一輪車の島 後編

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次に見えてきたのは、米原(よねはら)ビーチか。

ここは昔、旅のライダーたちがたむろしまくる、
有名な無料のキャンプ場だった。
たむろするのが嫌いな俺は近づかなかったが、
毎日騒がしいという噂はよく聞いたものだった。

だが、フェリーがなくなった今はもう、
この島に愛車と共に来ることはできなくなった。
そしてそんな米原キャンプ場に人の気配はない。
一応やってはいるようだが、有料になっている。

飛行機の大きさの関係で、
今ではこの島には自転車ですら持ち込むのが難しいそうだ。
そんな中、まったくの偶然ではあるけれども、
俺は一輪車でやって来た。

たまたま一輪車だったおかげで、
自分の旅のスタイルを貫き、当たり前のようにこの島を走っている。
一輪車だからよかった、そんなことがあるなんてな。
それもこの小さな島で。

石垣島一周もそろそろ半分ぐらい来たか!?
そろそろ暗くなるぞーってところで、
石垣島の北端、平久保岬へと至る細長い半島が見えてきた。

平久保岬には岩の上に岩が乗っているというおもしろい奇岩があるのだが、
今回はその北端までは行かないことに決めた。

今から行っても真夜中に着くだけという事情もあるが、
それよりも、岬へと続く道のりが長ぁぁい一本道であることが大問題だ。
同じ道を通るのが嫌いな俺としては、ここだけは避けたい!
一周や縦断はできても、往復は無理。
それが俺の思考パターンなのだ!

そういうことで、岬への分岐のT字路ではあっさりと右折。
東岸の国道を南下して石垣市街へと戻るルートだ。
18時を過ぎ、さすがに暗くなってきた。
しかしここからは南下、つまり追い風。
これからが勝負だ。
交通量がかなり少ないので、遠慮なく車道を走れるのもいい。

この旅で夜中に走るのも、今日が最後のような気がする。
もうLEDライトの乾電池を気にすることもない。
存分にナイトランを楽しもう。

何もない真っ暗な道を、ひたすら走る。
たまに見える光源がむやみに嬉しい。
19時前、まだ開いている店を発見。
やった、ありがたい。

お菓子とパンを買い、熱い身体にコーラを流し込む。
…と?
店の女性の娘とおぼしき女の子が、俺のマウンテンユニをつつく。

「一輪車、乗れるの?」

「そりゃあ乗れるよ。これで北海道から来たんだから。
…北海道ってのは、日本の一番北。ここは一番南だね。」

「乗ってみせて!乗ってみせて!!」

「わかった、でもちょっと待て、せめてコーラを飲ませてくれ!」

急いで飲む。
本当はもう一本ストックを買いたかったが、その余裕はなさそうだ。

「よし、俺は今からこれに乗って、走り去る!
よく見ておくように。」

「うん!」

「せー、のっ、ホラ乗った!じゃあなーっ!!」

もはや胸キュン度全開仕様でカッコよく手を振りながら走り去る俺。
しかしその直後、ママ運転のクルマに追い抜かれつつ、
窓から「ガンバッテー!!」と応援されるのであった。

フフ、この島に来て初めて長々としゃべったよ。
ありがとう!

完全に夜になった。
石垣島は、南部の市街地以外の人口密度はとても低い。
時々現れる小さな集落をのぞいては、道に明かりもないのだ。
しかし、あと30キロも走ればまた空港に着くことはわかっている。
ここまで来たら、行くのみだ。

強い追い風は凄い。
自分の周囲の風が止まっているように感じたら、
実は上り坂を相当なスピードで駆け上がっているのだ。
そんな時は、風に乗れている。

自転車やスキーなどと違って一輪車には、
スピードを楽しむというイメージはあまりないかもしれない。
だが、風に乗っている時だけは、一輪車でもスピードに酔うことができる。

どこまでも軽く。浮いているような。

一輪車でこの感覚を共有できる人は、世界にどれぐらいいるのだろう。
そんな境地をこの夜、この島でも味わえるとは。

白保の町に入った。
ここまで来たら、あと少しだ。
確実に人工の明るみを増す街並みを走り抜け、
ふと気づけば、午前中にもやって来た場所にいた。

おぉ、戻ってきた。
平久保岬には行ってないけど、
これで石垣島一周は完了ってことでいいだろう。

マクドに入り、忘れないうちに旅日記を書いてしまった。
このマクド、何も書いてないけどひょっとして日本最南なのでは。

今日はよく走った。
走行距離、86キロ。
後半の旅ではダントツ1位の距離だ。
おっとぉ、ちょっと本気がハミ出てしまったか。
まぁ、夜遅くまで追い風の中を延々と車道走ってれば当然かもな。

ふぅ。
明日かー。