4月15日(木)その1 アイスランドの外国人たち

キャンプ場の朝。


少し寒いが今朝もいい天気だ。
こんなんで本当に明日は雨なんだろうか。

昨日1日休んだだけなのに、甘いものをあまり受け付けなくなっているのに驚く。
ハプンのスーパーで色々買ったクッキー&ビスケット(NIPPON含む)を食べようとしたら、
そんなにたくさんは要らないと身体が拒否するのである。

運動しないと、急に要らなくなる。即応性の高い身体と言わざるをえない。
ムダのない身体!そりゃ痩せるわな。

さて今日は何するかなー、と思ったら、ヴァレリオが迎えに来た。
ローザの出勤の途中だというので、慌てて適当にテントを撤収する。

3人が乗る車内では、英語とイタリア語とアイスランド語がごちゃごちゃになる。
ローザは昔イタリアに住んでいたことがあるらしく、
アイスランド語とイタリア語が喋れて、英語はあまり得意ではないらしい。
ヴァレリオはイタリア語と英語。アイスランド語はほとんどダメ。
そして俺は、堂々たる中学生英語だけが武器だ。

アイスランド語のラジオの内容をローザが聞き取ってイタリア語でヴァレリオに説明し、
それをヴァレリオが英語で俺に説明したりするので大変ややこしい。
でも今までほとんど耳にする機会のなかったイタリア語会話のリズムは、なんだか愉快だ。

ハプンのショッピングモールにある小さなカフェテリアで、ヴァレリオと朝食。
今日も天気を待つ以外にこれと言ってやることもない俺だが、
どうやらヴァレリオのほうも結構ヒマらしい。
これでも普段はそれなりにローザの仕事の手伝いでもしているのだろうか?
ひょっとしたらローザと相談して、わざわざ俺のために時間を作ってくれているのかも知れない。

そんなヴァレリオは、コーラを飲まない。

「あれは毒だよ。身体に良くないモノだ。」

「俺もそう思うよ。でも時々やたらと飲みたくなって飲むことはあるな。
 たまーにならいいんじゃないの。」

「あの会社はかなり危険なんだ。アメリカの工場で、従業員が何人も死んでいるのを知ってる?」

「マジで?でもコーラの工場で人が死ぬかね。コーラのプールで溺れるのか?」

「とにかく、あの会社は異常だよ。
 家族で幸せそうにコーラを飲んでるCMなんかを見ると怖ろしくなる。」

「世界のどこに行ってもコーラが飲めるという点では、確かに異常かもな。
 パプアニューギニアはコーラにほとんど占領されてたし、アイスランドも近いものがある。」

「ほら、あの老夫婦を見て!2リットルのコーラの6本パックを持って歩いてる!
 わざわざスーパーまで来て、あれだけを買いに来たのか!!」

2人で爆笑。

ヴァレリオは、イタリアで七星蟷螂拳を習っていたらしい。

「蟷螂拳って、カマキリのヤツか。よくイタリアでそんなの教えてくれる先生がいたな。」

「先生はイタリア人だけど、中国の高名な師匠に教わったんだよ。
 ボクは、中国や日本の『気』というものに凄く興味があるんだ。」

「ふーん。西洋人って、気という存在をかなり誤解してるように思うけどな。
 ドラゴンボールみたいなモノだと思ってないか?」

「まさか。でも神秘的なものだと感じている。瞑想もよくするよ。
 いつか日本に行ったら、気の勉強もしたいと思ってる。」

「ほー。個人的には、神秘的というか、もっと自然で当たり前なものだと思うんだが。
 まぁ、日本に来ることがあったら、自分の目で確かめてみるのが一番だろうな。」

そこからなぜか、イタリアの激しい貧富の差の話題になったりする。
まったく、イタリアでは話題の豊富な人間以外は生きていけないのだろうか。
今までこれほどしつこく一人の外国人と話したことはなかったので、色々と興味深い。

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今日はヴァレリオの発案で、クルマに乗って近くの山までやって来た。
湖の一部はやっぱり凍っている。まだまだ寒い。
ここでこれじゃあ、北部はどうなっているんだろうか。不安ではある。

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ヴァレリオはイタリアでネイチャーガイドをやっていたせいか、
自然と人間の関係についてよく話す。

「アイスランドでは自然公園にもよく柵を置いて自由に歩けないようにしている。
 ボクはそれがよくわからない。」

「観光客がたくさん来て荒らすからじゃないのか。日本なんか柵だらけだぞ。」

「でも、動物は自由に出入りするんだ。人間だけを入れないなんて、かえって不自然な気がする。」

「そうかな?俺はアイスランド人の気持ちもわかるけどな。
 観光客には来てほしいが、景観を変えたり醜くしたりはして欲しくないんだろう。」

ヴァレリオが言ってることを、俺が100%ちゃんと理解しているとは言いがたい。
でもどうも、彼の考え方の基本には、
自然と人間、都市と自然、というような、物事を2つに分ける発想があるように思える。

