対馬旅 6月28日 足に休養を。心に緑を。

 
#対馬最北の旅

比田勝の朝。
バス停のベンチから身体を起こし、さあ立とうと思ったら、うっ。
やっぱり痛いな…。
足の裏周辺が腫れ上がっているようで、地面に押しつけると痛む。
実際にどうなってるのか見るのが怖くて地下足袋を脱ぐ気にもならない。

だがこの痛みは、いま全身の血が足裏に優先的に集まって、
早く治そう、さらには強化しようとしてくれている証拠でもある。
少しずつなら歩けなくもなさそうだし今日も元気に進むとしよう。
それに何より、夜が明けたバス停にいつまでも居座るわけにはいかない。

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比田勝のフェリーターミナル。
とてもそうは見えないが、この建物は国際船専用だ。
ということは、あの船は釜山へ行くフェリー?
だが調べると、比田勝から釜山に行く船はフェリーではなく高速船のハズで、詳細はよくわからない。

ちなみに厳原もしくは比田勝と釜山を結ぶフェリーの乗客は、韓国人観光客が大半らしい。
対馬には博多から来るより釜山から来るほうがよほど近いという事情もあるだろうが、
ここで実際に釜山に行ったことがあるという修行さんの話を思い出す。

釜山の駅には、目立つ場所に対馬の美しい風景写真がデカデカと掲示されているんだそうだ。
俺も含めて対馬のことをよく知らない日本人が多いなか、
韓国は国をあげて対馬への渡航を奨励しているのだと思う。
これにはもちろん、対馬の領有権をも主張しはじめた韓国の政治的思惑があるだろう。

それに加えて、本州から見た対馬は九州の北にある島。
だが韓国から見れば、対馬は済州島と並んで南に位置する大きな島なのだ。
つまりは南の島、リゾート地のような感覚があるのかもしれない。
日本でいえば沖縄みたいな感じか。しかも手軽に外国気分も味わえるし。

そんな諸々の理由で、対馬には韓国人観光客がたくさんやって来るらしい。
国も全力でPRするし、すぐ近くにあるリゾートだし、となればそりゃ誰だって来るわな。
俺はまだ韓国人観光客と実際に会ったことはないが、できれば話をしてみたいものだ。

こういう点、日本は本当におとなしい。伝統の事なかれ主義。
これからの時代、すべての国と人間が、今までどおりにはいかない価値観の変化にさらされるだろう。
日本はどうなっていくのか。
今回の旅が、それを考えるための助けになればいいと思う。

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それにしても、比田勝のバス駐車場は強烈である。
ただの車庫とはいえ、いつ崩壊してもおかしくない気がしてしょうがない。
倒れる時はせめてツシマヤマネコ号がいない時にしてあげて!
 
 
原則的には対馬の主要道を8の字どおりに進むつもりの今回の旅だが、
主要道を離れた対馬最北部は見所もいくつかあり、また修行家お父さんのイチオシでもあるので、
このエリアだけは通っておきたい。
ひたすらメインロードを進むだけじゃ飽きるしな!
 
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寄り道はいいんだけど。
やっぱ足がキツいな。昨日はやり過ぎた。

人力旅はいつもそうだが、気合いを入れて進んだ次の日はまるでダメだ。
人間の身体は機械ほど単純じゃない。それでいいのだろう。
大事なのは自分の身体能力の性質とその限界をよく知っておくことかな。

というわけで、今日はもう移動距離は考えずにしょっちゅう休むぞ。休養日だ。
さっそく居心地よさげなバス停をみつけて中で寝る。
そして結構本格的に寝てしまう。
対馬のバス停は立派なわりにほとんどバスが来ない(一日2回とか)ので、こういう時は助かる。

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日露戦争時の記録。

対馬最北部は日本海海戦を文字通り肌身で感じた地域だ。
このような史跡は他にもいくつかあり、それによると、
漂着したロシア兵たちはこの土地の人々の各家で分担して世話をされ、看病され、
回復するまで養われたということである。

そういえば、修行さんのお母さんが対馬の地理の説明をする時に何気なく言っていた、
「このへんの人たちは優しいから。」という言葉は、この時の記憶に由来するのかもしれない。
そしてこのへんの人たちは、日露戦争のことを「こないだの戦争」と表現するそうである。

戦いが終わって相手が弱っていれば、もしくは悪人でも死んでしまえば、もう憎む気になれない。
日本人の間にはこういった考え方が普通にあるように思う。
でもこういった感覚は、必ずしも人類全体で共通というわけではない。
世界には、ひとたび敵、もしくは悪と認定した人間を、死後も決して許さない文化がザラにあるのだ。

ここでどちらがいいとか、日本人の思想が特別素晴らしいのだというつもりはない。
ただ人類全体には日本人の中にいるだけではわからない無数の考え方があり、
それらはそれぞれの環境や歴史から必然的に培われてきたものだという事実を知っておきたいのだ。
できるだけ良い判断をするためには、できるだけたくさんの経験をしておきたい。
常にではない。こんな刺激に触れた時、俺はたまにそう思う。

