4月22日(木)その2 アイスランドでスノーボード!

エギルスタズィールの中心部っぽい場所に到達。
レストラン付きのガソリンスタンドとかなり大きなスーパーマーケットがある。

まずはアイスランドの街によくある地図&案内板を探して街の情報を得たいところだが、
なぜかどこを見回しても地図のようなものが見当たらない。こんなに大きな街なのに。

困ったなー、けどとりあえず、重いリュックを下ろして一息つきたい。
スーパーの駐車場の脇にある適当な芝生の上で、リュックと一輪車を投げ出して座り込む。

すると、俺のすぐ近くの駐車場に1台のクルマが入ってきた。
助手席に座ったハゲ頭の男がコワモテのくせに満面の笑顔で窓を開け、

「やぁ!調子はどうだい!?英語は話せるかな?」

「やぁ。いい感じだよ。実は今ちょうど街に着いたばかりで何もわからないんだ。
 キャンプ場なんかはどこにあるんだろう?」

「そうか、それなら案内してあげよう。さあクルマに乗って!」

日本の小学生なら絶対についていっては行けないパターンではあるが、
いいオトナの俺は直観で彼のクルマに乗ることにする。

彼はヒャッティという感じの発音の難しい名前で、
クルマを運転している女の子のほうはサントラ。こっちはわかりやすい。

キャンプ場は、わざわざクルマで送ってくれなくても…というぐらいすぐ近くにあった。
かなり広くていい感じである。ただし開業は5月なので今は閉まっている。
でもどうせ寝るだけなので、そっちのほうがむしろ好都合だ。
できるだけ余計な出費は避けたい。

そんなことを考えていると、ヒャッティが携帯でおもむろに電話し始めた。
あいかわらず意味不明なアイスランド語で何事か喋った後、

「ここの管理人に電話したら、今は水もトイレも使えないけど、
 それで良ければ自由に泊まってかまわないそうだよ。」

電話で聞いてくれたのか!
施設公認で泊まれるなんてありがたい。安心感が違う。

「寝床が決まったところで、次はこの街の案内をしてあげよう。」

そこでまたしてもクルマに乗り、エギルスタズィールの街中をグルッと回る。
2つのスーパー、3つのガソスタ、大きなホテルや学校、博物館、体育館、そしてあちこちにある店舗。
涙ぐましいほどに都会である。
ここならしばらくじっくりと滞在して好天を待ち、万全の体制で次を目指すことができる。

なんせ、次の町までは208キロ。
ヴァレリオの情報では途中に一切の店もなく、ひたすら山の中を突っ切るという、
おそらくこの旅で最大の難所だ。
距離だけではなく雪の心配もある。
3、4日間ぐらいのまとまった日数の好天が、どうしても必要だ。

クルマで街を一回りして、最初に俺たちが会ったスーパーの前に戻ってきた。

「よし、今度はホットドッグを食べよう!」

ホットドッグ?
そういえば、さっきからこのスーパーの前の広場では、
大勢の人々が集まって野外でホットドッグを食べているのである。
何かの集まりだろうと思っていたそこへ、ズカズカと入っていくヒャッティ。

「さぁ食べよう、このホットドッグはタダだよ!」

え、マジで?なんで?

イメージ 1

ホットドッグを食うヒャッティとサントラ。
親子なんだろうか?

ホットドッグは本当にタダで振舞われているらしく、
焼いている人がニコヤカにホットドッグとコーラを渡してくれた。
サントラが解説してくれる。

「今日はね、夏の始まりの日なのよ。だからホットドッグでお祝いをしてるの。
 夏の始まりのわりには寒いけどね!」

あー、そういえば。
ブレイスダルスヴィークのガソスタでは、
今日に当たる日は祝日なので営業時間が短くなります、みたいなことを書いてあった。
そうか、今日は祝日だったのか。

「ホットドッグは、アイスランドの伝統的な食べ物なんだ!
 日本のスシみたいなもんだ!」

なんか違う気もするが…。
とりあえず、最近スシを握ったなんてことは言わないほうがよさそうだ。

熱い情熱でホットドッグを2つ食い終えた頃。
彼らが、今夜はウチに泊まらないかと誘ってくれた。
彼らの家はここではなくて少し離れた別の町にあるらしいが、
せっかくなのでありがたく連行されることにする。

そうと決まると、勢いよくスーパーに入っていくヒャッティ。

「クジラがいい。今夜はクジラ料理にしよう!」

クジラかよ!!

しかし、広い店内のどこを探しても、クジラの肉がない。
もう1つの別のスーパーにも行ったが、やはりない。

「ないなぁ、クジラの肉!」

「クジラの肉は今じゃ日本でもメッタに手に入らないよ。
 我々捕鯨国民は肩身が狭いな。」

「うーん…しょうがない、かわりにポニーの肉にしよう!」

ポニーかよ!!

