6月23日#3 もう悪口は言いたくない
適当に歩いてたら、おっと迷った。
カマグエイは本当に広いな。
露地を一歩入ると、どこも同じようなクリーム色の家並みが延々と続いている。
このまままっすぐ進むといずれ家は途切れ、草原に出て、やがては海に至る。
それだけだ。
異国の世界を前にして、どこにも行き場のないような窮屈さを覚えてしまう。
空はこんなに広いのに。
大きな公園まで出てきた。
キツい陽射しを避けて少し休むべく公園に入ってみるが、ダメだ。目ぼしいベンチは全て占領済み。
孫と遊ぶ爺さんがいる。
それだけなら微笑ましい光景なのだが、その爺さん、俺を見てしつこく何度も何度も何度も、
「チノ!チノ!」
と声をかけて、いや、呼びつけてくるのだ。
これはさすがにガマンならない。
何か言い返してやりたいところだが、幼い孫にまで影響が及ぶのは避けたい。
結局、完全無視で公園を出る。
はぁ。気分の悪い。
チノ、中国人。
ここは、アジア人を見かけたら、チノ!と呼びつけてもかまわない島なのだな。
腹は立つ。
腹は立つが、彼らが俺を怒らせようと、または侮辱しようとしてそういうことを言っているのかどうか。
それすらまだ俺にはわからないのだ。
怒るべきなのだろうか。
それとも、怒るまでもない理由がそこにはあるのだろうか。
裏通りもカーニバルの準備で忙しそうだ。
大量の缶ビールや丸焼きブタが運び込まれ、夜からのお祭り騒ぎに間に合わせようと急いでいる。
急いでいるのだろうが、それでものんびりやっているように見えてしまう。
俺が知っている暑い国の人たちは、みんなそんな感じだ。
大きな街らしく、案内板もしっかりとあるカマグエイ。
あっちにもこっちにも何らかの歴史的建造物があるらしいが、俺はもうキッパリと飽きてしまった。
そろそろ引き返しますか。
キューバの大きな街には必ずある、誰これ?的な像。
でもこのカマグエイでは、向こうの塔の上にある聖人像っぽいヤツのほうがよく目立つ。
アレを目印にしておけばこのあたりでは迷いにくいので便利だ。
ちなみに右下の男はえらくムキムキでこちら目線だが、俺と関わることは別にないのであった。
街の中心部というわけでもない一角に、大きなステージが造られようとしている。
しっかりした音響機材もあるようで、さぞや大音量のライブが繰り広げられるのであろう。
しかし俺が気になるのはステージではなく、右上のゲバラ。
『HASTA LA VICTORIA SIEMPRE』の文字がこんなところにも。
こういう時にハッと、この島が社会主義国家なんだと思い出すのだ。
宿の近くの店で少し買い物をして、マニュエルの部屋に帰還。
珍しいことに、コカ・コーラがあったよ。メキシコ産の輸入品だ。
久しぶりのコカコーラを飲んで爽快感に浸ろうと思ったが、なんだかちょっと変な味。
メキシコ製だからか?それともキューバのコーラにすっかり馴染んでしまったせいか。
実際に今はキューバのコーラのほうがうまく感じてしまう。
しかしまぁ、アメリカの代表的な飲み物が売られているとはねー。
表面上は敵対しておきながら、憧れてやまないのか。
もう1つは、ブカネロというキューバのビール。
キューバで缶ビールといえば、先日も飲んだクリスタルとこのブカネロが2大メジャーだと思う。
マニュエルには土産としてクリスタルを手渡し、俺はブカネロに初挑戦だ。
「ブカネロは苦いからダメだ、ビールはクリスタルに限るよ。」
マニュエルはこんなことを言っていたが、さあどうだろう。
うぇ、苦い。やはりか…。
俺もクリスタル派に所属した瞬間である。
よーし昼間から順調に酔っ払ったぞ。
涼しい部屋で一眠りして、次はディナーを求めて再出陣といこうか。