5月13日 Word is no matter
楽しかったオクラホマシティのミュージックハウス生活も今日で終わりだ。
とはいえこの数日ですっかりズボラになった俺。
早朝から出発するようなこともなく、
コンビニで食料を買い、デカカップのコーヒーを飲んでゆっくりのんびりした上で、のろのろと活動を開始する。
ネイやチャンスは仕事(たぶん)で外出してしまったが、
メッタに働かないことで有名なパーカーだけがずっと家にいる。
ここは1つ相談をもちかけてみよう。
「もしヒマだったら郊外までクルマで送ってくれないか?街中を一輪車で進むのは時間がかかるんだよ。」
「いいよ!でもガソリンが無いんだ。」
「もちろん俺が出すよ。」
というわけで、またしても彼の骨董品的ニッサン車に乗ることになる。
一見マトモそうな車内だが。
助手席と後部座席はゴミ置き場である。
このままサッと郊外に出るのかと思いきや、
どうやら彼は俺にオクラホマシティを案内してくれるようだ。
「この街のリッチな住宅街とプアなエリアを両方見せてあげるよ!」
まず、こちらはリッチなほう。
たしかに大きくてリッパな家がたくさんある。
会社の社長や役員なんかが住んでいるそうだ。
で、貧乏なエリアというのは、そこからなんと道を一本隔てただけのところにある。
黒人やスパニッシュが多いところで治安が悪いんだと聞かされるが、
ここは正直なところ、そこまで貧しい人々が住んでいるようには見えない。
貧しいといいつつちゃんとした一軒屋だしな。
同じアメリカでも別の町でもっと苦しい生活を送ってそうな家はたくさん見てきた。
しかし、アメリカは貧富の差が激しい国だとはよく聞くが、
俺はまだそれほど明確に貧富の違いを実感してはいない。
まだまだ何も知らないのと同じようなものだ。
次はダウンタウンだ。
オクラホマはどっちかって言うと農業でもっている州らしく、
州都であるオクラホマシティの中心街ですら大して広くもないし、そもそも人が少ない。
昼時だというのにランチを求めて歩いているビジネスマンすらほとんどいない。
大丈夫なのかオクラホマの経済は。
そして、たまたま目前の横断歩道を渡る数少ないビジネスマンに対し、
「ビッチビジネスメーン!」
と叫ぶのがパーカーという男である。
何が気に入らないのかあいかわらず意味不明だ。
ビジネスマンもいてくれないとヒッピーライフは成り立たんだろうに。
ところでビッチ(メス犬)って男にも言うんだな。またひとつ勉強になったよ。
そんな彼はダウンタンの一画にある公園のようなところの駐車場にクルマを止めるのだ。
しかし公園だと思ったそこは、ビル爆破事件の跡地なのだった。
俺は知らなかったが、そこは1995年、オクラホマシティ連邦政府ビルに爆弾を満載したトラックが突撃し、
ビルごと破壊したという大惨事のあった場所なのだ。
俺たちがモニュメントの解説文を読んでいる間にも、どこかの小学生らしき一団が見学にやって来る。
オクラホマの人々にとっては忘れることのできない事件なのだろう。
ダウンタウンにある、パーカーが愛してやまないホットドッグ屋。
やたらと歴史のありそうな店だ。そしてホットドッグは極めてシンプル。
きっと子どもの頃から通ってるんだろうな。
ここでホットドッグを買う時、なにげなく2人分払おうとしたらパーカーが、
You buy me?
こう言ってきた。
あなたは私を買う?おいおい男同士で売春かよ!っと一瞬焦ったが、
冷静に考えると「おごってくれるの?」という意味である。
またすごい英語もあったものだ。
これって一般的な使い方なんだろうか?違うような気がするなぁ。
フラッグスタッフで俺の宿代を出してくれたゲイラン夫妻は、同じおごるのでももっと上品な表現をしてたもんな。
パーカーによると、You buy my drink?とかなら普通の英語だそうだ。
それにしてもYou buy meは略しすぎだろ、という話題でしばらく盛り上がる。
オクラホマシティ観光を終え、クルマはピューッと郊外へ。
「アーカンソーでもどこまででも連れていってやるよ!」
そう言ってくれるが、市街を出さえすればそれで充分だ。
そういえば初めて会った時も、「アルバカーキでもオクラホマでもどこまででも!」って似たようなこと言ってたな。
さらばだパーカー。
キミはたぶんいつか何かデカいことをやらかすだろう。
ネイやチャンスとバンドを組んでワールドツアーなんてのもいいな。
犯罪で名を残すのだけはやめてほしいが、その目の輝きがあるかぎり大丈夫だろう。
俺をブラザーと呼んでくれる彼。
昨夜ぼそっと言ったセリフは忘れない。
「言葉は問題じゃない。俺たちは充分わかり合えてるじゃないか。」
パーカーと別れて、さあ旅路の再開だ。
フリーウェイの路肩よ、ひさしぶり!4日ぶりだなぁおい。
しかしまぁ、不思議だ。
休養十分のハズなのに、ちょっと走っただけでもう疲れてきたぞ。
なんだこれ、寝不足か?それともビールのせいか?
旅の気分が戻るまではしばらく時間がかかりそうだ。
気候はいいのに相当な時間をかけて、ようやく最初の小さな町に到着。
パーカー宅を出る時に何か忘れてるんじゃないかと思っていたが、
なんと今朝コンビニで買った食料をすべて置いてきてしまっていた。
ここに来てやっと補給ができるぜ。
うーん、朝からビールを飲む不健康さよりも、毒々しい色のゲータレード!
やっぱこれだよなー。
ヤル気は全然なかったが、曇りの涼しい気候とまあまあの風のおかげで今日の走行は50キロ。
ここはフリーウェイのレストエリアだ。
今日はフリーウェイの路肩を歩いていて2回も声をかけられてちょっと困った。
もちろん本当に助けて欲しい時はありがたいのだが。重なる時は重なるものだ。
やや雨気味なので、夜間の強雨を警戒してこのレストエリアにテントを立ててみるが、大丈夫だろうか。
レストエリアは警官が見回りに来るかもしれないし、それ以上に利用者そのものが信用できない。
普段ならこんなところでは寝ないけど天気には勝てないからな。
寝袋に入る時に気がついた。
まったく、パーカー宅のせいで服が煙臭いったらない。
警官にあらぬ疑いをかけられたらどうしてくれるんだよ!
もはや、そんなオクラホマシティもそれなりに遠くなってしまった。