4月22日(木)その3 セイズィスフィヨルズルの夜

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サントラがちょっと危なっかしい手つきでブッ飛ばす古いニッサンのクルマは、
ほどなくして海沿いの小さな町にたどり着いた。
セイズィスフィヨルズルという町だ。

元はなぜかインド雑貨の店だったという彼らの家に入れてもらう。

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中は意外と広い。2階の右側の部屋をあてがわれる。

今までヒャッティとサントラがどういう関係なのかずっと気になっていたが、
このへんでようやく恋人同士であるらしいことが判明する。
親子じゃなかったのか…。
うっかり聞かなくてよかった。

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そういえば、アイスランド人の家に泊めてもらうのは初めてだ。
レイキャヴィークで泊めてもらったのはタクシーの事務所だし、
ハプンのローザの家では夕食は作ったり食べたりしたけど泊まってはいないからな。

ヒャッティがディナーの準備をしている間に、シャワーを使わせてもらう。
風呂かぁ。何日ぶりだろう。
そういえばハプンでヴァレリオに連れられて露天風呂に行ったな。あれが8日前。
シャワーとなると、んー、キルキャヴァイヤルクリステルまで遡るな。11日前。
どうってことはない。

シャワーを終えて一息つき、気になる今後のルートについて考え始める。
物知りなヒャッティが色々と教えてくれたおかげで、
最難関の208キロルートに関して、かなり詳しい情報がわかった。

まず、このルートにはダート区間が存在しないとのこと。これは非常に助かる。

次に、途中に店が存在しないのは確実だが、ひょっとしたら宿には泊まれるかもしれないということ。

以前に宿で手に入れたパンフレットによると、
この区間には2ヶ所の農家の宿があるのだが、そのうち1つは6月までは営業していないのだ。
それなのに、ヒャッティがまたしても携帯で電話をし、なんと泊まれるように話をつけてしまった!
すげぇ!ありがたい!
おかげで、2つの宿の中でより重要度が高い方にも泊まれるという選択肢ができた。

ところで、ハプンのローザもそうだったが、
アイスランド人って本当に携帯電話1本で問題を解決しようとするよなぁ。
調べるのではなく、直接聞く。
土地が広くて人が少ない環境では、自然にそういう方法を身につけるものなのだろうか。

さて、そろそろディナーの時間かな。

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さぁディナーを食べようという時には、いつのまにか人が増えてるよ!!
今夜がパーティだとは知らなかった。

右から、アメリカ人旅行者のジェイソン。
船の仕事をしていて神戸に来たこともあるらしい。
彼にとってはなぜか『アメリカ人』という肩書きよりも、
『ニュージャージー出身』ということのほうが重要であるらしい。
もちろん俺にはサッパリわからないこだわりである。
あとアメリカ人なのに何を喋っているのかよくわからない。

次はアイスランド人のクリスティンと、その息子ゴスマン。
彼女は自称アーティストだそうな。
この町のどこかで作品を展示しているそうなので、明日ヒマなら観に行くのもいいかな。

その隣は、笑顔がまた怖いヒャッティ。
あいかわらず名前の発音に確たる自信がない。
仕事は学校の先生だそうだ。何を聞いても明確に答えてくれるのはさすが。

そしてその隣は、やたらと陽気なイギリス人。
物書き兼、この町のホテルの清掃員をやってるらしい。
彼はディナー開始早々からすっかり出来上がってしまい、名前すらよくわからない。

サントラは用事があるそうでディナーにはいなかったが、
彼女の友達が焼いたというケーキをごちそうになり、うまかった。
初めて食べたポニーの肉もまた、柔らかくて結構いける。
そもそも俺にとっては肉の塊というだけですでに空前のご馳走だ。

アイスランド産ビールとなんとか言う強い酒、それにワインをたくさん飲み、さすがに酔った。
今夜は温かいベッドがあるし、明日は走らなくていい。気分が開放されている。

ディナーの一同は基本的に英語で話しているが、スピードが速すぎて俺には半分も理解できない。
俺がそこそこ喋れていると思っていた英語は、
相手が俺のスピードに合わせてくれて初めて会話になっていたことを思い知る。

それにしても、学校の先生をしているヒャッティはとてもわかりやすく話してくれるのに、
アメリカ人ジェイソンの英語は本当にサッパリわからん。これはニュージャージー方言なのか?
同じアメリカ人でもスコーガフォスまでクルマで乗せてくれたピーターの方はそこそこわかったのにな。
謎だ…。

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クリスティンの息子、ゴスマンくん。
『神の人』という素敵な意味らしいが、神は神でもかなり荒ぶる方の神である。
とってもバイオレンスというか反抗期というか。
きっと難しい年頃なんだろう。

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外でジェイソンがマウンテンユニサイクルにチャレンジしている。
そして乗れない。
初めてでいきなり乗られたら俺のほうがビックリするけど。

俺が優越感に浸りまくって見本を見せていると、
それをクリスティンが立派なカメラでバシバシ撮りまくる。
撮るのはかまわないが、そんな写真を一体何に使うのだろう。
自称アーティストだけに何かのアートにされてしまうのだろうか。

やがてパーティの参加者たちはそれぞれの家に帰って行った。
俺もあてがわれた部屋で、今夜はゆっくりと休ませてもらおう。

うーむ。
偶然なんだろうけど、なんでかねー。
ハプンの時と同じように、街に着いてダラダラしようと思った矢先にさっそく知り合いができてしまった。
嬉しいのは嬉しいんだが、なんだか展開が早すぎて落ち着かない。
乗ってるのが一輪車じゃなければ、たぶんこうはならなかったのだろうけど。

人とのたび重なる出会いに、気持ちが落ち着かない。
人に注目されるってことに慣れていないせいかも知れないな。

今日の走行は43キロ。
走行距離は短くて済んだのに、まさかその後アイスランドでボードをやるとは思わなかった。

昨日の峠ではあんなに苦しめられた雪で、今日は遊んでいる。
そして昨日は知りもしなかった人の家に、今日は泊まっている。

あっという間に眠った。