descent -くだり-

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湯平温泉は湯布院町のあちこちにある温泉郷のひとつで、
知る人ぞ知ると言うより知ってる人しか知らないマイナーな温泉地。
よく言えば秘湯。
そしてここには、父の実家がある。
今では空き家となっているその家の様子を探るべく、
旅の途中で俺はここまでやって来たのだ。

国道210号線から温泉郷まであと3キロ。
この3キロがまた、ひたすら上り坂だ。
ここには子どもの頃から何度も来たことがあるのだが、
まさか一輪車で来ることがあるとは当時は夢にも思わなかった。
ここって、こんなにひたすら坂だらけだったんだな。

あともう少しなのだが、進まない。
疲れているようだ。かなりイライラしている。
昨日長く走った疲れと、昨夜あまり眠れなかったのと、
今日は朝から坂を上りづめということと、
明るいうちに着きたいという焦りに加えて、
なまじ知っている場所だけになかなか先が見えないという苛立ち。
さらには、途中に店がなくて空腹だというのが大きい。

歩いて坂を上るにはジャマでしかない一輪車を投げ出したくなる。
いや一回投げた。自家塗装の黒が少し剥げた。すまん。

温泉に入るためにこんなに疲れていては意味がないじゃないか。
種田山頭火もよくこんなヘンピなとこまで来たもんだな。
もう引き返したい気分にすらなるが、ここはどうしても行かねば。
たった3キロなのに相当長かった。
湯平温泉郷に、到着。家はまだもっと上にあるのだが。

湯平温泉は本当にひなびたところで、
石畳の細い坂道の途中にいくつかの温泉と宿、土産物屋などがあるだけ。
しかも来るまでが遠いので、
こんなところに徒歩や一輪車で来るのはまったくオススメしない。
まぁ、秘湯ですから。

それにしても腹が減った。
アテにしていた温泉饅頭屋はとっくに廃業してるし、
仕方なく土産物屋でお菓子でも買おうとして入れば、
店番のじいちゃんは客が来たことに驚きあわてふためいている。
大丈夫か湯平温泉…。

しかし、ポテトチップとチョコをかきこんだおかげで腹は落ち着き、
荒んでいた精神状態もまた安定を取り戻した。
よし、温泉は後にして、まずは家の様子を見に行こう。
石畳をさらに上り、もっともっと奥地へと。

そして、ようやく来たよ。
小学生の頃は夏休みのたびに遊びに来ていた家。
初めてバイクで日本を回った11年前にも立ち寄り、
まだ知り合って間もなかった旅仲間の中田氏やマイケルさんと養命酒を飲んで騒いだ。
たしかTシャツ旅の時にも寄っている。
そんな田舎の家。

それが、荒れている。
一目見た時の印象が良くない。
壁が剥がれかけてペラペラしている。屋根も痛んでいる。
これほどとは…。

預かっていた鍵で勝手口を開け、中に入る。
ブレーカーを戻せば電気は使えるようだ。
家の中は外見ほどひどくはなく、
今は亡き祖父や祖母が生活していた頃の光景をなんとかとどめている。
だが虫などはよく入るようで、畳が汚れているのが気になる。
雨漏りもあるのかもしれない。

空き家というより、廃屋に近づいている。

俺の記憶をおいて、家は着実に朽ちていた。
あわよくばこの家に泊まって体を休めていくつもりだったが、
今はどうしてもそんな気が起きない。
わりとどこでも野宿できる俺だが、廃屋だけは怖くてムリなのだ。
一旦役目を終えてしまったモノというのは、
連想させることがあまりに多すぎるのかもしれない。

仕方がない、湯平温泉で休むのは諦めよう。
ちなみに温泉街の旅館で泊まるという選択肢は俺にはない。
もともといつ来ても人の少ない湯平温泉ではあるが、
今日に限っては、いつもの老人ではなくカップルがいたりするのに驚く。
今日はクリスマスイブ。
人のいない温泉宿にシケこもうという魂胆が見え見えである。
そんなところに誰が泊まるものですか!

でもそれでも。
せっかくだから温泉だけには入っておくか。
そこで子どもの頃から慣れ親しんだ浴場、金の湯へ。
ここも数年前に改装されたが、
今も使われているモノは生き生きとして、昔の想い出を繋ぎ止めている。

こんなことを書くとまたモテなくなるのだが、
これが後半の旅で初めての風呂である。
湯船に沈む両脚はそこそこ太くたくましく、カッコイイ。
こうして身体がやる気を出し始めているのだ。
心がボーッとしていてはしょうがないよな。

よし、来たばかりの湯平だが、これからここを出よう。
大分に戻って10号線の旅をやり直すかとも一瞬考えたが、
せっかくここまで内陸に来たのだ。
ついでに九州を横断して西側の国道3号線を走ってみるのもいいだろう。
先日も書いたが、同じ道をひきかえすのが何より苦手だ。

もう16時過ぎか。
ここから向かい風の中を西に進んでどこまで行けるだろう。
湯布院の道の駅まで行ければいいが。
もしこんな何もない山の中で真夜中になったらどうするって?
大丈夫、そんな時のためのバス停だろ。

温泉を楽しんだあとは、湯平温泉郷を出る!
これまで散々必死に上ってきた上り坂、
すべてマウンテンユニであっさり下りてやった。
早い、早すぎる。
まさにあっという間に湯平温泉郷は背後の彼方、
そして国道210号に戻ってきた。
一瞬の夢だ…。
そしてここで、また雪が降ってきた。

雪の勢いは強い。
あたりの農村も俺の服にもすぐに雪が積もり、すべてが薄く白くなった。
いいよ別に、これぐらい。
道路脇の温度計が言うには気温0度。
楽勝だぜ、北海道から来た俺をなめるなよ。

あたりがすっかり暗くなっても、
雪明かりがほのかにゆく道を照らしてくれる。
この国道は、歩道があるのが助かった。
順調に10キロ進んで湯布院の道の駅に到達。
なんとかなるもんだなー。

ここは室内の休憩所が夜でも解放されていてありがたい。
さすがに眠い。今日は一日が長かった。
もうすぐに寝よう。
移動距離は49キロ。休むつもりが普通に移動してしまった。


10時間ぐらい寝て、華麗に復活。
外はちょっとした雪。向かい風ビュービュー。
実に楽しそうだ。
天気は晴れてるし、回復傾向らしいから問題あるまい。

ブログも書いたし、もう10時だ。
これからしばらくは、今までのようにあちこちに店があるわけではない。
当分コンビニもなさそうだし、
道の駅の営業開始を待って食料を調達してから出発しよう。

朝の案内所には、道の様子を調べに来るドライバーが多い。
ノーマルタイヤでこの先はやめたほうがいいとおもうぞ。
そういえば俺のユニもノーマルタイヤと言えばそうだが、まあ気にしない。
この風で雪で上りだと、どうせしばらく乗れないって。

いやー、さてさてと。行くか。