6月16日#3 カルロの家のキューバ料理

カスカハル着。小さな町だ。

町の入口で店をみつけて早速入る。
手ごろなサイズのミネラルウォーターがなかったので、ダメオシでジュースを買う。
さっきの町で買った水もまだあるし、これだけあれば明日の日曜日もなんとかなるかな!?

ところでこの店、店員の兄ちゃんが話好きのイイヤツっぽい。
色々と話しているうちに、
この小さな町にもカサ・パルティクラル(外国人も泊まれるレンタルルーム)があるとのこと。
マジ?こんな町に?

本当は今日のうちに次の町であるサントドミンゴまで行くつもりだったが、なに、別に大した用事はない。
もう薄暗い時間だし、ここの宿が良ければ泊まってみるのもアリだろう。
まずは案内してもらうとしよう。

その家までは、店の兄ちゃんとは別の、彼の友人らしい自転車の兄ちゃんが連れて行ってくれた。
それはいいんだが兄ちゃん、チャリこぐの速いよ!

「ちょっと待ってくれー!」

なんて言いつつ、マウンテンユニに飛び乗って全力で後を追う。

連れてこられたのは、店から200メートルほど先にある、大通りに面した小さな家。
大通りといっても国道のことで、小さな町を貫通している唯一マトモな舗装路がこの国道なのだ。

兄ちゃんが激しくドアをノックする。
中からのっそりと出てきたのは、カルロと名乗るカラダの大きな男。
一見マフィアの幹部風のコワモテだが、なんだか笑顔が妙に優しげだ。

兄ちゃんを介して話がまとまると、カルロは俺を自宅の裏庭に連れて行くのである。
そこにはこんな建物が。
 
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うーむ。
自宅の離れというべきだろうか。物置じゃあないよな…。
とりあえず、中を見せてもらおうじゃないか!
 
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うおっ。
これはまたなんというか…。
水をぶっかけて洗ってるらしき床がほとんど刑務所っぽい。刑務所入ったことないけど。
それでいてシーツがスヌーピーとは。
マクラが2つあるところに注目。
 
なかなか究極の宿ではある。正直、悩む。
だが一泊の値段を聞くと、なんと10CUC!
え、安っ。
一泊1000円って。北海道のライダーハウスかよ。
構造的には宿というよりはラブホテル臭がするけどな!それもかなり!!
 
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ずいぶん気合いの入った室内照明である。
トイレとシャワーもあるが、なぜか水道がないっぽい。

「シャワーを使う?」

そうカルロに聞かれて、

「(不衛生っぽいから)使わない。」

と言うと、彼はとても安心した顔をするのだ。一体何なの!?
俺の推測だと、トイレとシャワーは外部から水を注ぎ込んで使うのだと思う。たぶん雨水か何かを。
 
ここって、ほんとに政府が認めたカサ・パルティクラル…?じゃないよなぁきっと。
俺が政府の役人ならこれはちょっと許可できないレベルだ。
明らかに外国人旅行者向けではなく、地元民向け。
しかもラブホ的利用も視野に入れまくっていると思われるピンキーな施設だからな。
でも俺は、ここのオーナーであるカルロをいい人間だと見た。
そこで宿泊決定。
まぁ、安いのはいいことだ。とにかく寝られるし。

ひょっとして、今までの小さい町にもこういった宿はいくつもあったのかもしれない。
俺が気づかなかっただけで。
昨日イランに、キューバは初めてか?と言われた理由が少しわかってきた気がする。

あらかた部屋の各部をチェックして、ようやく気分が落ち着いてきた。
カルロはディナーを提供してくれるそうなので、ありがたく注文する。
明日の日曜に備えて非常食類はキープしておきたいし、
たまにはキューバの家庭料理ってのも食べてみたいからな。
 
さて、ディナーまでまだ少し時間がある。
ちょっとカスカハルの町を散歩でもするか。
 
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大通りを元来た方向に少し歩けばすぐ町を出そうになる。本当に小さな町だ。
さっき買物をした店はもう閉まっていて、
店員の兄ちゃんや俺を宿まで案内してくれた兄ちゃんたち数人が、店の前でたむろしている。
 
「ありがとう、いい宿だよー。」
 
なんて言いながら、ごく自然に輪に入れてもらうのだった。会話も続かないくせに。
そう、会話が続かない。でも連中は一輪車には興味アリアリだ。
それなら、もう持ってくるしかないよな。
一旦宿に戻り、マウンテンユニサイクルに乗って再び戻ってくる。
さあ、即席試乗会の始まりだ。
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ちょっと路面は悪いけど、では乗ってもらいましょうか。
まずは俺が偉そーに手本を見せ、一番乗ってみたそーにしている初見の兄ちゃんにユニを手渡す。
当然、乗れない。
フフ…このそこはかとない優越感がたまらんのう。
 
