山原(やんばる)・北

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沖縄一周の旅で難所があるとすれば、
それは奥港から東側の県道を通って東村(ひがしそん)へと抜ける、
長さ50キロの県道ルートである。

俺の記憶では、この間は樹海ばかりでなんっにもなく、
また国道でもないため歩道もまるでなかったように思う。
その上、前はバイクだったので気にしなかったが、
沖縄チャリダーのマツエ君によるとアップダウンも凄いらしい。
そんなわけで、実は昨日までの道のりは、
この区間を通る日に合わせて進む距離や天気の調整をしていたのだ。

そしてついに今日。
快適な寝床で7時には目が覚めたが、
この場を提供してくれた金城さんに一言お礼を言おうと待つ。
彼は8時前にはクルマでやって来て、俺を見るとなぜか一旦引き返し、
家から玉子焼きの乗った温かいご飯と汁物を持ってきてくれるのだった。
汁物の中身は、ユシ豆腐?というツルンとしてないモロモロの豆腐。
沖縄の朝の定番だそうな。うまい。

事務所内で朝食をいただきつつ、今日の行程について話す。
ここから東村までは50キロ程度ではあるが、アップダウンがキツい。
そして何より新聞によれば、今夜からが雨だ。
雨が早まればユニサイクリングはしづらくなり、スピードも落ちる。
あの道を1日で行けるもんかなぁと金城さんは心配そうだ。
だが俺は、おそらく行けるだろうと思っている。

彼は朝の連ドラ『カーネーション』が大のお気に入りらしく、
終わった瞬間に「早く明日にならんかなぁ。」とつぶやくのだった。
おっと、もう8時半か。
ありがたく朝ごはんまでご馳走になってしまった。
そろそろ出発だ。

荷物はまとめてあったので、出るのは早い。
金城さんに見送られ、固く握手をして一輪車に飛び乗る。
彼には本当にお世話になってしまった。
走りながら、無責任っぽいので日頃はまず言わないのだが、
つい、「また来ます!」と言ってしまった。

奥の町の東端あたりに、国道58号線の始点という小さな目印がある。
ただの国道の始点で俺には珍しくもないものだが、
なぜか金城さんがここで写真を撮っていけばと度々言っていたので、
ちょっと寄って脇にあった文章を読んでみる。

すると、意外なことに、
沖縄の西側を南北に貫く国道58号線、実は本当の始点は鹿児島にあって、
そこから奄美大島などを経由して、
沖縄最北の奥の町からまた始まっているのだという。

海をまたぐなんて、そりゃまた変な国道である。
俺なら海を越えた瞬間にあっさり名前を変えるところだが…。
しかし、本土からのメインルートが島々を経由して、
ついに沖縄まで達したという意味は大きなものだったらしい。
そういえば昨日、この国道を人力で作る奥の人々の写真を見たのだった。
なるほど、この始点が重要な意味がようやくわかった気がする。

さあ、ここから50キロが勝負だ。
突入と同時に歩道はあっさり消滅。
でもあれ?
側溝のところどころに小人用みたいなミニ階段が…。
あ、そうか、動物用か。
カニだかヤドカリだかムシだかカメだかヤンバルクイナだか、
とにかく落ちたヤツらがリカバリーできるようにしてあるんだな。

道のりは早速、挨拶がわりの上り坂。しかも長い。
これからずっとこんな調子なんだろうか。
うわぁ。きたよ。ついに。

左右を緑に囲まれながら延々と進んでいると、
この景色はなんとなーく、
山口百恵が真っ赤なポルシェに乗って走り抜けていきそうな気がする。

しかしこの道には交差点がない。当分ない。
しかも木々はヤンバルのそれで、
よく見ると緑というよりはジャングルに近い独特な植生だ。

そんな森は時々は切れ、ふいに海が現れたりもする。
冬の沖縄の海はエメラルドグリーンとは言えないが、
風景写真のような最高の美しさではなくても、
今の自分にはこれが最高だと思える光景に出会う瞬間がある。

ただの風景なのに、見た瞬間に疲れも迷いも消え去るような。
そしてそんな光景は、自分の心の中にしか残ることはない。

やがて海が消え、また樹海へと突入。そして坂。これの繰り返し。
左右にはヤンバルの森。
広いとはいえ沖縄なのでそこまで広大ではないハズなのだが、
鬱蒼と積み重なったような暗緑の山が、なぜかとても大きく感じられる。
これがヤンバルか…。

チラッと脇を見ると、ハブ捕獲用と思われるワナがあちこちに。
ヤンバルクイナを轢かないのは沖縄人の使命であるが、
ハブを見つけたら轢き殺すのは沖縄人の常識だそうだ。

気になる雨は、まだ時おりパラパラと降るぐらいで助かっている。
今のうちにできるだけ進んでおきたい。
いいペースで楚洲(そす)、安田(あだ)、安波(あは)と、
イチイチ振り仮名が必要な集落を通過。

安波の共同売店前では、初めて長めの休憩をする。
この県道にもいくつか集落があったんだな。記憶は実に曖昧なものだ。
しかし、ここまでもう20キロ以上。
いい感じで来ている。
これなら東村までは余裕じゃないか。

だが、この道が、安波を越えてからが本番なのだとは、まだ知らない。