6月29日#2 来て良かったと思ったんだよ。

 
 
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部屋の窓から向かいの家の人々を盗撮。
穏やかな昼下がりである。
外はちょっとは涼しくなってるんだろうか。
 
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さてバヤモ探索その2。
ダメだ、やはり暑い。
地元の皆さまにならって忍者のごとく日陰を伝いつつ、あいかわらずちょっと遠い中心街へと移動だ。
 
午前の部ではスーパーが開いてなかったので肝心のミネラルウォーターを買えなかった。
あちこち探した結果、ちょっとデパートっぽいハイソな店でようやく発見。
重い水を2本抱えてレジ前に並ぶ。
ところが、俺の前の前にいる客が支払いにクレジットカードを使うと言い出し、
そのためにやっっったらと時間がかかっている。
といっても15分ぐらいか。
でもキューバではこれまで銀行以外で並ぶことも待たされることもあまり無かったので、
これが妙に長く感じてしまった。
 
それにしても、クレジットカードの手続きごときで時間がかかり過ぎである。
俺からすれば、何に一体そこまで手間取っているのかと不思議でしょうがない。
明らかにカードの扱いに慣れていないのだ。
 
あたふたしている店員を眺めつつ黙々と待っていると、俺の前にいる紳士が何やら話しかけてくる。
ジェスチャー混じりのスペイン語をよくよく聞いてみると、
 
「私もカード払いで時間がかかると思うから、お先にどうぞ。」
 
とのことらしい。
おお、まさに紳士!セニョール!
こんな風に、余裕のある雰囲気をまとった紳士が時々いるのもまたキューバだ。
 
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次、ピザ屋。
ナポリタン10ペソ!という凄そうなのを頼んでみたら、いつもの具なしピザがただデカイだけだった。
これの何がどうナポリタンなのよ。ナポリ人に後ろから刺されるぞ。
カマグエイでのナポリタンパスタ事件といい、キューバではナポリタンの文字は信用しないほうがよさそうである。しかし、かなり食いではある。
なかなか減らない。
 
いきなり腹が一杯になってしまったので、今度は酒だな。
午前の部にも行ったお気に入りの店で、マヤベではないもう1つの缶ビール、カシクを買う。
それはいいんだが、店内にはビンのラム酒をラッパ飲みしてすっかりできあがっているおっちゃんがいて、
うっかり目が合ってしまった俺もまたラッパで飲まされるのであった。
 
ラムを飲み、大袈裟にむせて店内の笑いを誘う俺。我ながら役者だ。
しかしラム酒は実際に強いからな。
今度のはいいラムなのか、前の紙パックと違ってちゃんとラム酒っぽい。
高級なケーキに入っているようなあの甘く芳醇な味わいがあってなかなかうまかった。
店を出れば、もう18時半。
バヤモの街はそろそろ明るい昼間の空気から夜の歓楽街へと様相を変えつつある。
涼しくもなってきた。
 
商店街に隣接している広場のベンチでボンヤリと座っていると、
4人組の若者がギターを囲んで何か演奏を始めそうな光景が見えた。
お、これはおもしろそうだ。
彼らに話しかけてみようと若者たちの目の前のベンチに移動してみたところ、
先に話しかけて来たのは彼らではなく、なんとも言えないカッコをしたおっちゃんである。
  
彼の名はロイ。
なまりの強い英語を話す50代のおっちゃん。
カリフォルニアに5年いたというからどんな仕事をしていたのかと聞けば、なんとボクサー。
 
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おおっ。ファイティングポーズがキマってる。
これはホンモノかも。
 
ロイの話はおもしろいのだ。
彼はアメリカでたくさんのアジア人と友達になったそうで、
 
「中国人、日本人、キューバ人、カンボジア人、関係ない。世界はひとつなんだ!」
 
そんなカッコイイことを真顔で言う。
だが5年でカリフォルニア生活を切り上げてキューバに帰ってきたのは、
ボクサーを引退したせいではなくて、
ドラッグに手を出して強制送還だか国外追放だかでキューバに戻されたせいらしい。
おいおい。
でも今は健康な生活をしているんだとさ。
 
で、ギターを弾いている若者たち。
初めは話しかけても反応がイマイチで受け入れてくれないかなと思ったけど、
間にロイが入ってくれたおかげでこちらとも少し仲良くなれたようだ。
 
ちょうどそんな時、挙動不審な男がフラッと現れ、俺の前で金を恵んでくれとしつこく絡み始めた。
その目つきはまるで空洞のようで、異常だ。
うまく断り切れない。
どうしたもんかと考えているうちに、ロイが何ごとか怒鳴って追い払ってくれたようだ。
助かった。そして若者たちは、
 
「そんな時には、ノーテンゴ!(持ってない)って言えばいいんだよ!」
 
なんて教えてくれる。なるほど。
金をせびられるなんて。こんなことはキューバに来てから初めてだ。
 
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気を取り直して、彼らが俺のために歌ってくれた曲。
これがよかったー。
それまで騒々しかった周囲の人びとまでが静かに聴いてくれて。
詳しくはわからないが、有名なラブソングなのだそうだ。
 
おっと、そろそろ宿に戻らないと。
 
「もう帰るの?これからたくさん歌うのに。」
 
彼らがそう言って惜しんでくれるのが心底嬉しい。
でも俺は、一輪車の旅がまだ終わってないんだよ。
明日もひたすら走るんだよ。ここで気を抜くわけにはいかない。
なんでそんな風に考えるのか自分でもわからないが、そう思ってしまうのだ。
 
ありがとう。楽しかった。
バヤモはいい街だ。
キューバ人、俺が思っていたよりもっとずっと親しみやすい人びとなのかもしれない。
 
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暗くなる前に宿に戻ってきた。
今日買ってきたカシクという缶ビール、これもオルギン産。
うまいけど、これより少しだけ安いマヤベとの味の違いは正直よくわからん。
 
階下のアルトゥーロ一家は子どもたちやお婆さんともども、
今日もリビングで日がな一日何か手仕事をしながら話をして過ごしていたようだ。
この家庭の円満さ。これもキューバなのか。
今ごろはみんなで晩メシでも食べているのだろう。
 
俺としても、旅のメドがつき始めた今日ぐらいはレストランというものに入ってみたかったが、
どうもああいうところは一人で入る感じじゃないんだよなぁ。
街で見つけたパラダール(自宅でやる食堂)もかなり気になったのに、
本日唯一のメニューを訳してみたら、『鶏の肝臓のイタリア風』。
この国でイタリア風と言われて信用できるほどの純粋さはもう失ってしまったのでパスだ。
 
涼しい部屋で缶ビールなぞを飲んでいると、
路上で出会った並走男たちとの会話がなにげなく思い出される。
 
「サンティアゴか。遠いぞ。」
 
「ああ。遠いねー。」
 
そんな他愛もない会話だ。
俺はキューバ人が好きになりかけているのかもしれない。
 
自分から動いてみたら、こんなにも素敵な体験ができた。
バヤモに来なければ、キューバに来なければ、こんな思いはできなかったのだ。
これが、旅。
今はそんな気がする。