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対馬最北部の旅は、大量の休憩を挟みながら、牛歩で進む。
今日は早く移動することをハナから諦めているので、
そうなると景色でも眺めてみようかという気にもなるのはいい。

あー、比較的平坦に思えた最北部も結構アップダウンがあるわ。
主要道から離れているので道もあまり良くない。
海が近いせいか、道端にはしょっちゅうカニがいるし。
こんなとこをウロウロしてるからクルマに轢かれてペチャンコになるんだよ。
カニ語がわかるならカタコトでそう教えてやりたい。

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ここは三宇田(みうだ)浜。
日本の渚100選?にも選ばれている、風光明媚なビーチ。だそうな。

あたりまえだが6月だとだーれもいないな。
おかげで俺はここでも寝るのである。
今日はもう寝てばっかりだ。だって足痛いもん。

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地蔵さんに無数の服が重ね着され、無数の穴の開いた石?がブラ下がっている。
詳しくないけど、なんだか独特な文化の香りがするな。

対馬は古来より大陸と日本の中継地点。
きっと学者も知らない無数の伝承が生まれては消えて、今も少しだけ残っているのだろう。

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豊砲台跡という、第二次大戦中までドデカイ砲台があったらしい跡地まで苦労して行くも、
跡地の地下道が水びたしになっていて入れなかった。
うわなんのためにあんな坂やこんな坂を這い上がって来たんだ…と失意のうちに引き返してきたが、
この寄り道の唯一の収穫は、テトラポッドを作っている現場を初めて目撃したことである。

なるほど、鉄の枠にコンクリを流し込んで段階的に作っていくんだな。こりゃおもしろいわ。
でも毎日やってれば2ヶ月で飽きそうでもある。
いやいや、きっとこれも職人の世界で、最高のテトラポッドを作るためには一生が修行なのかもしれない。

…ちょっと調べると、型枠だけをレンタルする業者があって、
型枠を借りてきてこうやって現場でコンクリを流し込んで作っては岸壁に置いていくだけなんだそうな。
へー、合理的ですねー。

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豊砲台跡の次に来るのはここ、韓国展望所ってヤツだよ。
韓国風(らしい)の建物からは、天気がよければ釜山が見えるんだと。

文章だと一瞬の移動だが、ここに来るのもまた結構な坂で参った。
どうせまた引き返すんだしと思ってだいぶ下のほうで荷物を全部置いてきてやったわ!
あー手ブラだと軽ーい。

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え…、なんにも見えない。

掲示してあるパネルによると、あの水平線の位置にはバッチリと韓国があるハズなのだが。
たしか修行さんのお父さん、「最近はPM2.5のせいで見えないんですよ。」って言ってたなぁ。
この天気で50キロ先なら普通に見えてもおかしくないだろうから、やっぱりPM2.5のせいなのか?
だが今でも夜なら釜山の煌々とした明かりがよく見えるそうだ。

ちなみに、目の前にある島の建物は航空自衛隊の施設。
そう、ここはただの観光地ではない。まさに国境なのだ。
文化の行き交う場所。そして政治的思惑のぶつかり合う現場である。

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はぁ。長い寄り道であった。
鰐裏まで来たら対馬最北部の旅もそろそろ終わりに近いだろう。

ここで地元のおばさんと少し話す。
「いえいえ、自転車が壊れたんじゃないですよ。実はこういう乗り物なんです。」
この一連の会話、だんだん慣れてきた。

「この先の坂も長いよ。昔は私も自転車に乗ったけど、今はようしきらん。」

こんな風な内容の対馬弁?が耳に心地いい。
人と話して笑顔になると、疲れが取れる。不思議だがこれは事実だ。
そしてこのおばさん、歯並びがとてもいい。これは入れ歯じゃないと思うなぁ。

修行さんご夫妻の心配どおり、対馬の郊外で人に会うことはあまりない。
たまに見かけるのは決まって野良着を着た人で、まさにこのおばさんと同じだ。
人と会うことが稀だからこそ、挨拶するのも苦ではない。
外国人と誤解されないためにも率先して挨拶するようにしているが、
皆さんちゃんと挨拶を返してくれるのが嬉しい。
でもこれぐらい長く喋ったのは今回が初めてかもしれない。
特別な先入観を持たなければ、日本の離島や田舎はどこもこんな感じのような気もするが。

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集落には大抵こういう大きなアンテナがある。
ドコモやauのアンテナかな?テレビかもしれない。
昨日までのソフトバンク全滅状態とは違って、今日は集落まで来ればたまにソフトバンクの電波も入る。

そうだ、北海道で修行さんに聞いた話。
韓国に近いこのあたりでは、うっかりすると携帯が勝手に韓国の電波を拾ってしまうことがあるらしい。
そして後日、携帯会社から『国際通信費』が請求されて驚くんだと。
その話を聞いていた俺は、事前に国際ローミングの設定がオフになっているのをしっかりと確認した。
対馬に来る気がある人は知っておいて損はない話だと思うよ。