5月20日(木) 雨雲は動く。

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朝から雨。
今日出ようと思ってたのに…。

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レイキャヴィークもこのキャンプ場も快適なんだけど、いささか飽きた。
雨の日にわざわざ出るなんておかしな話かもしれないが、それでも今日出る気は変わらない。
4日間張りっぱなしだったテントを、小雨の瞬間を見計らってササッと撤収する。

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後は、雨が少しでも弱まってくれるのを待つ。

数日前からキャンプ場の設備を使えるようにする作業が始まっている。
もうじきここも完全にオープンして、キャンプシーズンまっさかりになるのだろう。

おっと、忘れないうちにジェイソンにメールを書いておこう。

「俺はこれから雨にもかかわらずレイキャヴィークを出る。外を走りたくてたまらないんだ。さらば!」

ヤツとも色々あったが、さすがにもう再会することはあるまい。
もう会うこともないと思うと、あいつもちょっとはいいヤツだったようにも思えてくるからおかしい。

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14時。
たいして雨も弱まらないが、もういい時間なので出発。
防水加工の上着のほかは、あっという間に雨に濡れる。

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数え切れないほどの貴重な体験をした今回の旅だったが、
ラストはこんな感じのまま、しまりなく終わってしまうのだろうか。
なんか残念な、やりきれない思いがする。

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この坂、4月の初めに上がってきたなぁ。
あの時は本当に一周なんかできるのか、この先に何が待っているのか、まったく予想もつかなかった。

今はこんな感じだ。
帰国する日がもう1週間でも早いか遅いかしたら、何かが変わっていたのだろうか。
早ければ時間をもてあますことなく一周を終えた達成感に浸ったままサッと帰れただろうし、
遅ければ今頃はもっと他の場所を元気に走り回っていたかも知れない。

いやいや。
とにかく、今がすべてだ。今がすべて。

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トンネルで雨宿り。

死ぬにせよ、生きるにせよ、この瞬間は止められない。
今はただこうして写真を撮って、今思うことを書き記すのみだ。

今日はどうも機嫌がよくない。コンディションのせいか?
アイスランドもアイスランド人も見慣れてしまってもうどうでもいい。
たまにはこんな日もあるだろうけど、最後までこれだとイヤだな。

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また別のトンネルで雨宿りをしていたら、偶然青年が通りがかった。
ニュースで見た人だ…と言ってくれる。
よく見ると美青年なのにヒゲを生やしてるのがなんだか妙な彼は、オラフル君。

あんまり期待もせずに「雨はやむかな?」と聞いてみると、

「ボクは少し天気を見ることができるんだ。」と言って、雨雲をジーッと眺め、

「大丈夫。雨はやむと思うよ。」そう言った。

どういう根拠かは知らないが、そう言われると俺も雨はやむような気がしてくるよ。

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またしばらく歩くと見えてきたあれ。
なるほど、どうもどっかで見たような道だと思ってたら、モルモン教会に至る道だったか。
バスと歩きではここまで来る所要時間が全然違うものだな。当たり前だけど。

あまり何も考えることもなく、黙々と歩き続ける。
やがて、街の切れ目のような場所に着いた。

おそらく、ここを出るとしばらく街はない。
この道をまっすぐ行けば、50キロ先にケプラヴィークの空港があるだろう。

そういえば、4月に空港からこの街に来た時は、クルマに乗せてもらってたんだったな。
オーロラの輝く、マイナス2度のとても寒い夜だった。
あの時は地図も持ってなかったので、
泊めてもらったタクシー会社の事務所の位置がどこにあるのかはわからなかった。
でも今なら、ちょっと探せばわかるんじゃないだろうか。たぶんこの近くのハズだ。

しかし、あのドライバーのおっちゃんは仕事中だろうし、果たして俺のことを覚えているだろうか。
それに、たまたまちょっと親切にしただけの相手に、また会いたいと思ってくれるだろうか…。

しばらく悩んでいたが、このまま先に進んでも全然楽しくなさそうなので、
思い切って来た道を引き返し、タクシー会社を探してみることにした。
あの夜のタクシーの動きをできる限り思い出して、地図と照らし合わせながらあたりを歩く。

