4月13日(火)その1 めぐる光

日本にいる旅仲間がメールで知らせてくれた情報によると、
困ったことに、これから金・土・日と天気が崩れるようだ。

今日は火曜日なので、3日後からがマズいことになる。
金曜日は雨、土曜と日曜は雪。しかもマイナス5度の予報!!

これは…マズいなぁ。

とりあえず次の町には、今日か明日には着きそうだ。
でも3日後から雨ということは、そこからさらに次の町へ出発するのは危ない。
200キロの旅を終えても次にはまた、100キロ単位の無補給ルートが待ってるからだ。

そうなると…。
次の町で、しばらく天気を待ったほうがいいかもしれない。

最近のペースを考えると、先を急ぐ必要は、たぶんない。
身体が疲れているのかどうも調子が上がらないし、
それに何より、雨と雪とマイナス5度!という予報はあまりに脅威だ。

よし、そうしよう。町に着いたらしばらく休養だ。
そうなると、今日はもう、ゆっくり進めばいい。
今日中にムリして町に着くこともないのだ。
今まで先を急いでばかりいたが、たまにはアイスランドの旅を楽しんでみるとしよう。

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まずは朝から水を汲む。
冷たくてうまい。
これぞまさしくアイスランディック・ピュア・ウォーター。
店で売ってる同名のミネラルウォーターと、どう違うのかよくわからんぐらいだ。

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次はアイスランディック・ホース。
片目が隠れるぐらいの前髪が昔のイケメン風味。

こいつらはアイスランドの田舎を走っていると無数に見ることができるが、
写真に撮ったのはこれが初めてかもしれない。
だってこいつら、人のことをやたらジーッと眺めるので落ち着かないんだ。

そんなに珍しいか、日本から来たユニサイクル・ツーリストが!
うむ、きっと珍しいのだろう。
そんな時には一輪車に乗ってみせ、彼らに一生の思い出をプレゼントすることにしている。

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急ぐ必要もないということで、あっちこっちでよく休むのだ。
この暑い好天が今日までとはなぁ。

今日は風向きがよく変わる。
風は、本当に重要だ。
調子の良し悪しが、体調ではなく実は風向きのせいだった、なんてこともよくある。

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今日のルートはかなり海に近いところを走る。
これほど海に近づいて走ることは、これまで意外となかった。

晴れた日に海を眺めながら走るのは、やっぱり気持ちがいい。
潮騒の囁きが、素敵だ。

そういえば、さっき久しぶりにドライバーに話しかけられて写真を撮られた。
地元のカメラマンで、なぜか大きな鼻に血管が透けて見えてるオッチャン。

車内には色んなカメラ機材が積まれていて、
これはすべて日本製なんだ、日本のカメラは性能がいい。そう言っていた。

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携帯をソーラー充電する秘密兵器。
しかしマトモに使うのは今日が初めて。
これまではソーラー充電をしなくてもなんとかなっていた。

アイスランドは日が長いからきっと充電もバッチリ!という計画なんだが、
これで本当に充電されているのだろうか。謎だ。

太陽が移動するに従って位置をズラさなければ無意味というところも誤算だった。
メットに取り付ける可変式のホルダーみたいなのを作っとけばよかったな。
でも想像するとなんかこう、いかにも怪しい電波を受信してる人みたいでイヤだ。

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小高い丘に登って、
ついさっきまで走っていた、ウンザリするほど長い直線道路を見下ろす。
つらかった…あの直線。
長い直線のくせに、微妙に登り坂になってるところがまたヤラシイ。

遠くの山と山の間に見える白いのは氷河だろう。
ここ数日走ってるエリアは、あっちゃこっちゃから氷河がハミ出しててもう見慣れた。

しばらく昼寝をした。
自分の部屋にいるはずが、目が覚めたらアイスランドだった。

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はぁ。疲れた…。
もう18時か。
今まで、だましだまし走ってきた右ヒザの痛みが結構きてるなぁ。

これから大きな湾をグルーーーーーッと回らないといけない。
まっすぐ行けたら近いのに、と思う。


やがて道のりは湾にさしかかる。
この先に目指す町があるのだが、ムリして今日中に着くことはない。
もうどこで寝ても構わないという状況なのに、意外と気に入った場所がない。
今日はもう疲れた…。

登り坂があった後は、たいていすぐに下り坂がある。
少々急なその坂を、脚力でスピードを殺しつつ、下る。

その時、突然、

右ヒザの皿のあたりに、ピッキーーーーーン!!!という鋭い痛みが走った。

え、なにこれ!?
この痛み、普通じゃない!!

ともかく坂を下り終え、路肩に荷物と身体を投げ出して、痛みに耐える。

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やがて痛みはおさまってきたが、しばらくこの状態から動けない。

何だったんだあれ…。
今まで痛い痛いと思ってた右ヒザが、ついに爆発したのか。
でもあの痛みは、今までの鈍い痛みとはまったく違う種類のものだった。

ふーー、まいったな…。

あの尋常じゃない痛みからして、
ひょっとするともう、一輪車に乗って旅を続けられなくなるのだろうか。
少なくとも今日はもう、一輪車に乗るのはやめよう。
ヒザをこれ以上酷使しないためと、またあの痛みを味わわないために。

長い休憩を取った後、立ち上がってみる。
どうやら、歩くぶんには大丈夫らしい。

このあたりは道の左右が湿原のようになっていて、テントを張るには不向きだ。
いずれにせよ、もう少し歩いて移動しなければならない。

もうじき19時。
太陽が俺の左後ろの山脈の上に乗っかって、オレンジ色になりつつある。
そろそろ夕暮れ時だろう。

自分の目の前に長い影を映しながら、一歩一歩、ただ歩くしかない。