6月11日#2 戸惑いのキューバ

夜も9時半過ぎ。
エアカナダのそう大きくもない飛行機は、キューバのホセ・マルティ国際空港にやっと着陸。
かれこれ17時間ぐらいブッ続けたエアカナダとのお付き合いも、これで一旦終了である。
長かった。実に。
 
確かに長かったんだが、6月11日の夕方に成田を出発して、今はまだ6月11日の夜なのである。
これぞ時差のマジック。おそろしい。
カレンダーにそうなんだと突きつけられると、自分の疲労すら勘違いのような気がしてくるから不思議だ。
 
軽く混乱する俺を置いてゾロゾロと降りていく、いかにも旅行者然とした人々。
中には日本人も数人いるようだ。たぶん成田から一緒だったのだろう。
こんな島に何の用があるんだろう?とつい考えてしまう。人のことは言えない。
 
暗くてよくわからないが、空港の規模は小さいようだ。
滑走路の広さも建物の大きさも、日本の地方空港、そう、つい昨日利用した旭川空港ぐらいと大して違わない。
 
大荷物を受け取る前に、まずは入国審査である。
何本かの列にさっそく旅行者がズラズラと並んでいるが、ここに来て焦る必要はない。
もう飛行機に乗り換えもなければ、夜のキューバでやることがあるわけでもないのだ。
そこで余裕をかまし、のんびりとトイレに。
 
おぉ、トイレがいきなりボロい!
便器は3分の1が壊れており、水も出るような出ないような。
国際空港でコレか?成田から来るとギャップがありすぎるな。
空港は旅行者が最初に通過する場所。その国の第一印象を決めてしまう施設でもある。
やるなぁ、なかなか気の利いた先制パンチだ。
なるほどキューバ、こういうトコなんだな。
 
さて、悪いことしてないのに何回やっても緊張する入国審査。
書類は万全!のハズだ。
パスポートにツーリストカード、機内で適当に書いた申告書類と、
キューバ旅行で加入が義務付けられている海外旅行傷害保険。
一泊目の宿を聞かれることもあるらしいのが気がかりではあったが、結局何も聞かれずあっさりパス。
 
行っていいよと言われて出口のドアを開けようとすると、ドアにノブがない。押しても動かない。
入国管理官の兄ちゃんに「出られないよ?」とジェスチャーすると、
「思いっきり押せ!」というようなジェスチャーが返ってくる。
そこでちょっとタックル気味に押したらバキッと開いた。なんという入国審査だ。
 
次は荷物だが…。
もはやこう、南国独特のムードである。
つまり、職員にあまりヤル気がない。
客と一緒になってその辺でボンヤリと座りこんだり、または仲間同士でダベっておられる。
その会話はもちろんスペイン語だ。
ついに来たなスペイン語。わかっちゃいたが、サッパリ理解できない。
ヒマそうな職員になにやら話しかけられても、これまた楽勝でわからない。
どうやらスペイン語会話は、英語の応用でなんとかなる代物ではないようだ。
 
この脱力職員たちを見て一抹の不安を抱きはしたが、荷物はロストすることもなくちゃんと出てきた。
あいかわらずのデカいザックと、一輪車入りの輪行バッグ。
 
そういえば前回のスカンジナビア航空では、一輪車は自転車扱いとして別に1万円取られた。
しかしエアカナダだと、一輪車は自転車ではないってことで、タダで運んでくれたのだった。
自転車扱いじゃないってことはたぶん、オモチャ扱いということなのだろう。
とにかくありがたいことである。
なんせ成田からキューバの往復フライトは20万円ぐらいするからな。そりゃ日本人少ないわ。
 
荷物を受け取ったら何かチェックがあるだろう、と思って探したら、特にないらしい。
外部に向かって思いっきり開けている通路を指さし、
女性職員に「ここ通っていいの?」と聞くと、「いいわよー。」と笑顔でお気楽な返事が。
ノーチェックかよ。
俺が他人の荷物を持っていっても誰も気づかないという圧倒的な自信がある。
 
で、ようやく入国関係の手続きを終えて、空港のロビーへと進出。
 
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ロビーはこんな感じ。
飛行機から入国審査までのボロさ、質素さからすれば、とてもマトモに見える。
キューバでも一応ちゃんとしてるところはあるんだな。
 
それはいいんだが、ここはもはや英語が通じない。
ロビーをウロウロしている案内係らしいおっちゃんは、親切でいい人なのだがまったくのスペイン語オンリー。
換金できる場所、首都ハバナへ行く道のり。
俺の知りたい事柄をスペイン語でバリバリと説明してくれるのだが、ゲッソリするぐらいにわからん。
まさかここまでわからんとは。
そして国際空港の案内係が、いきなりスペイン語しか話さないとは。
 
