流れ者

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いい風が吹いている。

薩摩川内の街は、意外と大きい。
長いアーケード街もあるし、百貨店なんか久しぶりに見たし、
なんと言ってもヒッチハイカーがいた。

デカい荷物を背負って俺と反対方向に進まんとする彼、
どこまで行くのだろうか。熊本?福岡?もっと先か。
目と手だけで挨拶して、一瞬の遭遇は終了。

市街を出ると、国道3号線は2車線の綺麗なバイパスになる。
歩道の仕上がりも完璧で、
このまま鹿児島まで連れてってくれればいいのにと切に願う。
お、遠くの停車帯にクルマが止まった。
だがあわててはいけない。
ああいうクルマはそのほとんどがただ携帯で喋っているだけであり、
俺を待っていたりなんかする確率はなかなか低いのだ。
が、おや、今回は人が出てきたな。これはヒットか。

優しそうな若いご両親と、可愛らしい娘さんが2人。
毎日どこぞをほっつき走っている野良羊のような俺から見れば、
もはやまぶしいぐらいの幸せそうな家族である。
で。
なかなかビッグなリアクションで驚いてくれるのは嬉しいのだが、
ジュースでもあげられればよかったのだけどと、
千円札を差し出されたのには少し困った。
うーん、お金だ。
やんわりと拒むのだが、これで今まで拒み切れたためしがない。

考えてみれば、ジュースや食料はありがたくいただくのに、
現金だけは困るというのもおかしいと言えばおかしい。
お金をもらうことの何がひっかかるのだろう。
旅が仕事でもないのに現金をもらう筋合いはないということか?
だがそんなことを考えてウームと悩んでいるうちに、
結局はいつも受け取ってしまう俺なのであった。

あ、ちょうど今、そのご家族のたぶん奥さんからメールが来た。
キケンジ名刺渡してるからな。

「ブログ見ました。なかなか凄い人なんですね!
怪しい人にしか見えませんでしたけど…(笑)」

ありがとう!俺がもっとも喜ぶ系の賛辞ですよ!

ダンナさんに教わったとおり、 快適バイパスは長くは続かなかった。
国道3号線は3号線らしい田舎の国道にもどり、
最初にみつけたコンビニで、
さっそくさっきの千円を昼メシに変えさせてもらう。

ここからは、緩やかなアップダウンを繰り返しつつ、
内陸をショートカットしてひょっこり鹿児島へと至るのであろう。
3号線的には門司から350キロ。日本縦断も3200キロぐらいか。
300キロも3000キロも、過ぎ去ればすべて一瞬の記憶だ。

古い家の造りや瓦の形、墓の構えなどに沖縄風の影響を見てとれる。
ずいぶん南に来たもんだ。
老若男女問わず、気さくというか気楽に話しかけてくれるのも、
やはり南国の気性なのだろうか。
土地の人々が笑顔で迎えてくれるというのは、やはり嬉しいものだ。

だが、そんな心温まる声援を、
急な坂の手前でかけてくれるのだけは勘弁してほしい。
キツくなっても途中で一輪車を下りられなくなるから…ね…。

いちき串木野市という、
舌を噛みそうな、いかにも覚えられなさそうな、
拳で語り合った後に友情の涙を流しながら合併したような、
そんなさつま揚げ屋だらけの市街を元気よく上り切ると、そろそろ夜だ。

今日はいつもの道の駅のような目的地がないので、
適当な時間になったら適当なところで寝るとしよう。
緩い峠を上ったり下りたり。
暗いトンネルも午後7時なら(さほど)怖くない!

しかし、うーん?
なかなか野宿好適地を見つけられない。
この調子じゃ鹿児島に着いてしまうんじゃないか。
それはそれで構わないが。

歩道さえあれば夜中に進むのもそれなりに味わいがあるし、
さらなる極限状態のためのトレーニングとでも考えれば、
夜の世界にさまようのはそんなにイヤでもない。

ただ昨夜のように寒い夜中に熱く走り過ぎると、
寝るときに汗が乾かず冷えて不快な思いをする。
学習を活かして、進み方はセーブしないとな。

結局ここで寝るかと決めたのは、
なぜか国道沿いにあった自転車置き場だ。
ここならまあまあ、悪くない。

時間は22時、距離は60キロか。
また結構進んでしまった。鹿児島市街はもうすぐ近くだろう。
南国とはいえ冬の夜は冷える。
今はとにかく横になって、続きは明日だ。