6月16日#2 灼熱のモンタ

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コロンの町からトリニダーに行くつもりが道を間違え、期せずしてサンタクララに向かうこととなってしまった。
 
それはまあいいんだ。
だが…。
 
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暑い!
灼熱!!

隠れるところもない。道はただまっすぐ。
しかし行くしかない。
クルマは少ないので一輪車に乗り放題にはなったが、ただの直線がよもやこんなにつらいとは。
よく見ると路肩で馬に乗っている人がいる。彼は暑くないんだろうか。
熱中症で落馬したらシャレにならんとは思うが、キューバ人は大丈夫そうだ。なんとなく。

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隠れる場所はないが、休憩しないわけにもいかない。
しょうがないので折りたたみ傘でささやかな陰を作って休む。
これまでの人生において、陽射しを避けて休憩するために雨傘をさしたことはない。
それなりに特殊な状況である。
あぁ、とにかくアチィ。
 
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こんな何も無いところでずっと休んでいても、世界は変わらない。
行かねば。走らねば。ふぅ。
 
ああ、そうだった。
忘れていたよ。
 
一輪車の旅というのは、その8割方が、単調な走行だけで埋めつくされるのだった。
しんどくて、つらくて、退屈。
でも、それを旅日記に仕上げてしまうと、印象的な良い場面ばかりが記憶に残るようになってしまう。
違うんだ。
そりゃあ良いこともあるけど、基本的にはしんどいばっかりなんだ。
今の俺の立場から、このことを声を大にして宣言しておきたい。

前方で青いトラックが止まった。なんにもないところなのに珍しい。
下りてきたドライバーのおっちゃんが、荷台の周囲をウロウロしている。
一見して積荷を点検しているようでもあるが、実は大したモノは載っていない。
トラックに追いついた俺が挨拶すると、彼はニヤッと笑って、またクルマに乗って走って行く。
 
たぶん彼は、俺が助けを求めるチャンスをくれたんだと思う。
こういうキューバ人もいる。
また新しいキューバをみつけた。

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ひさしぶりに見つけた木陰。
ちょっとした陰でも、ないよりはずっといい。
もう動きたくない気分だ。
でもしばらくすると、動きたい気分になってくる。
一体何がしたいんだか。
 
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ようやく小さな町にたどり着いた。
でもここどこ?どうでもいいか。とにかく水を買えてよかった。
なんせ今日は土曜日。せっかく町に来ても店が閉まっている可能性もあったからな。
 
キリスト教文化圏によくある店舗の土日閉店は、旅人にとっては実に煩わしいものである。
俺はこれを勝手に土日問題と名づけているが、明日の日曜日こそが本番だ。
さて、キューバではどうなんだろう。
店が閉まっているようなら移動するべきではないかもしれない。
なんせこれだけ暑いと、水の消費量がハンパじゃないからな。
ここで買った3リットルの水も気を抜けばすぐになくなる。
大事に運用しなくては。
 
水の配分もそうだが、今日はこれからどうしよう。
それを考えると億劫だ。
昨夜ほとんど眠れていないせいか、ちょっと疲れてるな…。
こんな時は、小さな町を通過するのも鬱陶しく感じる。
一輪車に乗って見せて欲しい気持ちはわかるが、こちらも人に会う度にいちいちテンションを上げていられない。
俺は見世物じゃないんだよ!
 
名も知らぬ町を出たころ、はるか先の雲が黒くなっていることに気づく。
たまたま話しかけてきた兄ちゃんがいる。ついでに聞いてみよう。
 
「雨、降るかな?」
 
「大丈夫だよ!」
 
そうか良かった。地元の人間がそう言うなら。
 
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おいおい余裕で降ってきたよ!!
 
また雨かー。ヤッパリな。あの雲はヤバイと思ったんだよ。
まったくあの兄ちゃん、大丈夫とかいいやがって。地元民の大いなる知恵とかじゃなかったのか。
 
偶然みつけた木陰に隠れる。
葉の茂った樹の下で傘をさしていれば、思ったよりも濡れないようだ。新しい発見。
また靴などが濡れると面倒なので、可能なかぎり雨は避けていこう。
まぁ、たまにはこうして木陰で雨宿りもよい。
蚊がいなければもっとよいのだが…。
もうキューバでいくら献血してきたことやら。
 
それにしても、キューバの天候は極端である。
さっきまであれだけ暑かったかと思えば、急に雨。あたりはヒンヤリとしている。
スコールというのも少し違うような、チャポチャポした雨だ。
 
樹の下に座り込んで、良いことも悪いことも考えず、
深い息をしながら何十分かを過ごしていたら、雨はとうとう止んでいる。
雨雲は去ったようだな。
木陰を出て、ふたたび前進。
 
しばらくして、サングラスがないことに気づく。
たぶんさっき雨宿りをした樹の下だろう。
使わない時は上着の胸のあたりになんとなく引っ掛けていただけだったので、いつかはなくすと思っていた。
あのサングラス、実は日本縦断の時に岡山かどっかの峠で拾ったモノだ。
愛用の品ではあったが特に惜しくもないので、そのために長い道のりを引き返す気にはならない。
とはいえ陽射しの強烈なキューバ。サングラスは絶対に必要だ。
ま、どこかで買おう。
余計な出費ではあるが、自分への唯一のキューバ土産にでもすればいい。それならいい口実だ。
 
路肩に止まった家族連れらしきレンタカーを追い抜くと、クルマは背後からジリジリとついてくるのだ。
どうやらユニサイクルツーリング中の俺をビデオで撮影しているらしい。
しばらく撮ると満足したのか、なんの挨拶もなくサッサと俺を追い抜いて、地平線の向こうに消えて行った。
なんとまぁ感じの悪い。
しかしああいうヤツら、世界中にいるよなー。
 
はたまた、たまに疲れて歩いていれば、道端のおっちゃんキューバ人からはこう言われるのだ。
 
「モンタ!(乗れよ!)」
 
モンタ。
このコトバ、もはや何回聞いたことだろう。
しんどい時に聞くとひたすらイライラする響きなのだ。
もう無視する。
連中からすれば、俺はさぞノリの悪い人間なのだろうな。
 
そんな大人げない大人たちがいる一方で、子どもたちはあいかわらず子どもげない。
興味はあるんだろうに、こちらを遠巻きにジーッと見つめているだけ。
そんな子どもたちには、なぜか逆にサービスしてあげたくなるのだ。
よく見てろよ、乗るぞ!ホラ!!
そうすると、どちらも笑顔になれる。あの子たちも、俺も。
 
そして直後に大人がいて、またもやモンタ!と叫ぶのだ。
…やっぱりムカつくよねー。
 
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サンタクララはあと68キロか。
今日中にはとても着きそうにないが、雨に濡れた路面もすっかり乾いてきたことだし、
33キロ先のサントドミンゴには行けるかもしれない。
だがまずはあと2キロ進んで、えーとなんて読むんだ、カスカハル?で一息つくとしようか。