4月19日#2 モハベ砂漠へ!
スコットに見送られて、ルート66、モハベ砂漠越えをスタート。
クルマならインターステート40号(通称 I-40)を突っ切ればすぐにニードルズの街に着くが、
人力野郎はこのI-40のまわりをウネウネしながら遠回りしないといけない。
とはいえこっちが旧道、いわば本家だからな!
アメリカ人の心のふるさと、マザーロードがいよいよ本番なのだ。
本番なのはいいが、とにかく気になるのは補給。
250キロの砂漠を越えるには、途中でどうしても水と食料を手に入れる必要がある。しかも何度か。
50キロぐらいごとに店か町があれば言うことはないが、そこはあまり期待はできない。
調べてもよくわからないので、これはもう水をたくさん抱えて走ってみるしかないのだ。
…と思ったら、あれ。
まだバーストーから20キロぐらいしか走っていない段階で、店を発見。
バグダッド・カフェと書かれている。
俺も名前だけは知っているが、同名の有名な映画が撮影された場所だろう。
時間がたっぷりあるなら入ってみるのもいいが、あいにく今日の俺は忙しいのだ。
まだ水も食料もほとんど消費してないから買い物する必要もないし。
店の外観だけ撮らせてもらって出発しようとしたら、ちょうど中から恰幅のいい女性が出てきた。
「店に入りたいの?」
「いや、ごめん。これからたくさん走らないといけないから、やめておくよ。」
彼女は気を悪くした風でもなく、むしろ俺の一輪車に興味津々といった様子。
どうやら店の人ではなくお客さんらしい。
そして写真に写っている白いトラックは彼女のものらしい。ならば。
「ちょっとトラックの荷台貸してね!」
そう言って荷台に手を置いて身体を支え、背の高い36インチユニに跨る。
実は今回の旅、一輪車に飛び乗ることができないのだ。
重い荷物を背負った状態で、背の高い36インチに飛び乗ることが、どうしてもできない。
この事態はあらかじめ予想していたことではあったが、
問題なのは、このトラックのように都合のいい『掴むモノ』が、アメリカではなかなか見つからないことなのだ。
ロサンゼルスの街中にはいくらでもあった人工物が、砂漠に来るとなんにもない。
期待していた電柱や標識などは決まって道からかなり奥まった土の上に設置されており、
これでは発進することができない。
なんにもないとは思っていたが、正直ここまでとは思っていなかった。
これからどうするか。毎回クルマに掴まるわけにもいくまいし。
とりあえず今回のバグダッド発進は、路面が砂なので何度か失敗しつつもどうにか出発成功。
不安定な路面なので後ろを振り返る余裕もないが、彼女は楽しんでくれただろうか?
バグダッドカフェ前での、ささやかな交流であった。
バグダッド・カフェの場所は広大なモハベ砂漠のほんの入口に過ぎない。
まっすぐに伸びる道。
これからずっと、こんな感じなんだろうな、きっと。
交通量も実に少ないのでこんな撮影も余裕。直線だと接近するクルマが遠ーくから見えるしね。
アメリカ西部。ルート66。
そういった言葉が持つイメージの一部が、このような風景ではないだろうか。
ルート66は、今でも『HISTORIC ROUTE(歴史的な道路)』と呼ばれてアメリカ人に愛されている古い道。
見渡す限りの荒野。彼らもきっと、こんな風景が好きなんだろう。
ときどき通り抜けるクルマやバイク(もちろんハーレーばっかり)は、
すぐ横に見える快適なフリーウェイではなく、あえてこの道を走っているのだ。
ところで、見渡す限りなんてよく言うが、
そもそも地平線なんて、思ったよりも近くにあるものだ。10キロ以内ぐらい。
目に見える風景は、長い旅ではさほどアテにならない。
そんなことを、やはり水がいちばんうまいなー、と感じながら思う。
これがモハベ砂漠かー。
砂漠とは言いつつ、思ったよりは植物が生えている。
エジプトみたいなのを想像していたらだいぶ違ったよ。
水気はまったくなく、カラッカラだけどな。
それにしても暑い。やるな砂漠。
まだ4月だからこれでもきっとマシなんだろう。そう思うしかない。
重ね着していた服を脱ぎ、反対に股が痛くなってきたのでサイクルパンツを2枚重ねに増量。
股の痛みというのは、一輪車旅の宿命とも言えるものだ。
これまでの旅では一輪車のサドルに厚いウレタンフォームを重ねるという方法でやってきたが、
36インチユニはそれでなくとも車高が高いのでサドル増量は厳しい。
よって今回はサドルはそのままで、股パッド付きのサイクルパンツを2枚重ねて挑んでみる。
直射日光で首の後ろが照りつけられて熱いので、首にタオルを巻こうとしたら、ない。
え、タオル持ってくるの忘れた?
