4月5日(月)その2 わたしがわるうございました。

レイキャヴィーク市街の主要道路は2車線で広く、
クルマの流れとスピードは、日本ならどう見ても高速道路である。

側道や歩道があればそこを行き、
時々そんな道が途切れて無いような場合は、いいのかどうかは知らないが、
しょうがないので完璧ハイウェイ状態の道の隅っこをビビりながら走ったり歩いたりする。

今朝は寒かったのに、昼間になると暑い。
気温はそうでもないのだろうが、
一輪車に乗ってると意外と運動量が多くてすぐ暑くなる。

そこで、ガソリンスタンド兼用のコンビニみたいな店に入って、飲み物と軽い食料を買う。
アイスランドの普通の店で買い物をするのはこれが初めてだ。

基本的な品揃えやシステムは日本と同じみたいで安心したが、
レジでは買い物客がかなりの確率でカードを使うことに驚く。
アイスランドはカード社会だとは聞いていたが、
ちょっとした物を買うのでもカードを使うとは知らなかった。
ここまで来ると、もはや現金は一切持ち歩かない主義の人も多そうだ。

標識を頼りに街中を進み、
どうにかアイスランドの国道1号線、リングロードに出ることができた。
アイスランドを1周しているこの道を、反時計回りに進むことにする。

やれやれ、これからようやくレイキャヴィークの街を出て、
ユニサイクルツーリングの本番というところだ。
街の玄関口にあたるっぽいガソスタを抜け、しばらく走る。

…おやおや。

イメージ 1

この先、なんにも無さそうな予感…。

それになんだこれは。
街を出た途端に道は1車線になり、同時に舗装の質が急に悪くなった。
路側帯の幅はそれなりにあるものの、外に向かって傾斜していて走りにくいことこの上ない。

そしてなにより、クルマが多い。

やたら頻繁に、ひっきりなしにクルマが通る。
片側1車線の道路で、路肩は傾斜して走りづらく、
無数のクルマが、ハイウェイ万歳なスピードでビュンビュン飛ばしまくり!

…怖ッ!!

とても大荷物を背負って一輪車なんか乗れる気がしない。

アイスランドって、人口30万人だろうが!?
そんなに少ないハズなのに、このクルマの数はなんだ!?
ほとんど国民全員がクルマに乗って俺の前を行き交ってるんじゃないか!?
なぜだ…アイスランド人達は一体何の用事でこんなに走りまくっていると言うんだ…。

まいった。
こんなハズじゃなかった。

昨日走った空港からの道は、立派な舗装かつ2車線で路肩も広く、
これなら荷物が重くてフラフラしててもなんとか走れそうだ、なんて思っていた。
でもここは…。
この荒れた舗装に途切れなくガンガン来るクルマの列…。

ダメだ、とてもノンキに一輪車を漕げるような状況ではない。
ついでにまた右ヒザが痛くなってきた。
コペンハーゲンを歩き回って痛くなったヒザなのに、
なぜか歩くより一輪車に乗っている時のほうが痛みが激しいというのが始末におえない。

そんなわけで、黙々と歩かざるをえなくなった。

背負った20キロのリュックが重い。肩に食い込む。
押して歩くユニサイクルもこうなってはジャマだ。
距離が、まったく進まない。
少し歩いては休み、を繰り返す。
この5キロに2、3時間ぐらいかけてる気がする。

