愛知って…

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夜中の雨は止んだ。
夜が明ける前にこの場を離れなければ。
寝たりない分は、暑い昼間にどこか涼しいところで寝ればいい。

1号線の旅は、豊川市からやがて岡崎市へと至るだろう。
日が昇るにつれ、気温が上がる。やはり暑くなりそうだ。
愛知県に入ると交通量が激増するので気をつけろとはよく言われたが、確かに多い。
しかし、意外と歩道が途切れないので、今のところはあまり問題を感じない。
そのかわり、国道1号線は時々、自転車歩行者一輪車に分類される俺を、東海道の旧道へと導くのだ。

旧東海道を巡る旅は楽しい。
草と岩と風のほかには何もない印象だったアイスランドはもちろんのこと、雄大な北海道の大地も、ともすれば単調に映る。
しかし東海道には、そこで暮らし、往来した無数の人々の気配が今も残っている。
たとえば各地の宿場跡には一里塚などの史跡がよく保存されていて、
この道が数百年もの間、日本の大動脈であったことが想像される。
東海道五十三次や東海道中膝栗毛をマトモに読んだことはなかったが、
江戸時代の人々と同じく人力で東海道の旅を終えた後なら、
きっと身近なことが書かれた文献として、おもしろく読むことができるだろう。楽しみにしておく。

さて、江戸の人々が茶店でメシを食いつつ休むのと同様に、俺はコンビニかスーパーで食料を買って休む。
たまたま見つけたスーパーで、ささやかな食べ物を買って出入り口に戻ると、いつも置きっぱなしの俺の荷物の前に、会社員らしき男性が立っている。
彼はゼリー状栄養食を俺に手渡し、一輪車で走っている動画を撮ってもいいかと尋ねてきた。
そういえば彼、さっきレジでそのゼリーを買ってたな。
ゼリー1つだけ買うなんて変わった人だと思っていたが、俺にくれるつもりだったとは…。よし、実演ぐらい楽勝だ。
で、スーパーの外で軽く走る。
あれ、いつのまにかギャラリーが増えてるぞ。
若い家族連れが、会社員の彼と一緒になって、しきりに感心しているようだ。
しばらく彼らと和やかに話し、お互いに記念撮影。
若い奥さんが俺の写真を撮り、ありがとうと言いそうな場面で「ごちそうさまでした。」と言う。
…え?ごちそう?
愛知県では昔からそういう言い方をするのだろうか…。謎だ。

彼らと別れ、ようやくさっき買った食料にありつけそうである。
…と思ったら、若いお父さんが戻ってきて、なんと俺に2000円を手渡そうとするのだった。
そりゃあマズイと思ったが、結局拒み切れずにもらってしまう。

「この金で一輪車のロックでも買ってください。盗まれますよ。」

彼はそう言うのだが、ロックなら実はもう持っている。
今や懐かしい稚内の日本最北ホームセンターで買ったからなぁ。
でもこれ、今までに2回ぐらいしか使ったことがないんだ。
コンビニやスーパーに入る時は、荷物はいつも固めて置き去りである。
一応『日本縦断中』の看板を表に向けて、
「これで盗めるもんなら盗んでみろ!」という威嚇をしているつもり。

しかし、このあたりはどうも治安があまりよくないらしい。
地元民である若いお父さんがそう言うのだから信頼性が高いし、
実は俺も昨日の豊橋市で、ここはちょっと危ないかな、という気配を感じ取った。
愛知を経由して、今後はさらに京阪神も通るだろう。
気は抜けないが、でもいちいちロックするのはめんどくさいなぁ。
それはともかく、若い夫婦の気持ち、受け取ったぜ!

岡崎市に入った。かなり暑い。
岡崎城のある公園で休んでいると、普通に北海道にいればありえないぐらいの汗が流れ落ちる。
でも、Tシャツの上に着たメッシュジャケットを脱ぐことはない。

どうも俺は比較的暑さには強いようで、汗が大量に出ているからといって、特にどうなるわけでもない。
このジャケットを脱いだのは箱根だけだが、あれはほとんど登山みたいなもので、さすがに暑かった。

岡崎城は写真に撮るほどにはよく見えないし、休憩もそこそこに出発。
一気に走って距離を伸ばし、疲れたらコンビニでまた休む。
すると、コンビニから出てきた家族の奥さんが、凍ったお茶のペットボトルをくれた。
そうそう、最近のコンビニには凍らせたジュース類が売られてるんよなぁ。…で、あなた方は?
そうだ、ちょっと前にクルマで俺を追い越して行った家族だ。
疾走する俺を見て奥さんが歓声を上げて驚くのを、『フッ…してやったり。』と内心で思った記憶がある。
なんと、気になったのでわざわざ引き返して俺を探した、とのこと。
…奇特な!!