途中で誰かに呼ばれて顔を向けると、走行中のクルマの助手席から、
モルモン教会でディナーを作ってくれたあのハイテンションおばさんが満面の笑みで手を振ってくれていた。
ハハハ、意外すぎる再会だ。お勤めごくろうさまです。

記憶と現実を比較しつつ、だんだんとアタリをつけていく。
たぶん、この道だろう。確かこんな感じだった。
そうやって進んで行くと。

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あ。
ここだ。ここだった気がする。

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間違いない。
アイスランドに来た最初の日の深夜、この事務所に泊めてもらったんだ。

ためらいつつも中に入ってみると、あのドライバーのおっちゃんはいなかったが、
確かに会った覚えのある、胸の大ーーきな(ドライバー氏談)女性がいた。

彼女は俺を覚えていてくれて、アイスランド一周の成功をとても喜んでくれる。
そして無線で何やら話し、

「彼はあと15分もすれば帰って来るわよ。ここで待っていなさい。」

そう言ってくれた。

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事務所の地図を見ながら彼を待つ。
やっぱりアイスランドは世界の中心だ。

待つこと30分。ついに彼が帰って来た。

「おぉ、キミかぁ!ニュースで観たよ!
 ほら、ここのテレビで、あのユニサイクルの日本人がテレビに出てるぞ!って大騒ぎしたんだ!」

あぁ、覚えててくれたんだな。しかもとっても嬉しそうだ。来て良かったんだなぁ。

「まったく、よくユニサイクルでアイスランドを一周なんかして帰ってこれたな!
 そんなことをしたのはキミがきっと初めてだろう。
 私はハッキリ言って、キミが一周できるなんて信じてなかったよ!!」

信じろよ!!
…でもまぁ、気持ちはわかる。

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あの時果たせなかった写真を撮る。
胸の大ーーきなおばさんにも入ってもらえば良かったなぁ。

ずっと聞きたかった彼の名前は、トルラルクル・オットソン。通称ラッキ。
彼の名前は北欧神話の雷神トールに由来しているそうで、

「要するに強い男って意味なんだが、ダメなんだ。女性にはまったく勝てない。」

そんな陽気で冗談好きなラッキと話をしているうちに、なんだか話題が妙な流れに?

「今から電話で知り合いのジャーナリストを呼ぶよ。
 彼はきっと飛んできて、キミにインタビューするぞ!」

しばらくすると、ホントにジャーナリストが飛んできた。

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彼はグズニィ氏。
本業のかたわら、今俺がいるハフナルフィヨルズルの街の広報誌を手がけているらしい。

実は彼、今日クルマで走っている時に歩いている俺を見かけて、
できれば取材したいなーと思っていたんだそうだ。
そっかー、それは良かった。ひとごとっぽいけど。

事務所内でグズニィ氏からインタビューを受け、写真も撮られる。
広報誌が出る頃には俺はもうアイスランドに居ないだろうが、ネット版もあるそうなので楽しみにしておこう。

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で、ネット版。
なんて書いてあるかはもちろんわからない。
でもひょっとして、アイスランド語で一輪車ってエインフョーリって言うのかも?

取材が終了してグズニィ氏も去り、俺もラッキに見送られて事務所を出る。
今日はラッキの勧めもあり、この近くにあるキャンプ場に泊まることにしよう。

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広い公園の中にあるキャンプ場。まだオープンしてないようだ。
もう21時過ぎで併設されてるゲストハウスの受付にも誰もいなかったので、
とりあえず勝手にテントを建てさせてもらった。
翌朝に誰か来たらその時お金を払えばいいだろう。

ここに来るまでの間、自転車に乗った知らない人が、

「無事に一周を終えたんだな。よかった!すごいことだよ!」

と、褒めてくれた。

たくさんの知らない人たちが、俺のことを少しずつ気にかけてくれていたらしい。

雨の中を鬱々と歩いてずっと不機嫌でグジグジしていたものが、
タクシー会社を探しはじめたあたりから、いつのまにかすっかり元気になっていた。

目的をみつけたり、人に認めてもらえることが、立ち直るキッカケになるんだな。

暗い気分で延々と歩き続けていたつもりが、実際には16キロしか進んでなかったよ。