6月15日#3 キューバは初めてか?

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薄闇の道を6キロ走って、やがてホベヤノス着。
ユニサイクリングはやはり速い。
日が落ちて暑くさえなければこっちのもんだ。

最初に見つけたバス停で寝ようと思って下見していたら、正面にある工場から出てきた男二人と遭遇。
これからバスで帰る工員らしい。
ここでもやはり、怒濤のスペイン語ペラペラ攻撃。
だからわからんて。

「えーっと、ここで寝ても大丈夫かな?」

「ペラペラ!ペラペーラ!ペラ!!」

答えはせめてハイかイイエで頼む!

「じゃあ、この先に店はあるかな?」

「ない。」

うそお!?
この町に店がなければちょっとやばい。
水がもう500mlほどしか残っていないのだ。
ここはどこにでも自販機やコンビニがある日本ではない。
手持ちの水がなくなるかと思うと急に不安になってくる…。
で、このバス停で寝るのは諦めて少し進むと、そこにはガソスタ兼ショップが普通に存在するのだった。
あるじゃねーのよ!!

もうすっかり暗い中、まだ開いている店はまさにオアシス。さっそく入店。
あ、いつも買う1.5リットルサイズのミネラルウォーターがない…。
4リットルぐらいのやったらデカいのならあるが、さすがにこれは背負えまい。
気の良さそうな店員の兄ちゃんも同情してくれているようだ。
でもまぁ、仕方ない。
結局水のかわりにコーラとレモン味ジュースになってしまったが、もちろんないよりは遥かにマシだ。

おや、この店は珍しく、店舗の隅にオープンテラスのファストフード店も併設しているのか。
これは試してみたい。ここは無難にサンドイッチというのを頼んでみよう。
しかしここ、ただのサンドイッチのくせに生意気にもメニューが多く、
意味がよくわからない具材やら大きさ(重さ)やらで注文に手間取ったが、なんとかなった。
なんでもいいからサンドイッチくれ!なんてスペイン語でフランクに言えたらどれだけ楽か。
 
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キューバに来て初めての、お菓子じゃないマトモな食事だ。
おいしいのだが、ダメだ多い。胃が受け付けない感じ。
ここでどっと疲れを感じる。
あー、キツいわ。昼間の雨と暑さにやられたか。
机に頭を押しつけて、この不快感にしばらくジッと耐える。

ファストフード店唯一の店員男性は、カウンターに客が来ない時は女の子としゃべりまくっている。
彼らの楽しげだが内容はサッパリわからない会話を聞き流しつつ、
なんとか少しずつサンドイッチを体内に押し込んだ。
さあ、今夜はもうこの近くのバス停ででも適当に横になろうと思って立ち上がると、

「疲れてるようだね。」

例の店員に話しかけられるのだ。

「え、あぁ、まあね。」

なんと彼、実は英語が話せた。
仕事そっちのけで女の子と話すのに夢中なんだと思っていたら、それとなく俺のことも見てたんだな。
意外にイイヤツなのかもしれない。

「俺の名前はイランって言うんだ。」

「イラン?」

「知らないか?あのアメリカとやりあってる国の名前だよ。」

彼はそう言って笑う。
それからは、いつのまにか現れた彼の友人(上半身裸)の兄ちゃんもまじえて、
一輪車や今回の旅についていろいろと話すことに。

「あと2週間でサンティアゴ・デ・クーバまで行くだって?それは無理なんじゃないか?」

イランはそう言う。
サンティアゴ・デ・クーバとは、キューバの東の端近くにある、キューバ第2の都市。
キューバ人と話をすると、しょっちゅうどこまで行くのかと聞かれるので、
相手にわかりやすいかなと思って、サンティアゴ・デ・クーバまでと答えるようになっていた。
そんなやりとりを何度も繰り返しているうちに、
いつしか当面の目標はサンティアゴでいいんだよな?ってことに自分の中でも定まりつつある。
イランの言うとおり、たしかに2週間では着かないかもしれない。
でもそれはまあ、大した問題ではないのだ。ただの当面の目標だからな。

それから、今日はどこで寝るのかという話題に。
そこのバス停でというと、それは危険だとイランは強く反対するのだ。
上半身裸で会話はスペイン語オンリーだが陽気な彼の友人の家に泊まればどうかと。
しかし、キューバでは個人宅に泊まれないハズだ。

「それは嬉しいけど、キューバでそんなことしていいの?」

「…君はキューバは初めてか?」

「初めてだよ。」

「あー。」

あー?
どういう意味だ。
蛇の道はヘビとか、そういうことなんだろうか。

なんにせよ、泊まる場所があるならそれに越したことはない。
どうやら裸の兄ちゃんの家は宿であるらしく、とりあえず値段を聞いたら一泊5CUCだと。
安っ。じゃあ、その方向で。

話が決まると、兄ちゃんは嬉しそうに、クルマに乗れ!と言ってくる。
クルマといっても大きなトラックである。
しかも荷台を人間運搬用に改造した、ギリギリでバスと言えなくもないような代物。
広い荷台にちょこんと座ってみるが、乗り心地はかなり悪い。
路面の悪さとあいまってガッタンゴットン揺れまくる。
これなら立ってたほうがまだマシだ。
 
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(注)乗り心地の資料画像。

ありがたいことに、家はガソスタからわりと近くだった。
トラックを止めて兄ちゃんが家に入って行き…、やがて戻ってきて、

「ダメだ、塞がっている!」

あら、どうやら満員らしい。
それはそうと、これって君の家じゃなかったのか?雰囲気が明らかに他人の家っぽいぞ。
何か聞き間違えたんだろうか。
まぁ、言葉のわからないこの国で物事を深く考えてもはじまらない。
ともかくアテがはずれたということで、
トラックはまたもやガタゴト揺れながら、ガソスタ横のイランの店に戻るのであった。
やあイラン、帰ってきたよ。

こうなったら俺はもう、当初の予定どおりにバス停でもいいのだが。
なかなか本気で心配してくれているらしいイラン。
なんとこのオープンテラスの隅にテントを張っていいかどうか、
事務所の店長?か誰かにわざわざ聞きに行ってくれる。が。

「すまん、ダメだった。」

「いや、いいよいいよ、バス停に行くから。親切にしてくれてどうもありがとう。」

俺のために色々と考えてくれたイランとトラックで運んでくれた裸の兄ちゃんに礼をいい、
俺は結局バス停に来た。
もう遅い時間だし、これからバスが来ることは考えにくい。
いい加減眠いのでサッサとバス停内にテント建てて潜り込むが、中が暑いのには困る。
でもテントに入ってないと蚊がヒドいので出るに出られないのだ。
やれやれ。

はぁ。すごい1日だった。
今日はキューバで初めて雨にも降られたんだったな。
涼しいし座って休めないしで結局そのぶんペースが早まった感じもあるが、やはり濡れるのは面倒。
あれぐらいですんでよかった。あの何もないところで鳴りまくってた雷は怖かったけどな。
移動距離は51キロ。
やはり労力のわりには大して進んでいないが、朝10時出発にしてはまあまあかな。
二転三転して結局はバス停泊なんだが、今日はイランをはじめ、いろんな人々がかかわってくれた。
めまぐるしくも、おもしろい一日だったと思う。