4月23日(金) 町から街へ

やたらといい天気だ。
起きたら8時半。寝すぎた。
少し疲れているようだ。いや、だいぶ。
今までの緊張が緩んで、ドッと疲れを感じているんだと思う。

1階に下りるとヒャッティがいた。サントラはもう仕事に出ているようだ。
ヒャッティは今日は休みなんだと言って、朝食のシリアルを出してくれる。

朝食後、彼は友人の豚小屋の建設を手伝うと言い残して家を出ていってしまった。

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うーん。
一人っきりになってしまった。

元はインド雑貨の店だったというだけあって、なにやら変わった内装の家だ。
インドというか、国籍不明の物体があちこちに存在する。

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なごや七福神霊場…なんでこんなものが。

ヒャッティはこれを「中国のモノだ!」と力説していたが、
どう見ても日本のモノなので、翻訳して教えといた。

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「ウチはドリームハウスなのよ!」とサントラが言っていた意味がようやくわかった。
以前の店の名前がアイスランド語でドリームハウスという意味だったのだろう。

それにしても、こんな小さな町にインド雑貨屋って。
潰れてしかるべきだと思うのは俺だけだろうか。

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家にいてもヒマだし、ちょっと散歩でもしよう。
もちろんユニサイクルでな!

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久々に重いリュックを背負わずに乗ったマウンテンユニサイクル。
さぞかし乗りやすいだろうと思ったら、むしろ乗りにくい!
フラフラしてまっすぐ走らない。

どうやら俺は今まで、20キロの荷物を背負って一輪車に乗るという、
他になんの利用価値もない珍妙な技術ばかりを鍛え上げていたようだ。
えーーーーー。
アイスランドまで一輪車の練習しに来たのに!!

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セイズィスフィヨルズルはアイスランド東部に位置する美しい町。


フィヨルズルというだけあって、景観はいかにもギザギザなフィヨルド地形。
小さな町だが実はデンマークからの定期船が来る港があって、
ここから多くの人やモノがアイスランドを出入りしているらしい。
そう言えば昨夜会ったアメリカ人ジェイソンもデンマークから船でこの町にやって来たそうな。

それなら、もし噴火が長引いてアイスランドからの飛行機が飛ばなかったとしても、
とりあえずこの船でデンマークまでは行けるってことだな。
絶海の孤島アイスランドを脱出してデンマークまで行ければ、後はなんとかなる。たぶん。

一輪車で町をスイーッと回ってみたけど、
あまり広くもないし、人もいないし、なぜか空荷なのに乗るだけで疲れる。
やはり気が緩んでいるのだろうか。

昨夜会ったアイスランド人の自称アーティスト、クリスティンがこの町のどこかで作品を展示しているハズだ。
なんとなく画廊のようなものを探してみたが、結局みつからなかった。
昼メシ時にはヒャッティ宅に一旦戻るので、その時にでも詳しく聞いてみよう。

その昼メシは、ヒャッティ作の焼いたトーストにチーズを挟んだような物体。
それを彼はナイフとフォークで器用に食べる。
さすがヨーロッパだと妙なところで感心する。

彼にクリスティンの展示のことを聞いてみると、
昼からまた豚小屋建設に行くから、その時ついでに連れ行ってあげようということになる。

で、食後。
クルマに乗って連れてこられた場所は、町の小さなレストランだった。
どうやらここにあるテレビでクリスティンの映像作品が観られるらしい。
レストランかよ!そりゃいくら探しても見つかるわけがない。

この店を切り盛りしているのはスロベニア出身のニコライ。
なんでスロベニア人がこんなところで店をやっているのかは知らないが、
陽気なヤツっぽい彼がヘッドホンといくつかのパンフレットを手渡してくれて、
えーさて。ようやくクリスティンの作品が観られますよ。

草原の中を、クリスティンらしき女性が走っている。
10秒ぐらい走って、またリピート。また走って、またリピート。
…延々とその繰り返し。
それが3分ぐらい続き、おもむろに終了。

むぅ…!!

えーと次は。

雲の上に、クリスティンらしき女性が座っている。
手を振っている。ずーーーーっと、手を振っている。
延々とリピート。

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まさにこんな感じ。
以前にどこかで作品を展示した時のパンフレットらしい。

むぅ…!!

