7月4日#2 普通は金を減らしたいとは考えない

ようやくたどり着いた部屋で昼過ぎまで寝ていたら、バス疲れはわりと復活した。
よし、こうなったら散策だな。
サンドラにちょっと散歩に行ってくるよと言うと、彼女はヤケにあれこれとアドバイスをしてくれるのだ。
 
「買い物をするなら近くにメルカード(市場)が2つあるわ。値段の高いほうと安いほうがあるから気をつけて。
 あとそのウェストバッグは後ろに回して服で隠したほうがいい。ああ、心配だわ…。」
 
まとめるとこんな感じ。
もちろん気を抜くつもりはないが、
昼間のハバナはそれほど警戒しなくても大丈夫だと俺のセンサーは告げている。
 
それにしても、この家の人々は本当に愛想がよくて素敵だ。
英語が話せるアレハンドロ、サンドラ夫妻だけでなく、
そのおばさんやお姉さん、じいちゃんまでが、みな素敵な笑顔と陽気さで迎えてくれる。
とにかく居心地がいい。
朝のコーヒーの一件からしても、彼らが外国人に慣れているせいもあるのだろう。
さすがにハバナ。同じキューバでも異星人ぐらいの目で見られた他の地域とは事情が違うようだ。
 
さて、こうしてハバナ散策に出てきた俺。
腹が減っているので食料を買いたい事情もあるのだが、
実はハバナに戻って来たらずっと探してみようと思っていたところがある。
それは、イアンとホセの店。
 
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イアンとホセって誰?って言うと、この人たち。
きっと覚えていないだろうが、彼らは俺がキューバに来たばかりの頃、バラデロに向かう途中の深夜の国道で、
ボロボロの今にも止まりそうなクルマに俺を乗せてくれた親切な二人組だ。
 
彼らがその時に渡してくれた名刺には名前のほかに、
『海が見える素敵な場所…』みたいな文章と共に、夜のハバナに佇むバーの写真が印刷されている。
つまり、バーを経営しているのだろう。
そんなわけで俺はハバナに戻ったら、お礼と報告も兼ねてこの店を訪れるのを楽しみにしていたのだ。
今は昼間だから営業はしてないだろうが、まずは場所を確認するだけでもしておきたい。
 
昼下がりのキューバは今日も暑い。
汗をかきつつ地図を頼りに名刺の住所を探してみるが、この辺かな?という場所に写真のような店がない。
おかしいな。リネア通りと言えばここのハズなんだが。
仕方がないのでリネア通りを端から端まで歩いてみようと思ったら、この通りがまた長かった。
腹が減っているのに気の利いた屋台もみつからない。
他の街ではいくらでもあったのに、なぜハバナでメシを食うのに苦労するのか。
 
珍しく空腹に耐えかねて苦しんでいるうちに、ついに長いリネア通りを東から西へと歩き通してしまう。
イアンの店らしきものはどこにもなかった。
何か俺が勘違いしているのかもしれない。宿に戻ったら名刺を見せて聞いてみよう。
今はそれより腹が減った。
長距離バスでの下痢を警戒して昨日からほとんど何も食べていないのだ。
おかげでバス内で腹痛に苦しむことはなかったが、
このままでは灼熱のハバナでエネルギー切れを起こす…ってところで、ようやく軽食の店を発見!
 
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立ち食いのファーストフードのような小さい店。
店は小さいのにこのパンはなんだ。
パン・ケソ・ハモンという見た目そのまんまのメニューで、
パンの大きさもさることながら、内蔵されたハモン(ハム)のボリュームがもはや嫌がらせスレスレである。
しかしこれが実にうまい!
目の前でバカバカ割ってガンガン作っている直絞りのパインジュースも最高。
あっという間に空腹解消である。
これだけのメニューで18ペソクワーノって安すぎるよな。
 
キューバ旅も巡り巡ってハバナに戻ってきたわけだが、ペソクワーノはまだまだ残っている。
もっとガリガリ使わないとマズい。
一気に減らすにはコーラ(60ペソぐらい)やビール(100ペソぐらい)の缶を買うのが一番てっとり早いんだが、
ハバナでペソクワーノ売りの店を見つけられるかどうかは疑問だ。
メシだと軽食になるのでこのとおり安いし、量はそんなに食えないしな。
あーどうしよう。
 
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イアンの店探しは今日は諦めたし、飢えはしのいだ。
こうなったら後はもう観光するしかないな。
昔の要塞を改装したようなカフェがオッシャレー!
行かないけど。
 
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海。そしてハバナ。
都会で、リゾートだ。
 
多くの観光客がこんな光景を目指してキューバにやって来るんだな。
今まで俺はどこで何をやっていたのだろうと、ふと考えてしまう。
 
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これがカリブ海。
想像上の存在みたいだったカリブ海という名前のものが、今ちゃんと目の前にある。
それはそれ。
俺はそんなことをただ確認しに来たかっただけのような気もする。
 
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お、カリブ海を遊泳する謎の生き物を発見。
何を採ってるんだろうな。
魚か貝か、それともロブスターとか?
 
