イカスミ…だよね。

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

雨が止まない。全然止まない。
南城市のスーパーに、もう10時前からずっといる。

あまりにもヒマなので、
スーパーに併設の100均にてアクリル絵の具と平筆を買ってきて、
だいぶ傷ついてかすれていた『日本縦断中』の文字を塗り直す。

このプレート、北海道を走っている最中に、
思いつきで白い下敷きにマジックで書いて即席に作ったものだ。
よく字が消えかかるので今まで何度かマジックで修正しているが、
絵の具で塗るとまた違った感じになっておもしろい。

旅先で筆を握ると、Tシャツに絵を描いて日本を回った旅を思い出す。

バスのドライバーという石垣島出身のおじさんが話しかけてきて、
お菓子をくれつつ何やら色々と話していった。
彼の対応をしながらせっせと字を塗っていると、
なんだか元からおかしい字のバランスが、
さらに妙な感じになってしまったかもしれない。
日本縦断旅もあとちょっとだし、別にいいけどな。

もう15時になるのに、雨は降り続けている。
今日はもう止まないのだろうか。
スーパー前のベンチを向いた監視カメラには、
俺のアンニュイな姿がすでに6時間は写りこみっぱなしであろう。
年金生活の爺さんか。
いい加減、飽きた。

雨脚が、ちょこっっっとだけ弱くなった気がする。
そのスキに荷物をまとめ、電撃的に出発。
うむ、進めないほどではない。
今からではどうせロクなところまで行けまいが。

市街の別のスーパーでトイレを借りて出てくると、
俺より一回りぐらい年上の女性が話しかけてきた。
彼女は北海道から来たユニサイクルツーリストをひとしきり珍しがった後、
今、楽しい仲間たちと飲んでいるところがあるから来ないか、
雨もしのげていいんじゃない?みたいなことを提案してくる。

俺としては、これから少しだけ進むのも、
ちょこっと寄り道するのももはや大して変わらない。
これも縁だと彼女について行ってみることにし、
クルマの後を一輪車で追跡して、すぐ近くのアパートの一室へ。

そこは、60代のとある元気なおじさんの部屋だった。
それに俺と同じぐらいの年齢の男性2人と、そのうち一人の奥さん、
そして俺を連れてきたターミさんと呼ばれる女性が、
飲み会のフルメンバーであるらしい。
関係は職場の仲間とその友達とか、そんなもんであるようだ。

なんだかまるでよくわからない雰囲気ではあるが、
とりあえず歓迎されてはいるらしい。
ビールを渡され、パーム貝?だかをいただき、
さらにはイカスミのスープ…のようなモノを飲まされる。

イカスミをこんなにコッテリと飲むのはこれが初めて。
沖縄では正月などのイベント時にイカスミ料理を作る習慣があるんだと。
家の主人のおじさんはすでにかなりできあがっていて、
なぜか俺にマジックを握らせ、
部屋の真っ白なカベに、俺のサインを書けと要求する。
もちろん断ったが、どうしても書けと言うので、
もう知らんわと思い、カベに「キケンジ」と大書してやった。

うーむ、なんだか妙な宴会に連れ込まれたものだ。
まぁたまには楽しくていいけどな。
ちなみに写真の右端がターミさんである。

そのうちメンバー、カラオケに行こうという流れになり始める。
俺はここらが潮時かと考え、カラオケはちょっと…と言って辞退。
そのまま脱出するつもりが、なぜか、
ターミさんの家に泊めてもらうことになってしまった。

家には中1になる息子がいて、
しかもターミさん本人はカラオケで飲み続けるので居ないという。
酔った彼女は日本縦断中の珍しいお兄さんが行けば息子も喜ぶと言うが、
多感な年頃の少年が、突然の闖入者を見て喜ぶとは俺にはとても思えん。
だが相手は酔っ払いである。
半ば強引に、俺はターミさん宅に行くことに。

彼女の家はアパートのすぐ近くで、
宴会メンバーのケンゴさんというシラフの男性がクルマで送ってくれた。
彼自身も実はターミさんと初対面で家もわからないそうだが、
それでも唯一シラフでしっかりした人そうな彼だけが頼りだ。

クルマはターミさんの指示により、とある古いアパートに到着。
階段で5階まで上がるとそこが彼女の家だ。
中には話に聞いていた中1の息子さん、ジン君がおり。

彼もさぞや困惑しているだろうと思ったが、
母の性格を把握しているがゆえか、落ち着いて見える。
そしてケンゴさんはコミュニケーションをはかるつもりか、
中1のジン君にタバコを持ってないかと明るく尋ね、
ジン君もまた普通に持っていて、彼に1本差し出す。
沖縄では当たり前なんだそうだ…。
この分では、家の前の廊下に置いてあった、
暴走族風におもしろく改造されたチャリンコもまた、
ジン君の愛車なのであろう。

やがてバタバタとターミさんとケンゴさんが去り、
家にはジン君と俺だけが残された。
いかにも沖縄の次代のダサイ族文化を担いそうな彼ではあるが、
話すと素直で大人しい少年であり、
彼から沖縄の若者について色々と聞き出すのはなかなか楽しい。

沖縄の族は大体仲良しであまりチーム間のケンカもせず、
つい最近あった成人式暴走を機にみんな一斉に族を卒業し、
日本各地に職を求めて散って行くのだという。
まだ沖縄から出たことがないそうなジン君も、
いずれは沖縄を出たいのだと言う。

ひとしきりジン君と話して少し打ち解けたような気がした後は、
なぜか使い方が難解な風呂に入らせてもらい、
俺はもう早々に寝かせてもらうことに。

少し寝て深夜に起き、今こうして旅日記を書いている。
母親のターミさんはまだ戻らず、
明日は学校というジン君は、テレビをつけたままゲームをしているようだ。

沖縄の家にも一度は泊めてもらうことがあるかもしれないとは思っていた。
思っていたが…、まさかこんな特殊な環境とはな。
いや、これは特殊ではなくて、むしろ普通なのかもしれない。
独特のオレンジ色の瓦で玄関にシーサーが置いてある家ばかりが、
「沖縄の家」であるというばかりでもないだろう。

ともかく、雨の日に泊めてもらえたのはありがたい。
明日はどうにか天気も持ち直すようだし、
今夜はこんな体験もアリってことにしとこうぜ。
走行は17キロだ!