イメージ 2

彼は本当にポニーの肉を買い、そしてクルマで移動。
どこに行くのか知らないが、なんだかクルマはものすごい標高差の道を通っている。
どうやら山を越えてアイスランド東部の海沿いの町に向かっているらしい。
周囲はまったくの銀世界で、まるで季節を間違えたかのようだ。

思えば、リングロードから外れて別の町に行くのはこれが初めてだ。
寄り道をするような時間の余裕はないと思っていたし、
そもそもこんなキツそうな山越えの寄り道、一輪車では絶対にしたくない。

ところで、クルマの中にはスノーボードが2つ入っている。

「この先にスキー場があるんだ。もうすぐ4時で閉まるから、1回だけ滑っていかないか?」

「え、でも俺、ボード持ってないよ。」

「大丈夫、借りられるさ!」

え?えー?

イメージ 3

そうこうしてるうちに到着。
道のすぐ脇におもむろにスキー場がある。
ごくシンプルな設備ながら、規模自体はなかなか広い。

ヒャッティがしばらくどこかに消え、ボードとブーツを持って帰ってきた。

「はい、ここの管理人から借りてきたよ。さあ滑ろう!」

レンタルじゃないのか!!

怒涛の展開ではあるがここはまず落ち着いて、かなり大き目サイズのブーツを履く。

リフトに近づいてみると、あれ?

ベンチがついてませんよ!!

イメージ 10

見た目は普通のリフトっぽいのだが、肝心の座るところがない。
その代わり、等間隔でヒモが1本、ダラーンと垂れ下がっている。

「このヒモの先の棒を掴んで、先端の丸くなったところを股の間に挟むんだ!
 やってみせるからよく見て!」

ヒャッティが垂れ下がったヒモの先の棒を掴む。
するとヒモがグイーッと伸び、彼は素早く先端の球状の物体を股の間に挟む。
そしてそのままズリズリーと引きずられながら、長ーい斜面を上がっていく。

なんじゃこりゃ…。
リフトとロープトウを足して2で割ったあげくに何か大事なものを置き忘れてきたような。

とりあえず、やってみる。
掴む。股の間に挟む。引きずられる。が。
ボードのエッジを変な角度で食い込ませてしまい、コケる。
そのまましばらく西部劇バリに引きずられたあげく、観念して手を離す。
終了…。

意外と難しい!!

3回、4回と挑戦するも、なかなかコツが掴めずにコケまくる。
スキーだったら一度股に挟んでしまえば後は正面を向いてスッと上がっていけそうなのだが、
ボードは横向きなのにヒモを股に挟まないといけないので、なんだかとても不自然だ。
綱引きのように必死にヒモにしがみついて滑っていても、何かの拍子にすぐコケてしまう。
これじゃあ一回も上に行けないうちに終わってしまうかも。

イメージ 4

もう何度目のチャレンジだか忘れたが、とにかく奇跡的に上まであがって来られた。
ヒモに捕まっている間はとにかくコケないように必死で、写真を撮る余裕なんかまったくない。
しかも距離がヤケに長い!

「難しすぎる!立派な支柱も建ってるんだし、ついでにイスぐらい付けれてくれたらいいのに!」

「あー、金がかかるんだろうね。」

とにかくこのリフトはツラい。できればもう2度と使いたくない。

しかーし!上まで来てしまえばもうこっちのもの!!

イメージ 9

滑りまーす。
やたら広い!!
日本のスキー場のように柵がないので、まるでいきなりバックカントリーに来たかのようだ。

イメージ 5

そしてまた、雪質がいいんだ。
4月の末なのに雪煙の舞うパウダースノー!

イメージ 6

なんでこんなところでボードなんかやってるのかよくわからないが。

とにかく最高!!

イメージ 7

サントラは明るくて可愛らしい。でもなぜか彼女の英語は聞き取りにくい。
英語はそんなに得意じゃないのだろうと思っていると、
何かを失敗した時におもむろに「ファッ○!!」と叫ぶ。
けっこうお茶目。

スキー場に来た時にはすでに営業終了の4時近かったし、
俺がリフトにてこずりまくったので、1本滑り終わっただけでリフトは止まった。
しかしヒャッティは変にアツい。

「下から歩いて登って、ラストの1本をキメないか!?」

俺も確かに1本だけでは不完全燃焼なので、同意。
それにまたあのリフトにしがみつくぐらいなら、歩いて登ったほうがよっぽどマシな気もする。

イメージ 8

20分ぐらいかけてがんばって登り、さあ滑ろうという時に、
うっかり手を離してボードを流してしまうヒャッティ。
哀れすぎる…。かける言葉もないよ。

俺はといえば、爽やかーに2本目を滑らせていただきました。
あー気持ちよかった。

そんなわけで、アイスランドでスノーボードをするという予想外のイベントは終了。
のハズだったが、

「キミが使ったボードは、また今度返してくれればいいそうだ。 
 明日エギルスタズィールに戻る時にまた滑ろう!」

えー。
滑るのはいいんだが…。

ハッキリ言って、あのリフトだけは勘弁してくれ!!