5月11日(火) 異国の誕生日


今日は5月11日か。
日本から9時間遅れて34歳になった。33というゾロ目が好きだったのに。

テントの撤収を始めようとしてテントから顔を出したら、
ちょうど向こうから大荷物の自転車乗りが近づいてくるところだった。
そして俺のテントの前で止まるなり、こう言った。

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「オハヨウゴザイマス。」

彼はオーストラリア人のマテオ。

自転車で世界のあちこちを走ってるらしく、北海道を一周したこともあるとか。
それでちょっと日本語喋れるんだな。
アイスランドで俺を見て日本人だと正しく判断したのは彼が初めてかも知れない。
あてずっぽの可能性も高いが。

それにしても。
汚いカッコと大荷物を抱えて、一人で走る旅人。俺、こういうヤツ大好きだ。

彼はアイスランドに来てまだ2日目。
俺はアイスランドに来てもう1ヶ月以上たつ。
噴火のことやルートについて、情報交換がとても盛り上がる。
本当に久しぶりに、俺が思う旅人らしい旅人に会った。嬉しい。

レイキャヴィークからここまでリングロードを走ってきたマテオは、

「クルマが多いのに路肩が狭くて危険だ!あんなところはとても走れない!」

そう言って憤慨している。
なんだ、一輪車だけじゃなくて自転車でもやっぱりイヤなのか、あの道は。
そしてクルマだらけのリングロードがいかにデンジャラスかで再び盛り上がる俺たち。楽しい。

マテオはこれから、リングロード一周ではなく、
できるだけ海岸沿いの道を通って真のアイスランド一周を目指すそうだ。
2ヶ月かけて2500キロぐらいは走りそうだと語る。

すげぇ、ダートロードをものともせず海岸線を一周か。
俺が断念したイーサフィヨルズルにも行くんだろうな。大したもんだ。

ここで俺がずっと気になっていた自転車旅の1日の平均走行距離を聞いてみると、
大体80キロぐらいで、100キロ以上は疲れるからメッタに走らないとのこと。
へー、自転車って速いのに意外と距離は伸びないんだな。
俺がユニサイクルで何度か100キロ走ったと言うとえらい驚いていた。こっちは日が長いからな。

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マテオの旅はこれからだ。
きっといろんなことが起こるだろう。
良い旅を。

久々に清々しい出会いだった。
おっともう9時か。
俺もパパッとテントを撤収して走り出すとしよう。

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天気も景色もいいんだが、今日は向かい風。

昨日、向こう岸を走っていた時は夕方までは追い風だったので、
折り返して逆方向を進む今が向かい風なのは当然といえば当然。

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うぇー、透明な壁が俺を押し返すー。

これも修業か。
クルマがバンバンくるのに比べればずっといい。

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チラホラ農家がある。
考えてみればもうこのあたりは首都レイキャヴィークから50キロぐらいだ。
首都から50キロなのにこんな状態というのがむしろアイスランドっぽい。

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ここは分岐点があって、
ダートの山越えルートかリングロード経由かを選べる。

マテオはダートのほうを勧めてくれたが、俺は一旦リングロードに戻る道を選ぶ。
またあのクルマだらけの道に戻るのはイヤだが、
今の装備ではダートを走っても楽しめないし、食料調達も必要だからな。

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ただの民家の名前。

でも10回ぐらい続けて言ってると、だんだん『バケラッタ』に近づきそうな気がしてこないか?
そう思ったのでとりあえず撮っておいた。
そのうち誰かアイスランド人に発音してもらおう。

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延々と伸びる道。
でもいずれは終わるだろう。
目で見える範囲なんて、広いように見えてもせいぜい5キロぐらいだ。いつかは過ぎ去る。

思えば、アークレイリも、ボルガルネスも、目指している時は本当に長かった。
でも今となっては一瞬だったように思える。
日記に記録しておく価値ってのはこのへんにあるんだな。

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ついつい後ろを振り向くのは、しんどい時の証拠かな。

でも、もうじき迂回ルートも終わるハズだ。
もうちょい、もうちょい。

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あーーーー。
ようやく着いた、リングロード。海底トンネルの向こう側。
30キロもない距離に5時間もかかってしまった。さすがに向かい風の徒歩は遅い。

これからは移動する方向が90度変わるので風はさほど気にならないと思うが、
今度はクルマのせいでやっぱり徒歩がメインだろう。
ここは忍従いたしましょう。

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うーん。怖いよ。
クルマは多いし速いし、そのうえ見境なくバンバン追い越しするのが見るからに危険だ。
これもまたアイスランドの一面だけどな。
田舎から出てきたばかりの俺にはもう、とてもとても。

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小さな町の前で、自動で時速が表示される機械を発見。
暴走車の多いアイスランドでは珍しく効果的な設備じゃないか。
この計測が直接処罰に繋がるのかどうかは知らないが、
実際に大抵のクルマはこの前で減速しているので、やはり一定の効果はありそうだ。

