4月8日(木)その1 この辺が数日後の大噴火でエライコトになる地域。

昨日は暖かかったが、夜はやはりちと寒かった。
早朝に目が覚めたら身体が妙に冷えているので、成田空港で買った顆粒の葛根湯を飲んでみる。
アイスランドの隅っこで風邪なんぞひきたくない気持ちでいっぱいだ。

1600円のテントは安物だけにフライシート(テントの上にかける防水用シート)が付属せず、
代わりにホームセンターで買ったそれっぽいシートを持参してはいるのだが、
こう毎晩寒いとたまらんので次からはそれを被せてみるとしよう。

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朝6時半の道にクルマはほとんど通らない。
距離を稼ぐにはいい時間帯ではある。
ちょっと風はあるが…。

…と思っていたら、いきなり雨が降ってきた。

おいおい、雨かよ!
すぐ止むかと思ったらそうでもなく、結構しつこい。

やむをえずポンチョ型の怪しいカッパを着る。
ためしに一輪車に乗ってみるが、雨と風とバタつくポンチョが邪魔すぎてロクに乗れない。

やばいな、これからヴィークまで60キロもあると言うのに、ここで雨とは。
いや、ここは防水シートもかけずに寝てた夜のうちに降らなくて良かったと言うべきか。
ともかく、雨脚が意外に強い。
しょーもないポンチョカッパは早くも浸水の気配だ。
このままだと全身ズブ濡れは時間の問題だろう。
うげーやれやれ!

…てな時に、ちょうどよく目の前で止まる緑のレンタカー。
メガネの青年が窓を開けて話しかけてきた。

「やぁ!もしかしてそのユニサイクルで旅をしてるのかい!?スゴイな!
 でも、どうして歩いてるの?」

「この雨と風じゃマトモに乗れないんだよ。突然の雨にはまいるよ。」

「そうか。じゃあクルマに乗っていくかい?ボクはスコーガフォスまで行くよ。」

雨の中、これ以上一輪車を押して歩いて何が楽しいのか!
ということで、乗せてもらうことにする。
だんだんクルマ乗りグセがついてきてるな俺。慣れというのは怖ろしい。

彼はピーター。アメリカ人。
アメリカでアウトドア関係の仕事をしている、自称アイスクライマー。
アイスランドには観光で来ており、
これからスコーガフォスのトレッキングルートを登って噴煙モクモクな火山を観に行くんだそうだ。

ふーん。
昨日のラッツィといいこのピーターといい、
なんでみんなそんなに火山見物が好きなんだろう。

ピーターは、こんなエキサイティングなものを見られる機会はそうないよ、
よかったら君もどうだい?みたいなことを言ってくれるのだが、
俺は不思議とそういうものにあんまり興味がなくてねぇ。

「山登りは疲れそうだし、俺はユニサイクルで走るので精一杯だよ。」

とだけ言っといた。我ながらつまらんヤツだ。

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うえー、雨すげぇ。
ありがたいよピーター…。

プジョーか何かのレンタカーの中では、ラジオだかCDだかのアップテンポな曲が鳴り響いている。

「君はユニサイクルで走っている時、音楽を聴いたりしないのかい?」

ふいにピーターが聞いてきた。

「しないよ。静かなのが好きでね。」

静かなのが好きなのは本当だが、
音楽を聴きながらフラフラ一輪車なんか乗ってたら、いつクルマにハネられるかわからんだろうが。

「そうなんだ…。
 音楽もなしにこんなところをずっと一人で旅するなんて、ボクには信じられないよ。
 孤独を感じないかい?」

「そうでもないよ。」

せっかくのなんにもないアイスランドに、お気に入りの音楽なんか持ち込んだら、
いつもの自分と同じ世界に埋没するだけのような気がしてイヤだ。
音楽は、良くも悪くも感情をコントロールしてしまうから。
それより、できるだけ今いるこの世界をじかに感じて、
そこからフッと出てくる物思いにニョニョーンと浸りたい、と俺は思う。
でもこんなややこしいことをアメリカ人相手にマズい英語で力説してみるほどの情熱もまた、ない。

そんなことを考えているうちに、クルマはスコーガフォスに着いた。意外と近い。
しょーもないペラペラ地図では特に何も書かれていなかったが、
どうやらここはトレッキング用の観光地としては有名らしく、
ロッジやカフェなどの施設が一通り揃っているちょっとした町のようなところだ。

カフェでコーヒーでも飲まないかい?とピーターが誘ってくれるも、
どうやらカフェはまだ開いていないようだ。
かと言って雨はまだやみそうもない。

クルマの中でカフェの開店を待つというピーターを残して、
雨のなか、ユニサイクルで少し周囲を散策してみる。

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さすが観光地だけあって、
アイスランドには珍しくトイレ完備。
背後に見えるのがスコーガフォスだろうか。
雨だし、近寄って見物するようなことはいたしませんけど。

ちなみにアイスランド語で『フォス』てのは『滝』という意味らしい。
まぁ、それぐらいは覚えた。

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意外と居心地よさげなトイレ棟。
雨もしのげるし、ここなら余裕で一泊できる。

だがいくら雨とはいえ、まだ朝の7時半ですよ。
どうしたもんかなぁ…。

さらに30分ぐらい雨宿りしていると、少しだけ雨が弱まったような気がしてきた。
ん、これぐらいなら行けるかな?
再び濡れたポンチョ型カッパを着つつ、念のためもう少し様子をうかがう。
よし、大丈夫だろうたぶん。

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雨が弱まってきたから、俺は行くよ。
ありがとうピーター!

よい旅を。

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さて、再び一人旅に戻りましたよ。

雨は降ったり止んだり。
海沿いに近いところを淡々と進む。

ここまで来るともう車が通ることもいよいよなく、
3分ぐらいは来ないことがザラなので、道は右側だろうが左側だろうがどこでも走り放題ではある。
でもこの雨がどうにもいただけない。
最初ほど強くないのがまだ救いだ。

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アイスランドに来て5日目。
ここに来てついに雨か。
ポンチョカッパとズボンは思ったほど頼りにならない。
やっぱカッパに出費をケチったのは失敗だったか。

軽くてカッコ良くて穴があいてて風も通す自転車用のメットではなく、
あえてヤボったい原付用メットを被ってきたのは、
新しいメットを買う金がなかったというのもあるが、
これだと雨が降っても大丈夫と思ったせいもある。
確かにそういう意味では効果アリだ。
肝心の身体が濡れてるので結局どうかと思うんだが。

あぁ、ヴィーク遠いなぁ。まだかなぁ。

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やたらと鳥の群れが目につく。
どっかから来て、どっかに行くんだろう。

鳥は自由でいいと言う人もいるが、
あいつらはあいつらで、たぶん前しか見てないと思うなぁ。