正直、ツライです。新手の修業か?
もう充分堪能したことにして観るのをやめようと思ったが、
そんな時にどこからともなくクリスティンとその息子ゴスマンが現れたので、
途中でやめるわけにもいかず、ついにその作品集を最後まで見るハメに。

彼女がベッド脇に立っている。ずーーーっと。
トンネルの隅っこに寝転んでいる。ずーーーっと。

長かった…。永遠すら感じた。

すべての作品が似たような感じ。しかも無音。ヘッドホンの意味が根底から問われる。
壊れてるのかと思って本人に確認してみたら、初めから無音なんだと。

ふ…ふーん…。

「感想は、言葉ではうまく表現できないよ。」

そう言っておいた。

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その後、なぜかその店でクリスティンにピザをごちそうになる。
ゴスマンくんはあいかわらず反抗期だ。

クリスティンがユニサイクルライディングを写真と動画で撮りたいというので、
それに付き合うことになった。

だが、その話がなかなか進まない。
ピザをのーんびりと食べる親子。それは全然かまわない。
店を出て、機材を取りに行くといって消えたクリスティン。延々帰ってこない。
その間、ヒマなのでゴスマンに日本語を教え込む俺。
やっと戻ってきたクリスティン。
港で撮影したいと言うのでついて行くが、ゴスマンと共にあちこち寄り道してなかなか着かない。
ようやく港に着いたと思っても、母子の温かいふれあいが長引き、なかなか撮影が始まらない。

うーん…4時にはヒャッティ宅に戻らないといけないと伝えてあるのだが…。

これはたぶん、俺と彼女との間で時間の感覚に差があるということだろう。
この穏やかな町に住む彼女の中では、時間の流れがゆーーったりとしているに違いない。
だとしたら、あの作品群の単調さの理由もなんとなくわかるような気がしてくる。

時の流れをとらえる感覚は、地域ごと、人ごとにそれぞれ違う。
日本にいるだけでは、それは意外とわかりづらい。

なんとか撮影を終え、急いでヒャッティ宅に帰ってきたら4時を過ぎていた。
だが家には誰もいない。こちらもまたのんびりムードらしい。
自由に使ってくれと言われた彼のパソコンで、久々にブログの更新などをしてみる。

そのうち、ヒャッティとサントラがそれぞれ帰ってきた。

よし、ようやくエギルスタズィールに戻れる時がやって来たな。
だがその前に、もう1度あのスキー場で滑るんだった!!

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あの苦手なヒモリフトが、再び。
まったく誰だこんなの発明したヤツは!!
ヒャッティはとてもラクそうに乗っている。

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サントラも上手に乗ってるなぁ。
俺も昨日の経験のおかげで、1回失敗しただけで意外と調子よく上まで来られた。
コツはどうやらボードを真横に滑らせるのではなく、常に軽くエッジを効かせることらしい。
まだムダな力が入りまくってどうしても疲れてしまうが、まぁ何事も慣れだな。
もう2度とお目にかかりたくありませんけど。

ところでこのリフト、ヒャッティによれば来年はさらに高いところまで延長されるそうだ。

やめとけって!!

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昨夜は強い風が吹いたのか、今日の雪は表面がパックされていて少し固い。
しかしパウダースノーじゃなくても、このロケーションは充分に素晴らしい。

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どこまでがスキー場でどこからが普通の山なのかという境界が特にない。
おもむろにリフト小屋とリフトがあるだけ。
もちろん日本のスキー場では定番の音楽もない。

あれ、そういえばそもそも誰も金を払っている様子がないな。
ひょっとしてタダなのか!?
今さら怖くて聞けない。

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サントラに「こういう時に日本では『サイコー!』って言うんだ。」と教えたら、
サイコー!!って叫びながら滑っておられた。
彼女はノリがいい。

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調子に乗りすぎて1回ハデにコケたが、メットのおかげでダメージは軽かった。
こんなところでメットが役立つとは。
でも明日には首が筋肉痛になっているのは間違いない。

アイスランドでスノーボードか…。

2人のおかげでいい体験ができたよ。

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そして、1日ぶりでエギルスタズィールに帰還。
ここはやっぱり大きな街だ。

クルマの中では、

「エギルスタズィールとセイズィスフィヨルズル、どっちがいいと思う?」

と言う質問をされて困った。
ヒャッティはエギルスタズィール出身で、サントラはセイズィスフィヨルズル育ちらしい。

「どっちもいいんじゃないの。」とつまらなくも無難に答えておいたが、
今の正直な心境としては、大きな街にいるほうが落ち着く。

ここならスーパーは土日も普通に営業しているし、
23時まで開いているコンビニみたいな店もあるし、ホームセンターだってある。
もう旅をやめてここに住んでもいいですか?という気持ちすら一瞬よぎる。

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このキャンプ場がまたいい。
調理場とおぼしき東屋! 
すげぇ、全天候型キャンプ!!今までで間違いなく最高のロケーションだ。

さて、世話になった2人と別れる時がきた。

ヒャッティは、何を聞いても「ノープロブレム!」と前向きに答える俺は素晴らしいと褒めてくれる。
それは単純に言いやすいからだなんて今はちょっと言えない。

サントラは、抱きしめてくれた際の胸の感触がすさまじかった。
ヨーロッパの風習に今ほど感謝したことはない。

人に親切にされるのは、とても嬉しい、幸せなことだと思う。
でも、笑顔のままで別れられて一人になった後、大いにホッとするのは俺だけだろうか。

明日は街をあちこち回ってみるとしよう。