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海の向こうに見えるアレは、懐かしの首都レイキャヴィークか!?
おぉ、近い!
と言いつつ、レイキャヴィークにはたぶんまだ戻らないと思う。

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これだけ路肩が広ければ一輪車でも乗れそうな気がするよな。
でもこの道、路肩とセンターライン上に戦車が走った後のようなキャタピラ痕が付いててデコボコなのだ。

最初は何かの事情で重機が走ったのかなと思っていたが、どうやらこれ、たぶんわざとだ。
クルマがセンターラインを超えたり路肩にハミ出した時に、ガガガガッと音が鳴る仕組みだと思う。
アイスランドは人が少ないくせに自動車事故が多いらしいので、そのための対策だろう。

それはいいんだが、このデコボコのおかげで一輪車や自転車が路肩を走ることは難しい。
そりゃマテオも怒るわなーなんて思いつつ、
俺はもはや悟りの境地なのでダラダラと歩いている。

すると、黒い大きなクルマが路肩に止まって、中からおっちゃんが顔を出した。

「やぁ、テレビで見たよ。一周を終えてレイキャヴィークに戻るのかい?乗っていくかね?」

「いや、もうすぐ街なので大丈夫。それにレイキャヴィークにはまだ戻らないよ。
 実はグトルフォスとゲイシールに行こうと思うんだ。」

「ほぅ、それはいいね。じゃあ、良い旅を!」

「ありがとう!」

ほとんどそれだけのやりとり。
でも、こうやってドライバーに声をかけられるのって、かなり久しぶりな気がする。

ボルガルネスを過ぎたあたりから、ドライバーの反応が乏しくなったように思う。
クルマが多くて止まりたくても止まれないというのもあるだろうけど、
田舎から都会に近づいたことで、アイスランドでも少し人の気質が変わるのかなぁなんて、
ちょっと寂しい気持ちもあったんだ。

だから、こうして声をかけてもらえたことが嬉しい。
大した理由もなく乗せてもらうわけにはいかないけど、とにかく元気が出たよ。

よし、もうちょっとで首都圏の入り口にあたる街、モスフェトルスバエルに着くハズだ。
暗くなる前に着くぞー!

って思ってた矢先、なぜかいきなり雨が降り出す。

えー…?
こんなところでまさかの雨…?

でも幸い、街が近い!
残りの体力をフル活用して、一気にモスフェトルスバエルに滑りこみ!
よかった、なんとかズブ濡れまではいかなくて済んだ。

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お、庶民の味方、安売りスーパーBONUSがあるぞ。
さっそく突入!

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ぐわあぁぁ!18時半閉店!
たった30分前!
またか!またなのかぁー!!

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でも大丈夫。
すぐ近くに別のスーパーKRONANを発見。
こういう時、大きな街は便利でよい。

なんて書いてあるかわからんけど、
とりあえずガマンしろ!ってことだと受け取る。

本当は喜びとかそういう逆の意味らしいけど。

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スーパーで大量の食料を獲得し、店を出るとやはり雨。

キャンプ場があったからそこにこっそりテントを建てさせてもらうのもいいが、
雨のテント生活はイヤなものだ。
しかし実は俺、ここに来るまでの道の途中で、素晴らしいモノを発見していたのだ。

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道路脇の公園っぽいスペースにポツンと建つアズマ屋。
自称アーバン野宿家として鍛え抜かれた俺の眼が、この優良物件を見逃すハズもなかった。

アイスランドではなぜか東屋というのをほとんど見かけないので、
雨が降ってる時にこれを見つけられたのは本当にラッキーとしか言いようがない。

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なんとか今夜の寝床が決まったようです。

そんなわけで、これから寂しく一人誕生会を開催したいと思います。
と言ってもさっきのスーパーで買ったフルーツケーキと缶ビールを飲むだけ。
今日ぐらいはちょっと贅沢に欲しいものを買って食べるんだ!と思っても、
しょせんはその程度のものしか買う気にならない低燃費な俺。

今はもう20時だから、9時間早い日本では俺の誕生日はすでに終了していることになる。
じゃあ昨日は、俺が何歳なのかよくわからない微妙な時間帯が9時間あったということだ。

海外で誕生日を迎えるのは初めてだが、なんだか不思議な感じがするな。
逆に言えば、年齢なんてのはその程度の曖昧なもんだとも言える。

今日はほとんど歩いて46キロ。疲れた…。
雨はやむどころか、だんだんひどくなっている。
マテオは今頃リングロードを避けて山越えをしているハズだが、大丈夫かな。

今はこうして雨の中、アイスランドで日記を書いている。
いずれは日本に帰ってまたこの日記を読む時、果たして自分は元気でやってるのかな。

今は足は痛いし、肩も痛いけど、わりといいもんだよ。