5月3日#2 天国で会おう

 
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プリシラが買い物から帰ってきた。愛犬ダンカンも。
ダンカンは初対面なのに人懐っこくてとってもかわいい。
 
こちらが写真を撮らせてもらうと、彼女も古いニコンのカメラを持ち出して俺を撮るのだ。
爽やかな笑顔で対応したつもりが、
 
「ジャパニーズスマイルになってるわよ!」
 
と、笑われてしまう。
ジャパーズスマイル…!なんかわかる気もするな。
彼女は日本で俺みたいなジャパニーズスマイルをたくさん見てきたのだろう。
 
お茶をご馳走になりつつ、じっくりプリシラと話す。
彼女はロッキードに勤務していたお父さんに連れられて、10歳からの5年間を日本で過ごしたそうだ。
名古屋と岐阜に住み、その時に出会ったノブコさんという親友の話を懐かしそうにしてくれる。
 
家のあちこちに飾ってある日本画はポスターではなく、カレンダーから切り抜いたモノらしい。
今でも日本からそうしたお土産を送ってくれる友人がいるのかもしれない。
彼女は旦那さんを亡くしてダンカンと二人暮らしではあるが、
俺と同年代の息子夫婦が東海岸に住んでいて、時々遊びに来てくれるそうだ。
アメリカの外の世界をまったく知らない息子のお嫁さんに会って良い影響を与えて欲しいと言われるも、
東海岸なんていつたどり着くやら見当もつかないのである。
 
プリシラは、俺の脚が治るまで何日でも家に泊まればいいと言ってくれる。
俺はしばらく考えて、やはり今日中に出発することを決める。
まだ明るい時間だし、ここに泊めてもらっても足がすぐに良くなる気はしない。
そして何よりも、日数が不安なのだ。
遅々とした歩みでも、進めるのであれば、少しでも進んでおきたい。
 
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ふたたびトラックの荷台に乗り、近くのフリーウェイ入口まで送ってもらうことに。
 
俺が出発するつもりだと知ると、プリシラは大量の湿布をくれるのだった。
湿布で冷やすのはなかなか効果的かもしれない。
今後はステイシーのくれたスパニッシュの伝統薬とプリシラ湿布の二段重ねで攻めてみよう。
 
スパニッシュといえば、アルバカーキでのステイシーやジョシュとの交流をプリシラに話したところ、
驚きというか少し羨望のようなまなざしを向けられたことが印象深い。
プリシラにはスパニッシュの知り合いはいないそうだ。
同じニューメキシコ州に住んでいても、白人とそれ以外には何がしかの壁があるのかもしれない。
 
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白クマを見てわかるように、動物愛護の意識が高いっぽいプリシラ。
助手席には常にダンカンが乗っていることからも動物好きであることはバリバリわかる。
そんな彼女は俺に、WWFのパンダの絵が入った水筒をプレゼントしてくれるのであった。
えーと、水筒かぁ。どうやって持ち運ぼうかなぁ。 
 
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プリシラの住むエッジウッドから10キロほど来たモリアーティという場所のフリーウェイ入口。
 
これからテキサス州に入れば、白人至上主義者にも出会うかもしれないから気をつけなさいとのこと。
テキサスには特にそういう人がチラホラいるそうだ。
今いるニューメキシコ州の次がテキサスなのだが、どうも前情報だとテキサスの良い噂をあまり聞かない。
なんかこう、大らかというか、適当なところらしいよ。テキサス。
 
さて、ここで彼女とはお別れになる。
思えばたった半日の付き合いだったけど、もっと長く感じたな。
ありがとうプリシラ、そしてダンカン。楽しかったよ。
カメラを構える彼女に向かってポーズを取る。
 
「今度はジャパニーズスマイルじゃないでしょ?」
 
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アルバカーキからはフリーウェイの側道を歩いて来たが、
非情なことにモリアーティ以降は側道がなくなるっぽい。
ということは、またしてもフリーウェイを行くしかないのだ。
 
