4月29日(木)その1 あともうちょっとが長いよね


夜中はそこそこ雨が降ったようだが、テント内はさほど湿ってもいない。
やはり立地の勝利だ。ここに泊まったのは正解だった。

しかし荷物と一輪車がジャマで身体を充分に伸ばせなかったせいか、熟睡はできなかった。
おかげで変な夢をたくさん見た。
岩につぶされる夢とか。日本海軍の兵士になった夢とか。

雨はまだ少し降っているのかな。
それなら焦ることはない。紅茶でも飲むとするか。

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朝からのんびりと紅茶を飲むなんてことは珍しい。
たいがいはパッと起きてテントを撤収し、とっとと走り出すからな。

ここからアークレイリまでは70キロ弱といったところか。
この天気だと一日でつけるかどうかは微妙かも知れない。
急ぐ旅でもないから、もう1泊どこかに挟まっても構わないけどな。

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外に出ると、ちょっと白い。
テントにポツポツ当たるのはずっと雨だと思っていたが、いつのまにか雪になっていたらしい。
そのうちやんでくれるといいのだが。

さて、そろそろ出発するか。

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ロウガルの町を出て少し進むと、いきなり長ーい上り坂が始まった。
ミーバトン湖以降は楽勝ムードかと思っていたが、思ったより険しい道のりなのだろうか。
そのうちまた雪も降り始めてイヤーな感じ。

背後から来たクルマが俺の目の前で急停止。
中から熟年夫婦が顔を出し、

「大丈夫?乗っていきなさいよ。」

「ありがとう。でも大丈夫!自分の足で上りたいんだ。」

夫婦は素敵な笑顔を残して去っていった。
確かに長い坂で雪も降っているが、今日は大丈夫。
でもその気持ちが嬉しいんだ。元気出る!

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うーむ。
まだ雪の上を走ることがあるとは思わなかった。
いや走るというか、長い上り坂は100%歩くんだが。

つらい坂をのぼり切れば次は爽やかな下りが待っているもので、
これまた長ーい下り坂を、スピードを調整しつつ一気に下る。
どうもブレーキの効きが弱いのが気になる。

午前10時。
坂を下り終えると、何かドライブインのようなものをみつけた。
どうやらここは観光地らしい。
ゴーザフォス?
あぁ、先日会った自転車の2人が素晴らしいと絶賛していた滝のことだな。
確かに道沿いに滝が見えるよ。

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へー、あれがゴーザフォスかぁ。結構なモンですなぁ。

そう感心してたのに、実はこれじゃなかった。
本物のゴーザフォスは、脇道に折れてさらに1キロほど川を遡ったところ。

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はい、これがゴーザフォス!『神の滝』ですよ。

シブイ写真を撮ろうと思って色々試したんだが、結局イマイチなものしか撮れなかった。
珍しく他の観光客に頼んで撮ってもらったりもしたのに。

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人に撮影を頼むのも難しい、の図。
せっかくビビリながらもちょっと際どいポイントでトライしたのに、イマイチ!

天気が悪くて暗いのもいかんなぁ。

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13時半。
ゆるい追い風に揺られて、ホイホイーとやって来ましたよ。
アークレイリまではあと31キロ。
エギルスタズィールからはもう234キロも離れたのか。

ここから道が90度近く曲がって北向きになるので、追い風の恩恵を受けられなくなるな。
一輪車の旅では風向きってのは本当に重要だ。

ところでここに来る途中、クルマに乗った若いカップルが、俺と併走しながら写真を撮っていた。
なにやら興奮気味だ。

「クレイジー!!中国人か?」

「俺は日本人だ…。」(4回目。)

「あなたは何歳なの!?」

「33だ…。」

写真を撮られることにもそろそろ飽きている。
なんせ今までにもう、気がついただけでも無数に撮られているのだ。
それに同じ質問をされることにも飽きている。
のみならず、今回もまたチャイニーズかよ。
その上さらに、いきなり歳まで聞いてくるか。

悪いけどコイツら、嫌い。
早々に話を切り上げて走り去る。

世界には日本人より中国人のほうが圧倒的に多いので、
もともと日本人との交流がほとんどないアイスランド人が、俺を中国人と勘違いするのはわかる。
それにしたって、いきなり面と向かって「中国人?」って聞くか普通?
俺の国籍を知りたいのなら、「どこの国から来たの?」って聞けば済む話なんじゃないのか?

