
宿題もせずに一日中遊んでいたものだ。
しかしそんな感慨に耽るスキもなく、
近くのブルーベリー畑で野良仕事中のお婆さんに全力注視されていることを悟った俺は、
極めて明るく好青年風な挨拶を返すのだった。
上着5枚重ねで。
思いっきり怪しまれるかと思ったが、
彼女は父をよく知っていて、
それに俺が似ているという理由であっさりと警戒を解かれた。
野性のセキュリティシステムが発動したという他はない。
その数10分後、
俺は彼女、銀子さんの家で昼メシをご馳走になっていた。
銀子さんは悠々自適な一人暮らしをされており、
こんな怪しい客をも歓迎してくれている模様だ。
たらふく食わせてもらい、
次は温泉に入ってこいと言うことで、
お風呂セットを持たされて、
こうして今、湯平温泉街にいるわけだ。
しかしここ、
温泉街と言っても、実に狭い。
いくつかの宿と、
公衆の温泉が6、7軒ぐらい。
だが銀子さんによれば、その公衆温泉が、
最近になって国の補助によりリニューアルされたそうだ。
確かに浴槽が小綺麗になっていた。
しかし俺が最も驚嘆したのは、
最初に入った公衆温泉の内部構造が、
何かとても絶妙かつ深遠な天の配慮によって、
女風呂が、見えそうで見えないという、
超ギリギリの絶対視覚認識空間を創り上げていたことであった。
何を言っているのかサッパリわからないだろうが、
平たく言えば、
のぞこうとしたらのぞけるんじゃないのかコレは!?
…という気分にとてもなる、と言うことだ。
むう。
このニュー風呂場を設計した人は、きっと設計中に神がかっていたに違いない。
そう思わせる何かが、そこにはあるのだ…。
何を言っているのか、サッパリわからないだろうが。
その後も妙なる神技的設計、
もしくはさらなる天使のいたずらを見出だすべく、
広くもない湯平温泉のあちこちを探索していたら、
いつしかこんな時間になってしまっていた。
昼間は湯布院でTシャツを広げようと思っていたのに、
とんだ大誤算である。
煩悩の煩悩による敗北である。
ただしここで一つだけ、言っておかねばならない。
そう、銀子さんも語っていた。
平日の湯平温泉に、人はいない。
俺のあの情熱に満ちた研究活動はつまり、
ある種のファンタジーであったのだ。
ああ、そう書く俺の横を、
湯上がりの地元婆さんお二方が、
とぼとぼと歩いてゆかれる…。
そうか、これはファンタジーではなく、
哀愁なのだった。
エレジイというヤツだったよ…。
それにまあ、雨も降り出して。
雨も降り、老婆以外に人のいないこの小温泉はまさに、
俺を閉じ込めるための、
煩悩の檻、といったところだろうか…。
…。
アホなこと書いてないで、そろそろ動こう。
まずは銀子さんちにお風呂セットを返しに行って、と。
湯平(ゆのひら)温泉という小さな温泉町があって、
実はここは、生まれも育ちも神戸な俺の、
なぜか本籍地だったりする。
今は無人の父方の実家を調査すべく寄ったのだが、
写真の家はさすがにかなり朽ちておった。
小学生の頃は毎年夏休みにはここに来て、
宿題もせずに一日中遊んでいたものだ。
しかしそんな感慨に耽るスキもなく、
近くのブルーベリー畑で野良仕事中のお婆さんに全力注視されていることを悟った俺は、
極めて明るく好青年風な挨拶を返すのだった。
上着5枚重ねで。
思いっきり怪しまれるかと思ったが、
彼女は父をよく知っていて、
それに俺が似ているという理由であっさりと警戒を解かれた。
野性のセキュリティシステムが発動したという他はない。
その数10分後、
俺は彼女、銀子さんの家で昼メシをご馳走になっていた。
銀子さんは悠々自適な一人暮らしをされており、
こんな怪しい客をも歓迎してくれている模様だ。
たらふく食わせてもらい、
次は温泉に入ってこいと言うことで、
お風呂セットを持たされて、
こうして今、湯平温泉街にいるわけだ。
しかしここ、
温泉街と言っても、実に狭い。
いくつかの宿と、
公衆の温泉が6、7軒ぐらい。
だが銀子さんによれば、その公衆温泉が、
最近になって国の補助によりリニューアルされたそうだ。
確かに浴槽が小綺麗になっていた。
しかし俺が最も驚嘆したのは、
最初に入った公衆温泉の内部構造が、
何かとても絶妙かつ深遠な天の配慮によって、
女風呂が、見えそうで見えないという、
超ギリギリの絶対視覚認識空間を創り上げていたことであった。
何を言っているのかサッパリわからないだろうが、
平たく言えば、
のぞこうとしたらのぞけるんじゃないのかコレは!?
…という気分にとてもなる、と言うことだ。
むう。
このニュー風呂場を設計した人は、きっと設計中に神がかっていたに違いない。
そう思わせる何かが、そこにはあるのだ…。
何を言っているのか、サッパリわからないだろうが。
その後も妙なる神技的設計、
もしくはさらなる天使のいたずらを見出だすべく、
広くもない湯平温泉のあちこちを探索していたら、
いつしかこんな時間になってしまっていた。
昼間は湯布院でTシャツを広げようと思っていたのに、
とんだ大誤算である。
煩悩の煩悩による敗北である。
ただしここで一つだけ、言っておかねばならない。
そう、銀子さんも語っていた。
平日の湯平温泉に、人はいない。
俺のあの情熱に満ちた研究活動はつまり、
ある種のファンタジーであったのだ。
ああ、そう書く俺の横を、
湯上がりの地元婆さんお二方が、
とぼとぼと歩いてゆかれる…。
そうか、これはファンタジーではなく、
哀愁なのだった。
エレジイというヤツだったよ…。
それにまあ、雨も降り出して。
雨も降り、老婆以外に人のいないこの小温泉はまさに、
俺を閉じ込めるための、
煩悩の檻、といったところだろうか…。
…。
アホなこと書いてないで、そろそろ動こう。
まずは銀子さんちにお風呂セットを返しに行って、と。