岩国で一番うまいラーメン屋伝説

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青いユニに乗った好青年わたぼう氏とのランデブーを終え、
再び一人旅に戻った俺。

さすがに横に長く3泊4日かかった広島県はすでに抜け、
今や山口県の岩国市を走行している。
岩国から国道2号線は海を離れてまたしても山の中に突入するのだが、
俺は今回は山に行かず、
わたぼう氏オススメの海沿いを走る国道188号線ルートを進もうと思う。
山はまた歩道も無いらしいし、アップダウンも多い。
一輪車旅的には距離は最短でも結局時間がかかるパターンだろうと考えたからだ。

空はすっかり暗くなったが、
わりと明るい岩国市街の街灯をアテにして軽やかに走る。
ペダルが軽い。
後半の旅も一週間になって旅の身体ができてきたのかもしれないし、
わたぼう氏と楽しく走ってきた余韻が調子を上げているのかもしれない。

しかし油断は禁物である。
路面が暗くてギャップを見落としたか、
広い歩道を走っていて後半の旅で初の人間ごと転倒。
なんてことはないが、目は覚めた。
やはり夜の走行は充分に気をつけないとな。
ありがたい警告、見逃してはならない。

転倒からあっさり立ち直り、再びサクサクと走っていたら。
歩道に面したパチンコ屋の駐車場から、おもむろに声をかけてくる人がいる。
一輪車を止めて俺と同い年ぐらいの彼と話していると、
さらに現れた奥さんが温かい缶コーヒーを手渡してくれた。
どうやら夫婦は一輪車旅を気に入ってくれたらしく、しきりに感心してくれる。

これまでも声援は何度ももらってきたのだが、
後半の旅ではこうして呼び止められることはあまりなかった。
冬のせいかもしれないし、昼間はわりとかけるようになったサングラスのせいかもしれない、
なんて漠然と考えていたところなので、やはり嬉しい。

そんな彼、いきなりおもしろいことを言い出す。

「このすぐ先に、岩国で一番うまいラーメン屋がある。ぜひ食って行って欲しい!」

そう言って、奥さんからもらった千円札を手渡してくるのだ。
うわっ久々に来たよ現金攻撃!
これはなんとしても回避せねば…と焦るも、
相手はラーメンを食わせたい!という今までにない新手の情熱的手法を駆使しているので、
正直なかなか断りにくい。
結果、今回も根負けして受け取ってしまった。
うーむ…。
かくなる上は、その「スエヒロ」というラーメン屋に是が非でも行かねばなるまい。
颯爽とパチンコ屋に入って行った夫婦と別れ、俺はスエヒロを目指す。

教わったとおり、そのラーメン屋はすぐ近くにあった。
外の建物の陰にユニサイクルを置き、さっそく入店。
中は明るく、店の人々は元気がいい。
たまたま空いていたレジの近くのカウンターに座れば、
俺のデカいザックを邪魔にならないようにと厨房の入口に置かせてくれた。
で、そこでどうしても目につく『日本縦断中』のプレート。
ホール係の女性に話しかけられたのをきっかけに、
一輪車旅について話し、さらにこの店に来ることになった経緯も披露する。

「そんなこともあるのねー!」

と、なにやらウケまくっている様子だ。

ここのシンプルなメニュー、中華そばは確かにうまい。
時にはコンビニのインスタントではないラーメンを食いたいもんだとちょうど考えていたので、
なおさらありがたみが増すというもの。
やはり本物のラーメンはいい。

この店は老若男女の店員さん達の仲がとても良いらしく、
和気あいあいとしていて見ていて好ましい。
看板娘とおぼしき明るく綺麗な女性が、
なんと頼んでもいない餃子を持ってきてくれた。

(小声で)「サービス。」

か…感無量!!
おいおい、こんな御時世でだよ、泣かせる話じゃあないか!

ラーメンはうまいし、店員さんはいい人たちだし。
あの夫婦は本当にいい店を紹介してくれたのだなぁ。
俺としてはもう、確実に岩国一のラーメン屋だよ。
他では食べてないけど、独断でそう決まった。

日頃たいして量を食わない俺には、
ラーメンと餃子は充分なボリュームだった。
大変な満足感を腹に抱えつつ勘定を払おうとすると、
なんと怖ろしいことに、金を受け取ってくれない。

大きな声では言えないので小声で書くが、
「いいです。」
とのこと。

こ…これは…。
どうしたもんか…?
しょうがないので、金の代わりにキケンジ名刺を大量に置いてくる俺であった。
ごちそうさまでした!!

うむ、やはりラーメンはいい。
岩国一のラーメン屋スエヒロを後にし、俺の腹は重いが足取りは軽い。
そろそろ寝床を探す時間ではあるが、今夜はもう少し進んでみたい気分だ。

国道188号線は予想どおり海岸線に出た。
振り返れば、広島湾の大きなカーブに沿って、
今日走ってきた道のりの灯りが点々と見える。美しい。

ツイッターでも書いたが、
この先アーバン野宿に適した場所はあるかなと、
なにげなく見たGoogleマップで偶然『一刻館』という建物を発見した。
高橋留美子の『めぞん一刻』は好きなマンガである。
これは立ち寄らねばなるまい。

結果はまあ、ただの今時のアパートであり、
さらに暗かったので、一刻館という文字すら発見できなかった。
名前は大家の趣味なのだろうか?
隣に建っていた大家っぽいお宅に、昼間なら聞きに行ったやもしれない。

山口県の岩国市、なんて言っても、
これまでの俺にはまったく印象の薄い街であった。
だが今は、そうではない。
ここには人が住んでいる。
パチンコ屋で会った夫婦や、うまいラーメン屋もあるし、一刻館も建ってる。

旅をしていていつも思うのは、
ここにも人が住んでるんだなぁ。
という、そんな単純なことだ。

日本でも海外でも、ふと気づくと同じことを感じている。
まぁ、わざわざ人がいる場所を選んで来ているのだから、
当たり前といえば当たり前なのである。
そうではあるけれども、俺の旅はいつもこの、
「ここにも人がいるなぁ。」
を確認することが目的であるような気もする。
俺は一人旅が好きではあるが、
たとえば高山や秘境のような、
本当に人が居ないところに行きたいとはまるで思わないのだ。

一人旅だからこそ、人と出会える。
ニヒルに孤独を愛するように見せかけといて俺は本当は、
人と出会いたいから、一人旅をしているのかもしれない。

54キロ走り切り、
今夜も適当かつ鋭敏に見定めたポイントにて、
草枕とシャレこもう。
黒い海に浮かぶ三日月が、いま雲に隠れた。