そして今回だけじゃないのだが、なぜそうやっていきなり人の年齢を聞く?
警官の職務質問じゃあるまいに、なんでそんなことを聞かれなければならないんだ。
初対面の、友達でもなんでもない外国人にいきなり年齢を聞かれたらどんな感じがするか考えもしないのか。

どちらも悪気はないのかも知れないが、ハッキリ言って俺は不愉快である。
今後はそういうヤツは一切相手をしないことにした。
外国人旅行者がいつでもニコニコ対応してくれると思ったら大間違いだ。

まぁ、そうはいっても、アイスランドは人が少ない。
基本的には孤独かつ気楽な旅が続く。
もっぱら障害になるのは、人ではなく、圧倒的にそれ以外のものだ。

また来たよー。長い峠が。
今日のしょっぱなに歩いた坂より更に急勾配だ。
峠の上り坂ってヤツは、ウネウネウネウネと蛇行しながらどこまでも伸びる道のりが、
下から延々と見えてしまうあたりが精神的にも効く。
休み休み、でも長くは休まずに勢いで越えてゆく。
ちょうど日本からメールが来た。
『坂をのぼりきったら、このメールを見よう。』
それだけを楽しみに、ヘーコラとのぼる。

1時間ぐらいかけたか。
ようやくのぼり切った。

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さぁこれからお楽しみの下り!というところで、
最近気になっていたブレーキを調整してみる。

ユニサイクルの場合、ブレーキが効かないとせっかくの下りもかえって疲れるのだ。
そもそもユニサイクルにとってのブレーキとは、
下り坂で太ももに代わってスピードを抑えるためだけのものであると言っても過言ではない。

んー、あれ?

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よく見るとブレーキフルードがにじんでるような気がする…。
指さしているボルトの締め付けが緩んでいるのかも知れない。

だがしかし。
修理用の工具類は必要最低限のもの以外、アイスランド初日に某コンテナの中に置いてきてしまった。
今はこのボルトを締めるスパナすら持ってない。

うーん困ったなぁ。
でも、大したことないか。
ブレーキが効かないなんて、それこそ急な下り坂以外ではまったくどうでもいいことだ。
それに、これから向かうアークレイリはアイスランド第2の都会だ。
必要な工具も買えるだろうし、修理してくれる自転車屋だってあるだろう。

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そんなわけで、ブレーキは効かないけど長い下りに突入ー。
なーにちょっと太ももが疲れるだけさー。

遠くに見えるのは、久々の海かな。

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峠の頂上付近から20分も下ってくるとこんな感じ。
明らかに景色が変わった!
しかもいきなり暑い。



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峠を越えれば、後はアークレイリまで南に一直線だ。
あと15キロぐらいかな。もうすぐ!
今が16時なので、暗くなる前にはたどり着けそうだ。

海沿いの道をしばらく走っていて、気がつく。
峠を越えてから、明らかにクルマが多くなった。
大きな街が近づくとこれだから困る。

この道は路肩の舗装もあまりいい感じじゃないので、クルマが多いと危ない。
やむをえず、交通量を見ながら乗ったり降りたりを繰り返して進む。
通りがかるクルマの多くが俺を見て、挨拶の意味でクラクションを鳴らしてくれるのは嬉しいんだが。

それにしてもアイスランドのクルマは飛ばすなぁ。
クルマで街を出た瞬間に道路は高速道路に変わるんですよと教習所で教わったとしか思えない。

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ん?対岸に見えるあれは、ひょっとしてアークレイリ?
おおっ。近い!

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すぐそこに見えてるのに、なかなか差が縮まらん!
これなら見えてないほうがマシだ!

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もはや建物のカタチまでハッキリとわかるのに!
まだかー!?
なんか大きな街に着く時には毎回こんな感じになってるような気がする!

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おおっと、ここで海を渡って大きくUターン!
ついに向こう岸だ!

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やっと着いたぜアークレイリ!
走りながら撮ったからちょっとズレてるけど!

さぁ、アイスランド第2の街に突入だ!