4月27日(火)その2 最長不倒

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14時。
そこそこのアップダウンを繰り返しつつ、トータルでは順調に標高を下げる。
今日はおおむね追い風気味なので本当に助かる。
この調子で行けるところまで行こう。

長々と伸びる、とある上り坂。

はるかかなたから、点が近づいてくる。

あ、自転車だ。それも2台。

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大荷物の自転車。
彼らはなんと、これからアイスランドを一周するらしい。
おぉ、自転車で一周しようという人間に初めて出会った!

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今度はアメリカ人とスイス人。
女性のほうのエリカは中国系スイス人だそうな。
アメリカ人のほうは…名前聞くの忘れた。

噴火の影響で、ケプラヴィークの空港に到着するハズがアークレイリに変更になったそうだ。
そしてまさに今日から走り始めたんだと。

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久しぶりの旅人との出会い。
情報交換が楽しい。いいなぁこういうの。

旅人との出会いもハイシーズンでたくさんだと俺は疲れてしまうけど、
今回ほど旅人に会わない旅であれば、1つの出会いがとても貴重に思える。

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自分が走り去るところを見られたというのも貴重といえば貴重。

さっきの2人がどういう関係なのかは知らないが、アメリカ人とスイス人が仲良く行動していた。
欧米の人々は、英語という道具を使って、幅広ーく楽しんでるんだなぁと思う。
俺も今みたいな環境にいると、
これまで日本の中で日本語を使って日本人とだけ付き合って生活してきたことが、
何やらもったいないことをしていたような気にもなる。

もちろん、交友関係が広けりゃいいってことではない。
広い世界の存在を知ってしまうと、自分の世界も広げたくなってしまうもんなんだなー、という話だ。

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いつしか17時。おや、橋だ。

地図を見ると、このあたりには2つ目の宿がある。
166キロの間にまったく店がないこのルートのオアシスと言ってもいい、2つの農家宿。
1つ目は昨日泊まった。2つ目は、どうするかな。

もう17時なので泊まってもいい時間帯ではあるが、
今日はなんせ天気もいいし、すでに危険地帯も越えた。
それに今回の宿は国道から脇道のダートを3キロほど入ったところにあるので、行くのもめんどくさい。

よし、今日は泊まる必要なし。セーブマネー!

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橋を渡っております。
なんだか今日一日で、えらく顔の日焼けが進行したような気がしてならない。

今日はもう80キロも走ってしまった。
今は17時。ミーバトンまでは、あと40キロ弱。
ひょっとしたら…今日中にたどり着けるかもしれない。
やってみるか!?

橋を越えて少し進むと、前方から来たクルマが俺の目の前で止まった。
貫禄ありげなオッチャンが運転席の窓を開ける。
また写真でも撮られるんだろうか。

「キミは…ユニサイクルで旅をしている人だね。宿に電話しなかったかい?」

「あぁ、アイスランド人の友人が代わりにかけてくれたんです。」

「私はその宿の者で、アークレイリに買い物に行って今帰ってきたところなんだ。
 今日は泊まらなくても大丈夫なのかい?」

「はい、天気もいいし、ミーバトンまで着けそうなので行こうと思います。」

「そうか。それじゃあ気をつけてね。」

ありゃー、宿の人だったか。
ヒャッティは2つの宿の両方に電話をしてくれたのだが、
昨日泊まったところは電話したことをまるで覚えてないような対応だったので、
アイスランドでは電話の問い合わせなんて大した意味もないのかなと思っていたのだ。
でもこっちの宿では、ちゃんと覚えていて気にかけてくれていたんだな…。

そっかー、そういうことなら、あの宿に泊まってもよかったかも知れない。
いい人そうなオッチャンだったし。

まぁ今さら遅いか。
こうなったらもう、進むのみだ!

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いやっほぅ!まっすぐすぎ!!

時間は18時。
さーて、ミーバトンまで着けるかな!?

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19時半。
あ。100キロ達成。

1日に100キロ以上走るのは琵琶湖一周の時の1回以来だ。
意外と走れるもんだなぁ。
今日はスタートが早くて風向きもよかったから、これはもう条件と気合いのなせるワザだな。

アイスランドを走り始めたばかりの頃、
とても100キロなんてムリ!と思って挫折していた自分に教えてやりたい。

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20時ーっ。

写してるのは反対方向。
なぜなら正面は今、西日の逆光が凄い!
走ってると眩しくてしょうがない。

ケプラヴィークの空港から旅を始めてこれまでずっと東向きに走ってきたのが、
エギルスタズィールで折り返して以来、今度は西向きに走るようになったのだ。
これからは今のような西日に悩まされることも増えるかも知れない。
サングラス、買ったほうがいいかなぁ。

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20時半ーっ。

太陽がようやく山陰に隠れて、やっと西日の眩しさから解放された!
…と同時に、今度は暗くなっていくじゃないか!