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一応解説を試みると。
左から、もっとも一輪車に乗ってみたそうな兄ちゃん。俺を自転車で宿まで案内してくれた兄ちゃん。
やたら声のデカい兄ちゃん。店のオーナーっぽいおじさん。
そして親切な店員の兄ちゃんと、その彼女。
 
みんなでワイワイ騒ぎながらの試乗会。
町をウロついていた他の連中も何事かと集まってくる。
 
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誰も乗れないのを見て、ついに店員の兄ちゃんが参戦!
やはり乗れないが、彼が一番惜しいところまでいった。
 
彼がトライする時など、周囲からあのモンタ、モンタの大合唱だ。
あんなに嫌いなコトバだったが、今は楽しい。
気づけば俺も彼に言っていた。
 
「モンタ!(乗れよ!)」
 

参考までに、キューバ人が話すスペイン語の日常風景。
声のデカい兄ちゃんと、遠くのおじさんが何やら会話をしている。
ケンカ腰っぽいがケンカではない。(たぶん)
とにかくスペイン語の意味不明具合を感じていただきたい。
こんなのを毎日聞かされているわけだよ。なんて言ってるんだろうねぇ。
 
隣の家のおばちゃん家族が一輪車に乗るところを見たいというので、もちろん笑顔でエキシビション。
こちらも喜んでもらえた。
こういうのならいい。楽しいよ。
今までモンタモンタと言ってきた連中も、こういう和気藹々とした展開を望んでいたのだろうか?
もしそうなら、少し悪いことをしてきたかもしれない。
でも毎回このテンションはちょっとなー。
今は宿が決まってるから俺も余裕があるのであって。
 
それにしても、町の連中の見方が変わった。
今日俺がこの町で出会ったヤツらは皆、陽気で気さくなイイヤツっぽい。
それに、小さな町だけに俺が今夜カルロ別宅に泊まることを皆知っているようで、
見知らぬ人々のほうから俺に向かってオラ!と挨拶すらしてくれる。
こういうの、珍しいんだよ。
町に泊まると決めただけで、なんと世界が広がったことか。
 
さあ、これからメシだ。
快く俺を受け入れてくれた兄ちゃんたちに別れを告げ、カルロ宅へと戻る。
もちろんユニサイクリングでね。
 
今日の走行は83キロか。
朝の1時から動いてるからなぁ。そりゃあ疲れるし眠いわ。
もう寝てしまいたいところだが、せっかくのディナーをいただかなくてはな。
やがてカルロが呼びに来て、本宅の方へと招かれる。
 
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ディナー!
キューバに来て初めての、マトモなお食事。
そして、なんとまあ。
カルロ!料理うまいよ!!
 
初めてのキューバ料理、いきなりヒット。
チキンの料理にライスとサラダ。
そしてセルベサ(ビール)に、デザートがわりの濃厚マンゴージュースつき。
これは本当においしい。
このあっさりしたチキンの味付け、きっと日本でもウケるぞ。
渋谷あたりにキューバ料理店の一号店を出したらどうだろう。

そして、カルロは1人暮らしなのだろうか。
料理を作ったのもカルロだし、食事のサービスをしてくれるのもカルロ。
あれこれと、妙に気が利くカルロ。
うーむ…。若干、あやしい。
食卓のBGMで流れる曲に合わせて歌うのが、決まって高音部。そしてキメ細やかな心遣い。
ともすればイカツイ顔なのに、常に柔和な表情。
会話の受け答えも丁寧で、スペイン語がダメな俺にも噛んで含めるように、ゆっくりと説明してくれる。
いい人だー。いい人なんだけどー。
うわーーー、疑惑だわーーー。
 
ともあれ、食事終了。ごちそうさま!
ビスケット構成体の俺にはちょっと量が多かったが、素晴らしい味付けのおかげで完食。
あとは寝るだけ!
ラブホっぽい離れに戻り、ようやく一人の時間。
 
蚊が多いなぁ。さっきから咬まれまくりだ。
ここは周囲に木が一杯だしあちこちスキマもあるし、この宿ではもう仕方がないことだろう。
蚊取り線香1つあればすむ問題なのだが。持ってこなくて残念。
 
外は騒がしいな。土曜の夜だからか。
何か楽しいことで盛り上がっているのかもしれないが、俺はもう夜中にうろつく気にもならんよ。
じゃあ、おやすみ。