4月29日 弱気の分水嶺
夜はなかなか寒かった。
寝袋はマイナス気温にも耐えられるハズのものだが、それでも足元が冷える。
外は一体何度なのだろう。
少しでも体力を回復させたい夜中に熟睡できないとつらいな。
夜が明ければ明けたで、今日も横風。
今日もか。嫌になる。毎日毎日、風風風。
左足の痛みはまったく治る気配もないし。
アメリカの町は遠い。どれも遠い。
距離感の途方もなさが、広いと思っていた北海道の比ではない。
その上、この風。風の機嫌の悪い日は疲れるが、しょうがない。
ゆっくり行こうか。
コンティネンタルディバイド。
大陸分水嶺とも訳されるこのあたりは、北米大陸を流れる川の向きが東西に分かれるところらしい。
つまり、ここから東だと大西洋、西だと太平洋に流れるというわけだ。
しかしここは山頂でもなんでもなく、どう見てもただの平地にしか見えない。
きっと傾斜が緩やか過ぎて気がつかないレベルなんだな。
ここが分水嶺だと発見した人は、よほどヒマだったに違いない。
インディアンの土産物屋を兼ねたガソスタで買い物をし、さらにスマホの充電までさせてもらう。
こころよく充電させてくれた優しいおばさん、どうもありがとう。
ルート66上にはネイティブアメリカンの居留地がいくつもあり、
町では長い黒髪を編んだアジア人に近い顔つきの人々を見かけることも多い。
インディアンは差別語だとかで近年はネイティブアメリカンと呼ぶという前知識があったのだが、
現場に来ると結構普通にインディアンインディアン!と書かれまくっていてむしろ驚く。
観光地で土産物を売る都合上か、売り手側がインディアンを売り物にしているようにすら感じる。
実際のところはどうなんだろうな。彼らと親しく話していないのでよくわからない。
ガソスタで買い物をしたくてフリーウェイを降りたのだが、
地図を見るとここからしばらくは側道が続いているようなので、そっちを走ってみる。
これが側道。右側の道がフリーウェイだ。
側道のルート66はクルマも少なく舗装もきれいで走りやすい。
クルマを気にしなくていいので横風で振られることもさほど気にならない。
いいなこの道。
今後も側道があるところはこっちを走るほうが正解かもしれない。
朝晩をのぞけば風は涼しく心地いい。
案外今が最もユニサイクルツーリングに適した時期なのかもしれない。
足の痛みも、股の痛みも楽しんでみよう。
調子のいい今だけは、そんな風に思える。
路肩に座り込んで休憩していたら、後ろからサイクリストが出現して話しかけてきた。
おお、自転車ツアラー!この旅で初めての遭遇である。
彼はジュン。韓国から来た自転車旅行者だ。
ロサンゼルスからニューヨークまでのアメリカ横断ルートを2か月で走る予定だと言う。
一日に100から120キロは走るそうだから、2か月あればニューヨークにも行けるのだろう。
トレーラー形式のキャリアが便利そうだ。これなら荷物の重さもあまり気にならないに違いない。
そして、毎日モーテルに泊まっているという話がちょっと羨ましい。
俺には経済的にも走行距離的にも不可能な話だ。
まぁ金があってもやらんだろうが。
ジュンが撮って送ってくれた写真。
彼はなかなかのナイスガイである。英語も俺よりよっぽどうまい。
空港でも考えたことだが、日本と韓国は今確かに複雑な関係ではある。
だがそれは国同士の話だ。
お互いを毛嫌いする前に、一度は相手の国の人間と、歴史と政治を抜きでじかに話をしてみるのがいい。
結論はそれからのほうが、自分自身も納得できると思う。
やっとグランツ着ー。
そして一直線にマクドナルドを目指す俺。
これでは町に来たんだかマクドに来たんだかわからんが、とにかくどこにでもあるからな、この店は。
よし、ここらでそろそろネット休憩だ。
ネット休憩中。普段は絶対飲まないぞ、こんな青いジュース。
しかし一日中外を歩いて疲れ切った身体にはこの不健康そうな液体が本当にうまいのも事実だ。
しかもおかわり自由!飲み放題!
ちなみにバーガーは、いちおう健康を気にしてフィレオフィッシュセットにしてある。
同じジャンクフードでも肉より魚のほうがまだマシかな…と…。
マクドを出てすぐに話しかけてきたハーレー、スポーツスターに乗ったおじさま。
どうしても一輪車で走っているところを撮らせて欲しい!と言うので、
またか…と思いつつもその辺のポールを掴んで乗り、撮らせてあげる。
リクエストに答えるかどうかはその時の気分と、あとはとにかく頼み方だよなぁ。
今回のようにきちんと頼んでくれたらまず断らないよ。
そうじゃないことも多いから困るのだ。
ここグランツの町にはウォルマートがあったので、ちょっとした電子部品を買いに寄る。
一度買い物をして勝手がわかったはずのウォルマートなのに、
クレジットカード決済でなぜか機械に何度も蹴られてしまい、焦る。
原因は使い方が間違っていたことだったが、問題はそのことよりも、
トラブルに際して店員が話してくる英語がほとんど聞き取れなかったことだ。
これまでは、カードを通してさえいれば会話が通じなくてもなんでも買えた。
しかしこうして何かトラブルが起きた時、途端に英語力の無さを痛感するハメになる。
アメリカなんてなんとでもなると思って余裕ぶっこいてたのに、この一件で急に自信をなくしてしまった。
俺はこの先もこの国でやっていけるのだろうか…。
ウォルマートを出てふたたびフリーウェイに乗るが、やはり風が強くて走りづらい。
今夜は野宿場所も変で、快適とはとても言えない。
ウォルマート以降はどうもイライラが続いている。
疲れもあるとは思うが、こういう時は何をしてもうまくいかないものだ。あーあ。
今日の移動は側道走行のおかげで案外進んでいて88キロ。
ニューメキシコ州の州都アルバカーキまでは、あと130キロぐらいだ。