わからないスペイン語はこの際おいといて、まずは日本円をキューバペソに換金だ。
しかしこれがややこしい。
実は、キューバの貨幣は2種類あるのだ。
 
1つは、CUC。
セーウーセー、クックなどと読まれる、外国人旅行者が持たされる金。
あえて日本語で言えば、兌換(だかん)ペソ。
 
もう1つは、MN。
モネダナシオナル、もしくはペソクワーノ(キューバ人の金)などと呼ばれる貨幣。
こちらは庶民が使う金で、いわゆる人民ペソだ。
 
なぜ2種類あるのか。
それは、価値に差をつけてあるからだ。
同じ1ペソでも、1CUC=24MN。
額面はどちらも1ペソなのにもかかわらずだ。
そしてCUCは外国人が持たされる金なので、空港で換金できる金はもちろんCUCだけ。
MN、つまりペソクワーノがあると買い物が便利らしいのでこちらもいくらか持っておきたいのだが、
どうやらここではムリなようだ。また別の機会を狙うしかない。
 
ちなみに2012年現在、1CUC=約100円程度である。
厳密な計算は面倒なので、以降は1CUC=100円、1MN=4円で計算していくことにしよう。
 
よし、ともかくキューバで生きていく資金は手に入れた。
あとは簡単な地図ぐらい欲しいところだ。
案内係のおっちゃんとは別のインフォメーションデスクをみつけて話しかけてみれば、
そこのお姉さんはなんと英語の対応が(ちょこっとだけ)可能。
ラッキー、ここぞとばかりに色々と聞く。ついでにペラペラな地図も買う。
 
準備はなんとなく整った。ついに空港から出てみる。
南国っぽい、すえたような変な匂い。
そして暑い!夜なのにムアーッと暑い!
吹きつけるぬるい風がもう、肌にまとわりつくようだ。
 
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はい、これがペラペラな地図。
観光地によくある折りたたみのしょーもないヤツだが、何CUCか取られて有料であった。
こういうのって普通タダじゃないのか!?
いやここはもう普通の国じゃないけど。
 
それはいいとして、空港からハバナまでは28キロあるらしい。
微妙な距離だ。もう22時過ぎのこの時間から動くにしては。
それに、空港の周囲は明るいのだが、そこから一歩出るともう暗い。道が見えないぐらいに暗い。
ハバナへの道のりというか正確な方角もよくわからない。まずここは一体どこなんだ。
さらに今からハバナまで自力で行くといえば、
さっきのインフォメーションのお姉さんには「私はオススメしないけど…。」と言われる。
キューバは治安がいいとは聞いていたが、どの程度なのかはまだわからない。
ここは慎重に行くべきだろうか…。
 
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ま、悩んでいてもしょうがない。
とにかくコレを出さないと始まらないよな。
てなワケで、キューバの大地にユニサイクル降臨。
通り過ぎるキューバ人たちの怪訝な視線がたまらない。
 
さあどうしようかね。
このまま空港で朝を待つにはちょっと長すぎる。
少しずつでも進んでみようか。それともいい場所があればさっそく野宿か。
 
空港の売店でペットボトルの水を買うのにすら苦労する。
水を指さし、「シー、アグア、ウノ!!(そう、水、1つ!!)」みたいな感じで、ほとんど乳幼児。
こんな調子でこの先キューバで生きていけるのだろうか。
 
空港を離れると本当に暗い。長いフライトで疲れてもいる。
近くの芝生っぽい草原にフラフラと入り、ゴロンと横になってみる。
 
ああ、キューバにも星があるな…。
しかしああ、キューバにも蚊はいるんだな…。
とても寝ていられない。
テントを立てるにしても、こう暑いと中は蒸し風呂になりそうだ。
これはもう、進むしかないのか。
 
愛用のスマートフォンは、キューバに来るとただのカメラ兼電子手帳だ。
ここではインターネットは使えないからな。
でも、1つ大発見。
なんと、GPSは使えることがわかった。
グーグルマップのキャッシュに残っていた縮尺の粗いキューバ地図上に、
自分の現在位置と方角が示されている。
よっしゃ、これは使える!
新しくデータを読み込めないため縮尺をズームできず、
よって細かいことはわからないが、大体の位置と方角がわかるだけでも全然違う。
ネットが使えないこんなところでも、結局は最新科学技術のお世話になるのだなぁ。
だが使えるものはなんでも使う。それでいい。
 
おかげで進む気力がわいてきた。
行けるとこまで行くぜ!