4月28日 パーカー

 
今日の風向きは、左からの横風だ。
昨日はさほど気にならなかったトレーラーの走行風が、横風により勢いを増して吹きつけてくる。
トラックが通過した一瞬後に、グワッと一輪車ごと持って行かれる感じ。
これはなかなか怖い。
 
歩けば足が痛いし、乗れば横風。まったくどうすりゃいいんだ。
歩行者禁止とわかっていても、ここは歩くしかないな。
警察に怒られたってここは譲れまい。
 
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やっとの思いで、また次のフリーウェイの出入口へたどり着いた。
 
いわゆる高速のインターとはいえ、そのほとんどがガソスタも何もないただの荒野だ。
しかし、ここに来ればしばらくはトラックの脅威から逃れて一休みできる。
あーあ、今日も天気だけは果てしなくいい。
 
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妙なアングルから写真を撮ってみる。
疲れている時は休憩が長く、集中力も散漫なので、何か変わったことをしたくなる。
風は強いが気温は暑くもなく寒くもない。
砂漠の暑さと乾燥でパックリと割れた唇もいつのまにか治ってきた。
 
さあ、こんなところでいつまでも休んでいても仕方がない。
また気合いを入れて、横風とトラックの待つフリーウェイを歩きに行くとするか。
本当になんにもないフリーウェイの入口で、
路肩にあった砂袋を2つ重ねて飛び乗り用のステップにしようとしていた時、
おもむろに一台のクルマが滑り込んできた。
俺の横でクルマを止め、満面の笑顔で話しかけてくる若い男。
なんだかやたらと嬉しそうだ。
 
「イヤァ、クール!!すごいな、まさかそれで旅をしているのかい!?
 さあ、乗って乗って!!」
 
え、いきなり乗ってって。なんだそのノリは。
クルマはボロボロの古いニッサンだし、人間は金髪ロンゲで半裸に裸足のどう見てもヒッピー。
しかもクルマの中がゴミ?だらけで、とても俺と36インチユニが入りそうにないじゃないか。
思いっきり怪しい。怪しいんだが、なんだか楽しそうなヤツだ。
そして何より、その本当に嬉しそうな目がきれいだ。
 
よし、この男に少し興味が出てきた。
強風と足の痛みの板挟みで正直困っていたことでもあるし、ここは彼のクルマに乗ってみよう。
 
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ゴミだらけのクルマに荷物を押しこむのは尋常ではなかったが、今回もまたどうにかなった。
後部座席にはボロいギターが放り込まれていて、俺の荷物はその横にどうにか挟まっている。
そう、ギター好きのヤツに悪いヤツはいない。
 
彼の名はパーカー。
オクラホマ州の州都であるオクラホマシティ在住で、カリフォルニアまで旅行してきた帰りだ。
その旅行というのがちょっと変わっていて。
カリフォルニアのデスバレーというなんにもない砂漠に行き、
そこでギターを弾くなりなんなりしながらウダウダと過ごしていたが、
オクラホマの兄に子どもが生まれたという知らせを受けて、
デスバレーからオクラホマまでの1200マイル(1920キロ)を今、一気に走って帰ろうとしている途中なんだとか。
 
「なんでまたデスバレーなんかに行く気になったんだ?」
 
「意味なんかないよ。
 キミもなんでユニサイクルでアメリカを旅してるのかって聞かれても同じだろ?」
 
…そうだ。
本当にそうなのだ。
俺自身、今まで何度も同じ質問をされ続けてきたんだった。
聞かれたところで明確には答えようもない問い。
だから適当に、「ただやりたいから」「ユニサイクリストだから」などと曖昧に答えていた問い。
そんな問いを俺自身がしてしまっていた。
そしてパーカーは、その問いにあっさりと答えてしまった。
彼は、今まで出会ってきたアメリカ人とは少し違うようだ。
 
