7月7日#2 ハバナ、掟は見えない

帰国日も近いし。
もうハバナから動くこともないだろうし。
そろそろ買うか。土産。
 
そう、土産だ。
キューバでやることも無くなった今、最後の気がかりと言えばこれ。
俺はもともと年賀状も書かない不精者だし、人力旅でちゃんと帰ってくるかどうかも怪しいぐらいなので、
たぶん誰も俺に土産などは期待していないだろう。
だがそんな俺でもいくつかは買っておかないなーと思う心当たりはある。
 
ちなみに自分用の土産はアイスランドと同じく今回も不要だ。
無事に帰り着けばもう充分。満腹。
 
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キューバ土産といえば、やっぱりゲバラTシャツだよね!
だって今どき葉巻とかラム酒とか誰も要らんだろう?
てなわけで、ここはTシャツがメインの土産物屋。
可愛いムチムチお姉さんが素敵な笑顔をくれているのは、大事な商談が成功裡に終わったからに他ならない。
 
その商談とは!
 
「…1枚10CUCのこのゲバラTシャツを2枚欲しいんだ。
 と・こ・ろ・で…。
 合計20CUC払うべきところを、500ペソクワーノ+5CUCではどうかな?」
 
そう、これは驚異の逆転ペソクワーノ殲滅作戦なのである。
今のペースでは一向に無くならないペソクワーノを、ここで一気に消すつもりなのだ!
500ペソクワーノはCUCに換算すれば20CUC。
さらにそれプラス5CUCを上乗せして話をつけようというわけ。
ね、悪い話じゃないと思わない?
 
「うーん…。ちょっと電話して聞いてみるわ…。」
 
渋るというか困惑している様子のお姉さん、携帯でどこかに電話する。
が、誰も出ない。
 
「このお店はペソクワーノは受け取れないのよ。銀行に行けば両替できるわよ。」
 
「それはわかってる。だからお願いしてるんだ。
 実はかれこれこういう理由でペソクワーノが余っててね。帰国日が近くて銀行に行く時間がない。
 だからこれをなんとか無くしたいんだよ。」
 
コトバで足りない部分を補うべく、メモ用紙を使って詳しく説明する。
何も騙そうとしているわけじゃない、5CUC多目に払ってでもペソクワーノを無くしたいだけなんだ!
(まぁ、銀行に行く時間がないわけじゃなくて、実はただ面倒なだけなんだけど!)
そんな俺の情熱が通じたのか、最後にはOKしてくれる柔軟なお姉さんなのであった。
 
よし、勝利だ。
これでゲバラシャツを2枚ゲットして、ペソクワーノ札束も大部分が消滅。
本当はオマケ分を3CUCぐらいにしておこうと思ったんだが、
やはり相手が可愛くてムチムチでいい人っぽいお姉さんだとツメが甘くなるな。さすが俺。
 
この話はつまり、2000円程度を両替するためだけにあの大行列の銀行に並ぶという手間を、
今ここで500円を払って解消したということなのだ。
悪くないよねー。
 
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土産その1を首尾よく手に入れた喜びを噛み締めつつ、意気揚々と凱旋中。

帰りはオビスポ通りとイタリア通りでそれぞれ味の違うハンバーガーを買って食う。
これはなんだろう、ポーク挟みパン?
 
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こっちはちょっとばかしメキシカンテイストな何かが挟まっている。
店員のファンキーな姉ちゃんが何か怒鳴ってくると思ったら、BGMに合わせて歌っているだけだった。怖いよ。
 
もはやあの宿敵ペソクワーノ札束は存在せず、あとは日常生活で使い切れる程度の額しか残っていない。
よってもう親の仇みたいに屋台パンを食いまくる必要性はまったくないのだが、
習慣というのは実に怖ろしいものである。
 
俺がこの一ヶ月間、キューバでペソクワーノを使って飲み食いしてきたモノを一堂に並べてみたいものだ。
さぞや壮観なジャンクフードの群れができ上がることだろう。
キューバまでわざわざ間食しに来たようなものだな。
 
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さらにアパートの近くでとどめの菓子を買って食ってしまう。
やばい、習慣を通り越して病気かも。
 
とにかくこれだけ食えば夜まで充分もつだろう。
はいはい、昼の部終了。
一旦部屋で休憩!
   
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デーン。本日の戦利品。 
 
買ってしまった後で初めて気づいたが、こんなの欲しい人いるんだろうか。
 
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部屋の窓から見える、お気に入りの景色。
今日も特に何をしたということもないうちにハバナの太陽が暮れていくなぁ。
 
ところでこの部屋、本当に居心地がいい。
いつも俺がいない間に部屋は掃除され、シーツも換えてくれてて、ゴミ箱も空。
にわか雨が降った時は窓を閉めてさりげなく洗濯物も取り込んでくれているし、
いつのまにか冷蔵庫にマンゴーが入ってるなぁと思ったらマンゴージュースを作って飲ませてくれたり。
裸のおっさん二人組なのになんとも神経が細やかで好感が持てる。
なんせいつ見ても裸なので写真を撮る気になれないことだけが難点だ。
 
さて、荷物を置いて休んだところで、もう一回り散歩してくるか。
 
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夕暮れ時にはやっぱり人が集結するハバナの海岸。
みな判で押したようにカップルか家族連れである。
これだけ歩き回ってるのに知り合いの1人もできない俺とは別世界の様相だな。
 
Tシャツの一件のおかげで、ペソクワーノで悩むことはもうなくなった。
今の調子で過ごせば手持ちのCUCも空港で多少は余るぐらいだろう。
これなら、少しぐらいは贅沢をしてもバチは当たるまい。
 
それじゃあよし、今日は行ってみるか。
レストランに!
そして、アレを食うのだ。
もし余裕があればいつかは食ってみたいと思っていたアレ。
その名はランゴスタ!
 
