4月16日#2 L.A!

 
太平洋をまっすぐに渡ってきた飛行機は、おもむろに大きく旋回を始める。
ああ、ロサンゼルスに着いたよ。やっと着いたよ。
 
毎度ドキドキのイミグレーション(入国審査)では、着ていたメッシュのバイクウェアに目を付けられる。
 
「入国の目的は?」
 
「観光。」
 
「3か月か。バイクでアメリカを旅をするのか?」
 
「い、いや…。(ウソつくのもマズいような気がする)」
 
「自転車か?」
 
「い、いや…。一輪車。」
 
「…アア!?」
 
怖いよ!
証拠を見せろと言われるが、肝心のユニは預け荷物なのでまだ持っていない。
スマホの写真を見せようとするも、自分が乗っているような古い画像はみんな消してきてしまった。
これは困ったな…。
やむをえん、とりあえずコレを!
 
イメージ 12
 
バーン。
 
「これはオマエじゃないじゃないか?」
 
「そうなんだが…、これは友人だ。とにかくこれに乗ってアメリカを横断するつもりなんですよ。」
 
最後には、こいつクレイジーだみたいな顔をされ、どうにか通してくれた。
あーよかった。
これぐらいで入国させてくれないなんてことはないと思うが、
不審に思われて3か月の滞在期間を減らされる可能性はあるかもしれない。
90日で横断できるかどうかも怪しいのに、これ以上短くなったらたまらんからな。
 
そんなわけで予想外に時間のかかった入国審査を終え、預け荷物のユニも無事回収。
到着ロビーに出て俺もついにアメリカデビュー!!
っと思ったら。
 
『KIKENJI』
 
と書かれたプレートを持った男が、笑顔で俺を待ってるよ!?
一輪車がプリントされたTシャツを着た初老の男性。
おお、彼はランス氏に違いない。
 
実は旅の直前、いくつかの疑問を解消しておくべく、海外の一輪車フォーラムに投稿をしたのだ。
そこで深く食いついてくれたのが彼、ランス氏。
ロサンゼルス近郊の道路事情などを詳しく教えてくれた上、出国直前にもらったメールでは、
 
「明日はちょうど仕事が休みなので、ロサンゼルスの空港まで君を迎えに行けるかもしれない。
 目印はユニサイクルのTシャツだよ!」
 
そう言ってくれていたのだ。
本当に来てくれるとは…。
一人の知り合いもいないハズのロサンゼルスで、
まさかキケンジプレートを掲げてお出迎えしてもらえるなんてな。
これは嬉しい。嬉しいよ。
 
イメージ 1
 
さっそく彼のデカいクルマに乗せられ、まずは俺が事前に予約しておいた宿へと連れて行ってもらうことに。
今回も基本的に野宿旅のつもりではあるが、
初日の宿の予約は心身の調子を整えるだけでなく、何かの申請用紙で『滞在先』を尋ねられた場合に便利だ。
 
イメージ 2
 
渋滞気味のフリーウェイ(高速道路)を走りつつ、クルマはダウンタウン(街の中心)へ。
しかしまぁ、ロサンゼルスのデカいこと。
世界でも有数の広大な街というだけあって、マジメにデカい。
ダウンタウンにはこうしてビル群もあるが、
ランス氏いわく、ロサンゼルスは土地が広いので高層建築物は少ないんだそうだ。
 
いやぁ、こんな広いとこ、予定どおりに空港から歩いてたら絶対に迷ってたな。
事前に地図は確認していたが、実際に来てみると縮尺の感覚をすっかり間違えていたことに気づいたよ。
 
イメージ 3
 
フリーウェイを降りて、市街へ。
広いアメリカでもさすがに大都会はゴミゴミしてるな。
しかし俺のイメージと違って、キメキメな自転車がまるで走っていない。
 
「ダウンタウンは交通量が多くて危ないからね。
 サイクリストは海沿いとかもっと別の快適な道を走ってるんだよ。」
 
ちなみに一輪車に至っては、ここロサンゼルスでもまっっったくメジャーではないらしい。
日本よりはいるかと思ったんだがなぁ。
 
そうこうしているうちに、クルマは予約をした『Room & Bording』という宿に着いた。
オーナーは日本人のおそらく夫婦で、いわゆる日本人宿という感じらしい。
思ったよりも小さいが、必要十分でなかなか良さそうな宿だ。
一泊21ドルというのも安いし、何よりWIFIが使えるのがありがたい。
今回の旅においてネット通信はスマートフォンのWIFI通信だけが頼みだからな。
(国際ローミングサービスも可能だが高いので、これは非常用)
 
不思議なのは、このオーナー夫妻がどうやら英語をロクに喋れないということ。そんなまさか。
ランスは彼らと英語で何か交渉したがっているのだができないという、アメリカにおいて謎のジレンマ。
 
「英語喋れないのにどうやってロサンゼルスで宿を経営してるのかね?」
 
ランスにそう言うと、なぜかやたらとウケていた。
ともかく、こうしてやっと本日の宿にたどり着いたわけだ。
次にランスはありがたくも俺を家に招待してくれるらしい。
彼はウチに泊まればいいのにと何度も言ってくれるけれども、
予約をした宿にも悪いし、異国に来たばかりなので一人で落ち着く時間もきっと欲しくなるだろう。
オーナー夫妻には夕方には宿に戻ってくることを伝え、ランス宅へと移動。
 