看板には自転車もダメと書いてあるが、ここもたぶん路肩の自転車走行だけはアリだ。
だって他に道が無いんだからな。
うぉーー行くぜーー。
 
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フリーウェイのパーキングエリアで休憩中にみつけたウサギ。
野ウサギはこのあたりには大量にいて、連中を見かけない日はまずない。
 
フリーウェイはアメリカの高速道路で、日本と違って無料である。
そこは素晴らしいのだが、無料であるせいか、パーキングエリアの数と設備がお話にならないレベルだ。
パーキングエリア同士の間隔は優に100キロ以上あるし、設備はトイレがあればいいほうで、
自販機なんかを見つけたら超ラッキーという感じ。
常駐しているスタッフもいないので売店などは望むべくもない。
こんなところで野宿するのは極力やめたほうがいいな。
無料なのも考えモノだ。
 
ちょっとビビリながら乗った久々のフリーウェイだが、意外にも調子がいい。
夕方以降で風が良いせいだろう。
脚に負担がかからない程度のスピードで順調にペダルを漕ぐ。
このペースでは今日中に次の町サンタローザには着けないだろうが、近くまでは行けるだろう。
あとは暗くなったら適当なところで寝…
 
いきなりコケた!!
 
緩い下りでブレーキレバーを握りすぎてタイヤがロックしたらしい。
何かを考える前に一瞬で転倒して前に投げ出され、たぶん2回転ぐらいした。
高速道路の路肩でコレだけはやっちゃあいけない。
たまたま前後にクルマがいなかったから助かったが、危ないところだった。
 
あーあ、またズボンのヒザが破れて、少しケガもしてしまったよ。
効きの良いディスクブレーキも使い方がヘタだとデンジャラスアイテム以外の何物でもないな。
今後は力が入り過ぎないよう、人差し指1本だけで握るように徹底しよう。
 
思いっきり転倒した後はしばらくショックから立ち直れないものだ。
路肩をトボトボと歩いていると、なんと目前でその路肩に止まったクルマがいる。
まさかさっき俺がコケるところを目撃したわけでもあるまいが。
ドライバーは年配の男性で、ジョンと名乗った。
 
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ジョンはケガをして歩く俺の事情を聞き、クルマに乗って行くように勧めてくれた。
これだけ暗い時間になるともはや人力での移動は危険だ。
ここはありがたく次の町であるサンタローザまで乗せてもらおう。
 
ジョンはオクラホマに行く途中だと言うのだが、話を聞いているとなんだかよくわからない。
奥さんは中国人だが一緒に住んではいない。オクラホマに家はあるけど自分は住めない。
 
「私はホームレスなんだよ。」
 
そうおっしゃる。
へー、アメリカのホームレスはクルマに乗ってフリーウェイをカッ飛ばすのか。
しかもこの人、どうもキリスト教関係者らしい。
ありがたいパンフレットをいただいたからひょっとしたら宣教師なのかもしれないが、
残念ながらこのパンフレットをじっくり読む時間は俺にはないだろう。
 
それはそれとして、海外では敬虔なクリスチャンにいつも助けられる。
彼らの人助けの精神には世話になってばかりだ。
 
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サンタローザ到着。
40キロぐらいのドライブだったか。
 
思いがけず夜中に町に来てしまったので今夜はモーテル泊もいいかと思ったのだが、
ジョンの厚意で何軒かモーテルを回ったものの、いずれも値段が高くて諦める。
こんな遅い時間から寝るだけのために40ドル以上も払う気にはならない。
そこでまたフリーウェイに戻ってもらい、俺は適当なところでキャンピングとしゃれこむのである。
 
ありがとうジョン。
あなたの英語をほとんど聞き取れずに苦労したが、ケガの直後に拾ってもらえたのはありがたかった。
彼は去り際に不思議なことを言い、そしてこれだけは聞き取れた。
 
See you in heaven!
 
天国で会おう?
さすがにクリスチャンは言うことが違う。
 
今日の自力移動は44キロ。
明日はトゥクムカリまで行けるかどうか。