ヤバい、ちょっと急ぐぜ!!

ミーバトンはもうすぐ近くのハズ。
でもひょっとして…やっぱり、あの正面の山、越えるのー!?

町の直前で峠ってケース、多くないですか…。
かなり心身にこたえるのですが…。

えーい、とにかく登って下りればそこは(たぶん)町だ!

峠、行くぜぇー!!
うぅっ、ちょっと泣きが入りそうになるが、
ここは!気合いで!登りつめ!後は、下るのみ!

あ…あれは。

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町…かな?

ミーバトン湖らしきものと、あの噴煙は、おそらく温泉か何かの。

つ、ついた!

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ついたーーー!!!

やった、ミーバトンまで来た!
3、4日かかると思っていた行程を、2日で!!

よくがんばった、俺!!

うわー、今まで気づかなかったけど、走るのをやめると、かなり寒い!!
とっとと坂を下りきって町に行こう。

そうして、ミーバトン湖畔の町、レイキャリーズに到着。

着いたはいいが、もう21時過ぎ。さすがに暗い。
そして町は思ったよりも小さい。
とりあえず、キャンプ場はないかな…。
あ、あった。
キャンプ場は湖に面していて、そこそこ広い。
もう疲れ切っているし、とにかく寒いのだ。
例によってここのキャンプ場もシーズンオフで閉まっているようだが、
今からテントを建てて早朝に出て行けば大丈夫だろう。
さてどこにテントを…ん?なんだあれは?

目の前に、小さな温室のようなものがある。
扉はあっさり開いた。
中は、とっても、温かい。


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ここはどうやら、地熱か温水を利用した温室らしい。

……。

これは、ひょっとして。

最適の寝床なのでは…。

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寝られるぐらいのスペース、ありそうですよ。

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イ…イイ感じっぽいですよ!

素晴らしい。ここなら温かく夜を過ごせそうだ。

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夕暮れのようだがもはや21時半。
この時間ならもう誰もキャンプ場には来るまい。
とりあえず寝かせてくれ。疲れた…。

……。

…と、思ったら!!

どこからかお爺さんが現れた。

な、何者!?
こんな時は先手必勝あるのみ!

「こ、こんばんは!俺は、今この町についたばかりの、旅人なんです。
 ここはあったかくて素晴らしくて…。
 ここで一晩だけ過ごさせてもらうなんてことは、できませんか!?」

「もちろんダメだよ。ここは私の温室だからね。」

「そ、そうですか…。すいません。すぐ出ます。」

しまったぁーー!!!
痛恨の、温室オーナーとの遭遇!!

…そりゃあ普通、追い出されるよなぁ。

彼の口ぶりでは、どうやらキャンプ場にテントを張ることも許されないような雰囲気だ。
仕方なく、ふたたび広くもない町を徘徊。
そのうち本当に真っ暗になってしまう。
風が出てきて、とにかく寒いのだ。
もうどこでもいい!
ツーリストセンターの建物の裏側に、
観光客が少し休憩できるような机とベンチのあるスペースがあった。
ここなら人に見つかりにくいし、風も防げる。
もうここでいい!さっさと建てよう!

暗くて冷え切ったその場所で、急いでテントを建て、中にもぐりこむ。

あぁ…テントの中、あったかい…。
風が強いこんな日は、ペラペラのテントの中でも外とは雲泥の差だ。

テントで視界が遮断されると外のことはわりとどうでもよくなるもので、
あとはもう、寝袋に入って寝るだけだ。

今日は、もう、思い出すのも疲れるぐらい、いろんなことがあった。
そしてとにかく、よく走った。

今日の走行距離は、117キロ。
平均時速は徒歩も含めて9.7キロ。最高時速は17.3キロ。

117キロは、おそらく1日で走った距離の自己ベストだろう。
追い風を受けて15時間ぐらい、あんまり休みもせずに走り続けたからな…。
こんな記録、当分の間は破りたくもないし挑みたくもない。

今はもう、あたたかく眠ることができれば…それで充分だ。