しょうがないので替えの靴下を繋げて首に巻く。シブい。
そのうちどっかで買えるでしょ。
路肩の砂の上を走っていて、予期せぬ砂だまりに埋まってコケる。
これで2回目。
途中から急に路面状況が悪くなった。アスファルトが劣化してヒビだらけだ。
これまでは交通量の少ない道を快適に走ってこられたのだが、
写真のように深くヒビ割れまくっていると非常に乗りづらい。
これなら路肩のほうがまだマシだ…と思って走っていると、このように砂に埋まって倒れるわけである。
そして、再び乗るにしても掴まれる場所なんてない。
路肩の土のちょっとした段差を使い、何度もトライしてやっと乗れる、その繰り返し。
こうなるとペースが激落ちだ。
時間がどんどん過ぎてゆく。
この先のラドローという町に(たぶん)あるガスステーションが開いているうちに、どうにかたどり着きたいのだが。
今まで左側にあったフリーウェイの高架を越えて、反対側へ。
ここまで来たらラドローはもうあと10キロぐらいだろう。
急げー、店が閉まるぞー!
股の痛さをこらえ、ここは一気に突っ走る!
汗が海の味だ。
こういう時、生きてるっていいなぁと、思えるか。
店が閉まってたらどうしよう、とばかり考えてしまうか。ひたすら疲れた、それだけか。
全部だ。その全部なんだ。
ラドロー着!閉店30分前!セーフ!!
いやぁ、珍しくがんばった甲斐があったな。
水をガマンし続けてきた後のスポーツドリンクがものっすごくうまい。
水ももちろんうまい。勢いあまって2ガロンも買ってしまった。
さすがに重すぎるが、今夜は贅沢に顔を洗ったり歯を磨いたりできるだろう。
もう暗いのでよくわからないながら、ラドローは町というほどの規模でもないようだ。
ただフリーウェイのインターがあり、ありがたくもガスステーションがある。
ちょっと散歩してみたらインターの向こう側にもガソスタがあった。しかも24時間営業。なんじゃそりゃ。
ついでに言うとそのガソスタはモーテルも併設している。
一瞬モーテルに泊まるか…と心が揺れたが、今日はやめておく。こんな時間からじゃもったいない。
この辺なら適当にテントを張って寝られるだろう。
気がかりなのは、この先のルートにある数少ない集落、アンボイとエセックスの2つに店があるかどうかだ。
店の兄ちゃんに聞いても、「わからないけど、ニードルズに行けばあるよ。」と言われてしまった。
そりゃそうだ。普通はフリーウェイで一気にニードルズまで移動するもんな。
途中の旧道にある、人が住んでるかどうかもわからない小集落に店があるほうがおかしい。
まぁ、その心配は明日にして、今日はとにかく休もう。
昼過ぎから走り始めたわりに、走行距離は74キロ。
さすがによく進んだな。とにかく店にたどり着けてよかったよ。
今日クルマから「乗っていくか?」と声をかけてくれた2人のドライバーさん、ありがとう。
でも、モハベ砂漠は自力で越える!