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ギターは練習中で本来はサックス吹きというパーカー。
フリーウェイ上でパトカーを見つけると、いきなり「ファ○クポリース!」と叫び出す。
おいおい一体何があったんだ。
聞けば昔、オクラホマシティでただパイプを所持していたという理由だけで牢屋行きになったことがあるんだと。
それも2回。あちゃー、荒んでるなぁオクラホマシティ。
パーカーはそのオクラホマシティに帰る途中だ。
 
「どこまで行く?アルバカーキでもオクラホマシティでも、どこまででも乗せて行くよ。」
 
「いや、それは長すぎだ。次の街で下ろしてくれないか。えーと、ギャラップかな。」
 
バカ話をしている間にクルマはギャラップに到着。
あまり気にしていなかったが、ギャラップまで来ればそこはもうアリゾナではなく、ニューメキシコ州だ。
フリーウェイを降りたちょうど目の前にマクドナルドがある。
 
「昼メシ食っていかないか?乗せてくれたお礼におごるよ。」
 
するとパーカー、おもむろにゴミだらけのクルマの中を物色しはじめる。
何をしているのかと思ったら、やがてどこからか汚れたクツと上着を発掘してきた。
ひょっとしてマクドナルドって裸足じゃ入れてくれないのだろうか。
マクドにドレスコードがあるとは知らなかった。
 
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昼メシ中。
彼は車内から大きなアメリカ地図帳を持ってきて、俺のアメリカ横断のルートについて一緒に考えてくれる。

オクラホマまではI-40に沿って進む以外に選択肢もないからいいのだが、
そこからフロリダに行くまでには無数の分岐があるようで、どこを走るのかはまだまるで決めていない。
時間が無ければ最短距離を行くしかないが、余裕があればできるかぎり広く安全な道を選びたい。
そして彼は、地図帳にあるオクラホマシティ詳細図のページを破って俺にくれる。
 
「オクラホマに着いたらウチにおいでよ。
 うるさくて汚い上に墓場の隣にあるミュージックハウスだ。好きなだけ泊まっていけばいいよ。」
 
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パーカーの愛車。
今にも壊れそうだなと思っていたが、実際にデスバレーから戻る途中でタイヤが破損して大変だったらしい。
そんな調子でちゃんとオクラホマシティまで帰れるのだろうか。
しかもこれから寝ないで走り続けて翌朝の到着を目指すと言い張っているが…。
なんかもう、自分のことより心配だわ。
 
まあとにかく、ありがとう。
また会えるのを楽しみにしてるよ。
オクラホマなんて、いつになるやらサッパリわからんけど。
 
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比較的大きな街であるギャラップまで来たらモーテルにでも泊まるつもりでいたが、
パーカーのおかげで予想外に早く着いてしまったので、もうちょいフリーウェイを進むことに。
風はあいかわらず強い。
強風注意の看板をよく見かけるから、このあたりはきっと常に風が強いのだろう。
風向きが少しだけ良くなっているのでたまにはユニサイクリングもできるが、やはりほとんど歩きになる。
足はもうひきずり気味に歩くのが普通になってしまった。
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フリーウェイの路肩を歩いていたら俺を待ち構えている人がいて、このTシャツをくれて去って行った。
えええーーー。
ギャラップトレイルズ2010…。自転車のイベントか何かだろうか。彼もまたサイクリストなのだろう。
それにしても長袖かよ。
これから暑くなる一方なのにどうしろと。
 
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昨日は下り坂がメインだったが、今日はアップダウンの連続。
坂だわ横風だわ路肩は荒れているわで、ユニに乗れるわけもない。
昨日のフリーウェイ走行が快適に思えたのがもはやウソのようだ。
 
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それでもギャラップからさらに37キロほど進んで、クーリッジという小さな町の手前。
今日はこの辺で休もう。
 
自力移動距離は71キロ。横風のわりにはよくやった。
それに加えてパーカーのクルマでおそらく80キロぐらいは進んだと思う。
今日もみつかりませんように。