今回の旅では、俺を探して会いに来てくれるという嬉しいパターンが時々ある。
しかしまぁ、みんなつくづくキケンジ探しが上手いなと感心してしまう。常に国道を走ってるとは限らないんだがなぁ。
でも逆に考えれば、ひそかに探してみたが結局みつからなかったというケースもあったのだろうか。
それはもう、縁だな。

岡崎市を出て、今度は安城市。
バイクの旅ならば気に留めないような地名も、遅い一輪車だとよく記憶に残る。
それにしてもだ、愛知県に入ってから、声をかけられまくっている。
平日なのに、クルマから。休んでいれば、通りがかった人から。
ママチャリで背後から追走しながら話しかけてきたマダムもいる。

なんなんだここは。

愛知県民の熱い習性なのか、それとももはや関西文化という枠で考えるべきなのか。
俺も一応関西出身だが、確かに大阪神戸の人々なら、知らない人でも10年来の親友みたいに気さくに…図太く…い、いや。これ以上はまだ考えないようにしよう。
そんなことを思いつつ走っていると、またしても営業バンから出てきた男性が、手持ちの金がこれしかなどと言いつつ、1200円を手渡そうとするのであった。

金の連続投与…な、なんという実利的な県民性だ。
正直言って、目の前に金を出されれば欲しくないわけではない。
だが、見ず知らずの人からこれ以上、金銭を受けとるわけにはいかないのだ。
しかし彼は、こんなことを言う。

「私はムチャをする人が好きだ。ムチャしてる人に金が回らなければ、社会がうまくいかないじゃないか。」

よくわからないが、とても明確に自己のスタンスを貫いている人らしい。
聞けば、震災被害を援助するための『ランフォーピース』という企画を自ら立ち上げる活動家でもあるとのこと。なるほど。
結局これまた断り切れず、その気持ちを受け取ってしまった。

ここで書いてもあまり意味はないと思うが…。
金は死なない程度には持ってるので、熱い気持ちは金銭以外で伝えてもらえると嬉しいよー。

静岡では自転車歩行者禁止のバイパスに苦しんだが。
愛知では、それに代わってやたらと歩道橋が多い。
不幸な事故を未然に防ぐ素晴らしい設備だが…あぁしんど。

あたりはすでに暗い。
もう何本目か忘れた歩道橋を渡り終えると、いつしか名古屋市に入っていた。
といっても名古屋は広いので、今夜中に中心部まではたどりつけまい。
適当に寝床を見つけ次第、ゴロンと仮眠を取ろう。

ところで、今日の昼間は一体何度まで上がったのだろう。
ようやく涼しくなってきた21時、道路の温度計は31度だった。…推して知るべし。
きっと、うだるような暑さ、というやつだったのだろうが、俺はやはりわりと平気なほうだ。
これだけコンビニと自販機があれば、脱水症状にも陥るまい。

思えば、飲み水が貴重で雪解け水もよく飲んだアイスランドでは、こんなことを書き記したと思う。

「本当にノドが渇いた時、最もうまいのは水だ。
ノドが乾いたと言って水以外を飲むようでは、まだ本当に渇いているとは言えない。」

まさに今、その本当ではない感じ。水ばかりでは味気ないよねぇ。
俺のこのブヨブヨな感じが、日本の現状を体現していると言っても過言じゃないかもなぁ。

とある図書館前で仮眠を取り、今朝。
早くも照りまくる朝陽!これは今日もくるねー。

タクシーのドライバーがやたらと俺を注視するので何かと思えば、
もう何年も前に某ライダー仲間のキャンプで知り合ったライダーさんだった。
まさかこんなところで再会するとは。
長い踏み切りが開くまでの間、しばらく話して記念撮影。
なんともいえない土地だな…愛知県。

気がつけば名古屋まで来たねぇ。
これからどうしようかな。
あ、昨日の走行距離は、54キロ。