イメージ 4
 
おおっ、吉野家!YOSHINOYAですねー。
この牛丼ならぬBEEF BOWLってヤツは果たしてうまいんだろうか。
機会があれば試してみたいが。
 
ほかには公文の教室もたまに見かける。世界に羽ばたくKUMON!
でもどんな授業をやってるのかはイマイチ知らない。
 
イメージ 5
 
ランスの家は、ダウンタウンから北上してハリウッドを過ぎたあたりの閑静な住宅街にある。
家に着くなり、さっそく昼ごはんのサンドイッチとスープをご馳走になる。
うーん、正しいアメリカ料理と言うべきか。
 
奥さんのミランダはなんだかおもしろい人。
ちょっと変わった味のインスタントスープを出してきて、
味見をしたら「あら美味しくないわ!」といきなり全部捨ててしまった。おいおいおい。
学校の先生をしているそうだが、さぞかし愉快な授業風景なのだろう。
 
それにしても、俺には彼らの英語がほとんど聞き取れない。とにかく速い。
こちらから何か喋るにしても、今度はボキャブラリーの貧しさを痛感してしまう。
趣味が共通しているからなんとか会話になっているという程度だ。
 
これまでの海外旅行ではどうにか英語をメインにして押し通してきたが、
相手がネイティブスピーカーだとこうなるわけか。予想はしてたけどな。
これはもう、学習あるのみだ。
 
イメージ 6
 
飛行機に乗せるために空気を抜いたタイヤに空気を入れ直し、
ランスと二人で36インチのユニに乗って買い物に出発。
重い荷物を背負っていないから身軽でいいし、
こうやってランスに付いて走ればアメリカの道路事情を知るためのよい練習にもなりそうだ。
 
イメージ 7
 
ついにロサンゼルスの街並みを走る。
どんな一輪車旅でも、初めてその国を走る時には高揚感を覚える。
ああ、ほんとに来たな、っていう感じ。
 
この道は自転車用のバイクレーンが設定されているので走りやすい。
デカい36インチのユニが2台並んで走っている様子はなかなか目立つようで、
歩行者やドライバーから熱い視線やら掛け声やらが飛ぶ。
やっぱアメリカでも一輪車は珍しいらしいな。
 
イメージ 8
 
2軒目の自転車屋で見つけたのはこれ。
自転車用のメットに取り付けるミラー。これが欲しかったんだ。
 
一輪車のフォーラムでこいつの存在を知り、安全性を高めるためにぜひ入手しておきたかったんだよな。
ランスがその場で取り付けてくれたので、帰りはテスト走行も兼ねることができた。
うん、なかなかいいぞこれ。背後から来るクルマの接近がよく見える。
 
実はこれを買ったのがアメリカで初の買い物。
日本のクレジットカードがちゃんと使えて感激だ。
 
イメージ 11
 
一輪車仲間との愉快な散策を終えてランスの家に戻り、疲れてるだろうということで少し昼寝をさせてもらう。
おや、シブいギターと器材が揃っているな。
うむ。一輪車とギターが好きな人間に悪い人はおるまい。
 
それはそうと、さっきの散策で感じた問題は、4月のロサンゼルスが暑いということだ。
一応持ってきたフリースの服が昼間のお荷物になるのは間違いないだろう。
まくっていた腕が少し日に焼けてしまった。
 
その後、少しと言いつつ長い昼寝をさせてもらった。
よく寝て起きたらいつのまにか家にランスの子どもたちがいるし。
大学生ぐらいの息子と娘。名前を聞いたが残念ながら覚えられなかった。申し訳ない。
 
今日のディナーはピザ。
買ってきたピザを4種類ぐらい机に置いただけなんだが、大きいピザを4つも並べるとなかなか壮観。
ボリュームも充分すぎるぐらいだ。
彼らはこれこそアメリカンフードだよ!と俺に言って笑ってるっぽいのだが、
本当に残念なことに、彼らの軽い日常会話すら半分も聞き取れない。悔しい。
 
奥さんのミランダは俺の旅の困難さを想像してしきりに心配してくれているようだ。
私をアメリカでのお母さんと思ってね、というありがたいお言葉。
さっそくアメリカの母ができてしまった。
 
イメージ 9
 
シメは近所のヨーグルト屋さんというのに連れて行ってもらう。
自分で好きなヨーグルトのアイスとトッピングを乗せるシステムで、これがなかなか冷たくておいしい。
今アメリカではこんなのがハヤっているのか。
 
さて、今夜寝るのはランス宅ではなく、ダウンタウンの安宿だった。
またしてもランスをわずらわせてクルマで送ってもらう。
彼とは初対面なのに、本当にお世話になりっぱなしだ。
アメリカに来ていきなり人の世話になる、か。
ありがたいことだ。
 
イメージ 10
 
宿の部屋。WIFIもバッチリで文句なし!
夜なので宿のダイニングには宿泊客が集まって雑談をしているのだが、
これが見事に日本人ばかり。日本語ばかり。さすがは日本人宿。
旅行中の若いバックパッカーも、ここに長期で宿泊している年配の人々もいるようだ。
 
当たり前だが英語ばっかりのランス宅から日本語ばっかりのここに移動して来てホッともするが、
なぜか彼らの日本語での歓談に積極的に入っていく気分にもならない。
なんせ俺はこれから、英語だけの世界を走らんといかんのだからな。
彼らはここで何泊かしながらロサンゼルスを堪能するのだろうが、俺は一泊だけ身体を休めたらサッサと行く。
 
明日からは一人。
明日からが本番だ。