バーの時と同じく夜のオビスポ通りを行ったり来たりして標的を定め、
通りの隅っこのほうで正直あんまり繁盛していない店をあえて選んで突入。
メニューにランゴスタがあるのは確認済み。
さあ出してくれたまえ、ランゴスタ料理を!!
 
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うおっ、来やがったなランゴスタッ!!
皿のまんなかにドッカリと鎮座しやがって!!
 
ちなみにランゴスタ。いわゆるロブスターのこと。
ロブスターって食べたことがなかったし、せっかくのカリブ海。一度ぐらいは海の幸を味わってみたかった。
でもさすがにランゴスタはそのへんの屋台に置いてあるわけもなく、
どうしても食べたいならレストランにやって来るしか方法がなかったのだ。
言っとくがマトモなレストランに一人で入るなんて俺、日本でもやったことないぞ。
 
そして、うーむ、ランゴスタ。
まさにエビである。デカいエビッ!
たしかに美味しいのだが、この感覚はそう、バケツでプリンを食う喜びにちょっと近いものがある。
 
まぁいいや、キューバのレストランでランゴスタ料理に舌鼓を打つというこの体験こそが貴重なのだ。
それも本物のキューバ・リブレを飲みつつ静かに…。
と思ってたら、ここにも現れたよキューバの楽隊!!
ギターをかき鳴らし、人の横で歌う歌う。
いやぁ上手だと思うんだけど…だけど…できればそっとしておいていただきたかった…。
 
それだけではない。
レストラン内のトイレに行ってみれば、なんとそこには、
存在すらすっかり忘れていたあのトイレおばさんが!!
 
なんでこんなとこにトイレおばさんがいるの!?一体どういう料簡で!?
公衆トイレならまだわかるが、ここはレストランの中だぞ?
客からどんだけ金を取るつもりだ。しかも愛想はゼロだ。
さらに金を取るトイレがピカピカってわけでもない!
 
はぁ…。
せっかくデカエビを食ってちょっといい気分になってたのに。
あなた方、悪いことは言わないから一回日本に来てみろって。
チップを貰えて当たり前みたいに思っているあなた方にはいい勉強になると思うよ。
とにかくすべてにおいてダサい。
 
あー、そうか。
ひょっとするとこれは、俺が払う金額のランクがダサいのだという意味なのか。
中途半端な客の入りも悪いレストランなどに来るからこんな目に遭うのかもな。
サービスの質が金額に比例する。
これはある意味で公平な扱いではある。
 
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そんななんとも言えない体験をしたレストランを出てしまうと、あとはもう部屋に帰るのみ。
せいぜいちょっと遠回りでもしていこうぜ。
 
夜でも人通りが多い場所で何気なく片足をベンチに乗せて座っていたら、
通りがかりのキューバ人カップルが声をかけてきた。
俺に何かを教えようとしているようなので詳しく聞いてみると、
 
「ベンチに足を乗せていると警官に怒られるよ。やめといたほうがいい。」
 
こんなことを言っているようだ。
え、ベンチに片足を乗せただけで怒られるの?
ハバナってそんなに厳しいルールがあるのか?
 
カップルはこれから飲みに行く途中らしく、「オマエも一緒に行くか?」なんて誘ってくれる。
だがそんな時。
俺たちの前に、まさにその警官が現れたのだ。
 
意外なことに、警官は俺には一顧だにせず、カップルに向かって厳しい表情で何か詰問している。
あ、そうか。
現地の人間が観光客にちょっかいを出していると勘違いしているのか。
そうじゃないんだと説明したいところだが、スペイン語で難しいことなど言えるわけがない。
彼らにこれ以上迷惑をかけないためには、今すぐ俺がこの場を離れるのが一番だろう。
悪い、さらばだ!
 
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やれやれ。
週末のハバナは人が多い。
そして注意してよく見ると、あちこちにいる警官の数がまた凄いのだ。
 
なるほどねぇ。
この警官たちは、観光都市ハバナの治安を守るために配置されているわけなんだな。
これだけたくさんいればそりゃ治安もいいわ。
22時を過ぎてもまだ子ども連れがウロウロできるぐらいだもんな。
 
漠然と良好だと思っていたキューバの治安は、
少なくともハバナにおいてはこうしたカタチで維持されているのだった。
これはちょっとした発見。
そしてキューバ人が外国人である俺にほとんど話しかけてこない理由も、これでなんとなくわかってしまった。
やはりキューバは、少し特殊な国なのだ。
 
もうこれ以上夜のハバナをウロウロする気にもなれず、ジョージのカサへ戻る。
 
明日もここに泊まることにした。
ここは気がラクだし、今さら宿を替えるのも面倒だしね。
あさっての月曜日は次の宿泊客の予定があるとかで少し早く部屋を出なければならない様子だが、
ジョージは俺の話をよく覚えてくれていて、荷物だけならしばらくリビングに置いてていいよと言ってくれる。
親切な人だ。きっと置いたりはしないけどね。
 
でも、これで帰国までの予定が立った。
明日までここで泊まり、キューバ最後の一泊はどこかで明かすことになるだろう。
別のカサを探す手もあるけど、空港で寝てしまうのが一番てっとり早いかもな。