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海に沿って伸びるこの道はマレコン通りと言うそうだ。
延々と歩いてきたつもりだが、今日はまだ新市街のベダート地区から出ていない。
ハバナの海岸線ってやたらと長いんだな。
 
旅の途中ならどんな長い道のりも黙々と進んで行くものだが、
これが観光となると途端に長距離移動が面倒になるのが俺の思考パターンらしいと悟る。
 
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あの遠くに見えるあたりが旧市街、ビエハ地区だ。
観光の要所は大体ビエハ地区に集中しているが、今日はここで引き返すとしよう。
なんせ時間はまだまだあって、やることが思いつかないぐらいなのだ。
 
今日は4日で、帰国は10日の朝。
しかも予定は何もない。どうすりゃいいんだ。
ユニサイクルが折れてなければもう少し走っていたかもしれないが、だからといって歩く気もないしなー。
 
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宿への帰り道、サンドラに教わったメルカードに寄ってみる。
ここなら間違いなくペソクワーノが使えるはずだ。
 
あまり広くもないメルカードを散々ウロウロした挙句、マンゴーを1コだけ買う。
どれがうまいのかわからない!とジェスチャーしたら、果物屋の兄ちゃんが苦笑しながら選んでくれた。
おそらく良いマンゴーを選ぶのはキューバ主婦にとって超初歩的な技術なのだろう。
値段は1コ3ペソクワーノ。
 
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部屋に戻って早速食う。
これが、うまいのなんの。キューバにおける最高マンゴー記録を余裕で更新だ。
甘いのに歯に挟まるスジがほとんどなく、芯に近い部分にもあのイヤな酸っぱさ、エグさがない。
なんだこれ完璧じゃないか。マンゴー完全体。
さすがはプロのチョイスである。もう1コぐらい買っときゃよかった。
 
昨日から食ってなくてあれだけひもじかったのに、さっきのパンとこのマンゴーだけで腹一杯になってしまった。
もう今日は何も食わなくて良さそうだ。
これでも小さいヤツを選んでもらったのだが、それでもマンゴー1コは多いことを学ぶ。
 
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これは散策の途中で見つけた変な家。
こんな家もある新市街、ベダート地区を歩き回った感想としては。
 
ペソクワーノで買い物できる店がメルカードとわずかな屋台ぐらいで、かなり少ない。
コーラ、ビールなどはやはりCUCで買うしかなさそう。
首都ハバナは地方に比べてCUCをメインに使う感覚、いわば国際感覚が広がっているということだろうか。
 
ということで、ペソクワーノが減らない。
今日でもパンとマンゴーで21ペソしか使っていないが、残りを数えたらまだ700ペソはある。
ちなみに一番最初は4800ペソあった。
我ながらよくがんばったような気もする。ほとんどコーラで消えていったようなものだが。
 
あとは旧市街の中華街にはペソクワーノ払いの店があるという噂なので、せいぜいそこに期待するしかないな。
帰国までにちゃんと無くせるんだろうか。
銀行に行って再両替するのが何よりめんどくさい。
 
夕立のような強いスコールが降って、すぐに止んだ。
外を一輪車で走っている頃なら苦労していただろうが、普通の観光客と化した今ではなんてこともない。
バス移動による神経の変調もまだ完全には治っていないようだ。
ハバナ観光初日はこれぐらいにして、今日はもう部屋でおとなしくておこう。
 
ハバナでは、サンドイッチ屋でもメルカードでもカサでも、気持ちよく旅行者に接してくれる。
ぼったくろうなんて意思はまるで感じなかった。
そう考えると、金がらみでイヤな思いをしたのは本当にサンティアゴだけなんだなぁ。
俺の個人的な体験による偏見もあるとは思うが。
 
サンティアゴよりよほど人が多い大都会のハバナでは旅行者にある程度の理解があり、
他の地方都市や田舎の町では地方の人特有の素朴な誠実さで接してくれた。
サンティアゴはその中間の特殊な位置にあるということだろうか。
いずれ少しずつでも変わってくれることを期待するよ。 
 
それにしても、ハバナに来てまでサンティアゴのことを考えてしまうとは。
俺はよほどあの街にインパクトを受けたようである。
実は好きなのかも。
小学生か!!