ワンダラーズ・ハイのこと

北陸の春は遅かった。

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敦賀の道の駅を薄暗いうちに出て、
完全に明るくなったころに金沢に着く。
この間、気温4度ぐらい。
寒い。
CD90を念のため、レッグシールド、風防、ハンドルカバー付きの北海道冬仕様にしておいて本当によかった。
しかし、何事にも完璧ということは、なかなかない。

地下足袋を履いた足だけがとても冷たいのだ。

足先にやり場のないダンディズムを感じつつ、俺は走る。

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富山。
魚がうまいところだがいつもどおりそんな気分でもない。
しかしうまいラーメン屋があったらしいと通過してから知り、
自分でも意外なほど残念がる。
自分の食いたいものは時として、自分自身でもわからなかったりするものなのか。
不思議だ。
ツーリングをしていると、よく変わったことで悩む。

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富山から新潟にかけての海岸線には、
昔から難所として名高い親不知という断崖絶壁エリアがある。
今では誰かが苦労してキチンとした道を造ってくれているのでさほどでもないが、
それでも毎回オオッと感じるぐらいのグネグネ断崖ロードではある。
そして寒い。
岩壁の桜、まるで咲く気なし。

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いよいよ新潟、上越。
山が真っ白で町のあちこちに雪が残っているのは勘弁して欲しい。
この先内陸に入れば標高が上がるのだが、果たして大丈夫なのだろうか。
一応保険として、近道である3ケタ国道はパスして少し遠回りの2ケタ国道18号線をチョイス。
道が広くて通るクルマが多ければ、よりなんとかなるだろうという考え。

このあたりで気温1度。
紛糾していた脳内国会で地下足袋限界派がついに過半数を超えたので、
最寄りのホームセンターで防寒長靴を買う。
処分特価で2680円。
これは温かい。地下足袋とはくらべものにならない。
あたりまえだ。

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ズンズン内陸に入り込んで、松本。
道路状況は思ったほど悪化せず、結果的には何の心配もいらなかった。
松本や諏訪湖のあたりで雪がなければ関東まではまず問題ないだろう。

ここでもし、雪道になっていたら?
あっさり引き返していただろうな。
そんな想像をして、なぜだか笑いがこみ上げてくる。
こういう時の自分は大丈夫だ。
何もガマンしていないし、何も迷っていない。
だから何も心配ない。

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すっかり夜になった国道20号線をピリリと直進。
そのうち甲府だ。
順調に標高が下がってきているのがわかる。
気温は上がってきて7度ほど。
少し雨に降られたが、これぐらいならまだいける。
長靴も買ったし、そもそも慣れてる。

今夜はこのオートバイの放つ軽やかな律動、生真面目な滑り出し、ノロンとした存在感が特に素晴らしい。
こんな瞬間はできるかぎり、このバイクと戯れていたいと思う。
バイクに乗って幸せな気分に浸っていた時間が俺にもちゃんとあったのだということを、しっかりと覚えておきたい。

そんな気分がまだ少し続いているうちに、今日はストップだ。
このままだと真夜中に首都に突っ込んでしまうからな。