なんでもハッキリ2つに分ける必要があるのだろうか。
その分け方は、わかりすいけど、何か重要なことを見逃している気がする。
アイスランドに来る飛行機の中で『アバター』を観ていて、
善と悪、敵と味方、自然と人工物という強烈な分け方にまったく馴染めなかったことを思い出す。

どっちも、自分の中にあるものだろう。
自分の中の一部が一部を嫌っているだけじゃないのか。

そういえばカフェテリアでこんなことを話したんだった。

「日本は欧米に較べると犯罪が少ないだろう?
 なぜかというと、欧米では強いストレスを感じた人間は、他人に危害を加えがちだ。
 でも日本では、往々にして自分自身を攻撃する。そして時には自殺するんだ。
 ハラキリの現代版みたいなもんだ。」

考え方の根本が、やはり違うのだろう。
でも一方で、人を助けたり親切にしたり、気遣うという感情はどこの国でも同じだった。

日本人以外の人間と付き合いはじめて、俺はまだ日が浅い。
経験しないとわからないことが、まだまだいっぱいありそうだ。

次にヴァレリオが連れて行ってくれたのは、
海に面したやたらヘンピな場所。

「バイキングが隠した宝物でもありそうだな!」

そんなことを言いながら到着してみると、行き止まりにポツンと家が建っている。
家というか、塀で囲まれた小さな集落のような。

「これは、映画のセットだよ。
 バイキングの映画で、1つの村をまるごと再現しているんだ。」

撮影はまだ始まっていないらしく、入口の門が閉まっていて中には入れない。
だが外観を見るだけでも、かなり精巧に、かつ古めかしく作ってある。さすがはプロの仕事だ。

「この映画の話や撮影場所については、トップシークレットなんだ。
 ローザがこっそり教えてくれて、君を案内してあげるように言われたんだよ。」

「へー、それはありがとう。でもそういうことなら、セットの写真は撮れないな。」

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と言うわけで、ヴァレリオだけ撮っとく。

昼食は今日も、スーパーで買った材料を挟むだけの手作りサンドイッチだ。
簡単ではあるが、やはり出来合いのモノより手作りを、というのは健全な発想だろう。
1日3食クッキー&ビスケットで充分だという俺の意見は、たいていどこでも支持されない。

ハプンに戻って、今日もまたハスキー犬たちの散歩をする。

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腰にリードをつけてセミオート散歩。
ローザが飼ってるこの犬たちにも少し慣れてきた。

街の突端にあたるこの場所、なぜかよくクルマが来る。
そしてなぜか、クルマはここでUターンしてすぐに帰っていく。

俺たちはしばらく考え、
あれはきっと、アイスランド人特有の、運動を伴わない新しい散歩なんだろう。
ということで納得した。

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ちょっと曇ってきた。
やはり予報どおり、明日は雨かな。
せっかく街で天気待ちしてるんだから、ここは降ってもらわないと。

雨や雪の心配はもちろんだが、気温が低いのも気になる。
今日の気温も10度はないだろう。
これからさらに寒いエリアに進むことを考えると、今のうちに防寒着を手に入れておきたい。
ヴァレリオにそう伝えると、いい店があるよと言って、
港のはずれにある、ちょっとした大きさ店に連れて来てもらった。

外観はかなり地味で、教わらないと店かどうかもわからないぐらいなのに、
中はちょっとしたホームセンターっぽく、品揃えもそこそこ豊富だ。

ここで冬物処分セールの防寒着をいくつか見つけ、入念にチェックする。
だが5000IK近くするので、今日は買わずにもう少し検討してみよう。

ところでこの店、なぜか店のまんなかに、ドデカいケーキが鎮座している。
コーヒーのポットも添えてあり、どうやら何かを記念してタダで振舞われているようだ。

そこでさっそくケーキを食う我々。
ぐわっ、甘っ!!
砂糖とバタークリームの塊のような、日本ではちょっと味わえない凄まじい甘さのケーキだ。
俺は1切れで充分。それもコーヒーでなんとか流し込む。
しかしヴァレリオ、果敢にも2切れ食う。
しかもコーラだけじゃなくコーヒーも飲まない彼。
飲み物もなしで、そんなもんをよく2つも食えるな…と心の底から感心する。

この後、二人とも胃のムカつきに苦しんだのは言うまでもない。