古い旅
関東から出発し、ときどきバイトをしながら九州、沖縄の島々を旅しているという2人。
俺が一輪車の旅と知ってとても感心してくれるのだが、
俺だって冬にこんな荷物満載の放浪キャンパーと、この最果ての島で出会うとは思わなかった。
ちなみに写真がいきなりセピア調になってしまった理由は、
使い捨てカメラのフィルムが古くて劣化していたため。
彼らはバスを待っていると言う。
与那国に3つある集落のうちの1つ、久部良(くぶら)にあるカレー屋に行きたいらしい。
話すと、なんとも気さくな人々だ。
久しぶりにしゃべる旅人との会話が嬉しく、俺はついさっき起きたばかりの悲劇を聞いてもらう。
「うわー、なんかドラマみたいだねー。」
「人生、ムダなことは起きないって言うよ?」
口々に慰め、励ましてくれる優しい2人。
ありがとう。
俺はきっとこうやって誰かに話を聞いてもらいたかったんだ。
彼らと会ったおかげで、やる気が出てきた。
よし、また与那国島一周の旅をやり直そう。今度は使い捨てカメラを持って。
このカメラ、どうやらセルフの機能はついてないっぽいが、まぁなんとかなるさ。
写せるだけマシだ。
気のいい2人に最初の被写体になってもらい、彼らに見送られて、俺は走る。
彼らは久部良でカレーを食った後、
もう1つの集落である比川(ひがわ)にあるという噂のキャンプ場に行くという。
また会うこともあるだろうか?
そればっかりは、旅ではわからない。
よしまずは、この集落に最低2つはあるという噂(すべて噂レベル)の売店で食料を確保だ!
食料、なんとか買えたが…。
どうもここ、2つあるうちの小さいほうだったようで。
大きいほうに行けばまた何かが変わったのだろうに。
ここで買った弁当は、冷蔵庫から取り出したまんまの物体であり、ご飯が見事に固まっている。
よっておかずだけ食い、ご飯は非常用として取っておくことに。
他に非常食類もあまり置いてなかったので、紅芋をつぶしたアンコみたいな物体を緊急用として買っておいた。
店のおばさんいわく、これ単体でも食えるといえば食える、とのこと。
これがそこそこ重い。
食料と水を確保し、再び一周の旅へと乗り出す。
間違って来た道を逆戻りして、途中からやり直そうという魂胆だ。
同じ道を戻るのは大嫌いだが、この際しょうがあるまい。
与那国島は島なのに起伏が多い印象だ。
東側は特にそうで、宇良部岳(うらぶだけ)なんていう山もある。
写真左側のがそうかもしれない。
使い捨てカメラを持って旅をするなんて、修学旅行以来ではないだろうか。
スマホでブログやツイッター、グーグルマップをバリバリ駆使して進んできたのが、
最後になって急に20年前にタイムスリップしたかのようだ。
写真映りもちょうど昭和っぽいセピア調だし、本当にいつのどこを旅しているのやらわからなくなる。
来た道を戻って修正し、やっと海沿いの一周ルートに帰ってきた。
断崖に囲まれた与那国島の東岸。
サンニヌ台展望台と、波打ち際にあるのが軍艦岩ってヤツかな。
小さな島のマイナーな観光地なので、そうそう珍しいモノはないし、そこで期待してはいけない。
でもこの島の東南部の海底には、『海底遺跡』と呼ばれる謎の巨大な岩があるんだよな。
俺の趣味がダイビングなら、間違いなく潜って見に行ったことだろう。
でもなぜか、今は一輪車でねー。
立神岩(たちがみいわ)。
観光用パンフレットには、「何か神々しさを感じさせる」などと書かれているが、
地元の案内板には、「立派な男性のシンボルが云々…」と書かれている。
観光客は少ない。
レンタカーもいるにはいるが、メッタに遭遇しない。
冬の与那国島に来る人など、ごくわずかなのだろうか。
そんなわけで、家もないこんな一周道路を通る人はほとんどいない。
しかもキツい坂。
ついでに言うと隣にある森は、世界最大の蛾であるヨナグニサンの繁殖地だそうだ。
うむ。
一人で走ってる時に、そんなモスラみたいな生物には絶対に出会いたくない。
ここは是が非でもダッシュだ。
さらに森。
漁港などがある西側に比べて、東側はあまり開発が進んでいないのだろう。
巨大な蛾が見たい人は、この辺を夜中にウロつくといいんじゃないだろうか。
俺はイヤだ。
こんなとこで野宿してモスラに絡まれたくないので、先を急ぐこととする。
アップダウンのキツい東部を走り切り、どうにか夕暮れ前に南部へとやって来た。
あれは比川(ひがわ)の集落だろう。
落ち着ける場所だといいが…。