まだレイキャヴィークを出たばかりだと言うのに。
こんな状況が待っているとはな。
まったく進まない…。

イメージ 2

道だけが、どこまでも続いている。

レイキャヴィークから50キロぐらいの位置に街があって、
さらにその先を10キロぐらい行くと、セルフォスという比較的大きな街に着くらしい。

俺は今日なんとなくそのセルフォスまで行くつもりだったんだが、
この調子ではとてもムリだ。
また昨日のように、途中で暗くなってしまうだろう。

左右はひたすら荒野のように見えるが、簡単な柵があったりもするので、
おそらく馬か何かを放牧しているのだろう。
時々ポツンと農家のようなものが建っていたりする。

もしここで暗くなったら、最悪この道と柵の間ぐらいにテントを張るしかないだろうか。
さっきから歩き続けで疲れている上に、一番困っているのが、水と食料だ。
ガソスタ兼用の店で買ったジュースはもうほとんど残っていないし、
食料に至ってはまったく無い。
街を出たらいきなりここまで何もないとは思わなかったし、
これほど進むスピードが落ちてしまうとも思ってなかったせいだ。

あまりにも見通しが甘過ぎた…。

しかし、こんなところにジッとしててもしょうがない。
とにかく歩かなければ。

クルマは依然として多い。
もはやアイスランド中の全てのクルマを目撃したような気になる。
クルマの流れの切れ目を狙って時々は一輪車に乗ってみるが、これではまったく長続きしない。

まずいな、もう暗くなり始めてきた。
それになんだが、風が強くなってきている。寒い…。

この先ずっと、こんな感じで旅を続けなければならないんだろうか…。
だとしたら、だとしたら…。

そんな時、通り過ぎたクルマが、俺の少し前で止まった。

ドライバーは優しそうなおばさんだ。

「あなた、大丈夫?良かったらセルフォスまで乗せて行ってあげるわよ。」

え、セルフォスまでクルマで!?
思ってもみなかった、ありがたい提案だ。
こんな何もないところで夜になってしまったら、昨日よりもっと厳しい状況になるのは間違いない。
今ここでクルマに乗せてもらって、早目に街に着けばなんとかなる。
しかし…。

「俺は大丈夫!どうもありがとう!」

なぜか、反射的にそう言ってしまった。
心配そうな笑顔を残して、彼女は走り去る。

………。

なんで断ったんだ!!!
余裕かましてる場合じゃないだろうが!!!

本当に、なんで断ったんだろう。
アイスランドに来て以来、クルマの運転手に大丈夫かと聞かれて大丈夫だと答えるのは、
ほとんど条件反射のようなものになっているとしても。

これはやはり。
俺はやっぱり、自分の力だけで一周したいんだ。
人の助けを借りることなく。

クルマに乗せてもらったりなんかしたら、

「一輪車でアイスランドを一周した!」

なんて、堂々と言えなくなる気がする。
それがイヤなんだ。

確かに、そうだ。
こんなことを始める気になったのも、そもそも自己満足のためである。
せっかくこんなところまで来たのに、中途半端なことはしたくない。

しかし…。

今、かなり切羽詰まっていることもまた事実だ。
水と食料はもう無いし、疲れているし、寒い。
もう暗くなりつつあり、強い風が吹きはじめている。
このまま歩いて進んでいっても、マトモな時間に街にたどり着くことは、ない。

…よし。
もし次に誰か止まってくれることがあれば、あっさり乗せてもらおう。

そんなことを茫然と考えながら歩いていると、
道路脇に何か建物があるのを見つけた。
周囲になんにもないだけに、たまに何かあるとよく目立つ。

あれは、ひょっとして。

イメージ 3

まさかの店!
ガソスタ兼用の、ドライブインみたいなもの。

まだ営業しているようなので、早速入る。
ペットボトルのジュースと食料を買い、1本はその場で飲み干す。
ノドが乾ききっていた。
嬉しいなんてもんじゃない。
助かった…。

体力と気力を少し回復して、ふたたびリングロードに戻る。
時間は午後6時前。
さすがにクルマも少し減ってきた。

だが、長い登り坂をようやく登りきってみたら、

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こんな道が待っていた。

おい!
路肩、狭すぎ!!
しかも横風が強い!!
こんなトコ走れるか!!

これはつまり、まだひたすら歩けってことなんだな。
せっかく回復した気力もいきなり萎えた。
やれやれ…。

その時。
またしても、クルマが。