5月17日#2 耳が疑われる
いきなり路肩が狭いぃ。
下道はこれだからかなわん。
ヴァンビューレンからアーカンソー州の州都リトルロックまでは156マイル。約250km。
フリーウェイの路肩伝いなら3日もあれば着きそうな距離だが、
ただでさえペースが落ちる下道。しかもここは妙にアップダウンが多い。
やれやれ、何日後に着くことやら。
ダラダラ登った先の下り坂をひさびさに気持ちよく疾走していると、
背後から迫って来たワーゲンが路肩の草むらにズガッと突っ込んできた。
中から出てきたのがこの親子。父親はだいぶ興奮気味。
調子よく下っているところだったが、(降りたほうがいいか?)とジェスチャーすると、YES!ってな感じで。
「私たちもユニサイクリストなんだよ!」
ほう、これは斬新な。
ユニサイクル親子、バドとデコーダ。
同じユニサイクリスト同士なら、あれこれ語るよりもまずは試乗だよな。
親父のバドは何回試しても乗れなかったが、息子のデコーダがついに乗れた!
おお、この旅で初めて俺の36インチに乗れたヤツが現れたか。
一輪車乗りなんだから乗れてもおかしくはないが、うーむ、なんかくやしい。
ところで、バドがおもしろい話を聞かせてくれる。
「15年ほど前、キミと同じカリフォルニアからフロリダまでのルートをロバに乗って旅したヤツがいたよ。」
ロバかよ!
一輪車とロバ、旅をするならどっちがラクなのだろう。
ロバが歩いてくれるだけロバのほうがマシだろうか。燃料は路肩の草を食べてればいいんだし。
親子と別れたあとは、ふたたび長い下り坂を滑降。
さらにアップダウンを繰り返し、寂しい峠道のようなウネウネを延々と走るハメに。
アップダウンは疲れるので歩いてしまいたいのだが、マズいことにポツポツと雨が降ってきた。
こうなったら乗らなくては。
とにかく一輪車に跨ってさえいれば、どんなに遅く漕いでいるつもりでも、歩くより3倍は速いのだ。
雨の勢いに焦りながら猛烈に漕ぎ倒し、オザークという町のガスステーションに滑り込みセーフ。
こういう時のパワーは我ながら大したものだと思う。
雨と汗で冷えた身体にホットコーヒーが狂おしいほどうまい。
さて…なんとか町には着いたわけだが。
これからどうしよう。
もう16時だ。天気も時間も実にビミョー。
次の町に向かうにはもう遅いし、また雨が強く降るかもしれない。
そしてこの道はとにかくアップダウンが多くて疲れる。
なだらかな傾斜で設計されていたフリーウェイのありがたみを今さらながら思い知るよ。
じーっと休んでいるうちに、雨がとりあえずは止んだようだ。
今後の予定をまだ決めかねつつも、なんとはなしに町を進んでみる。
するとガスステーションからほどなくして、ポツンと1軒のモーテルがある。
大した規模でもあるまいこの町にモーテルがあるとは意外だ。
疲労と雨。
このモーテルには強く惹かれる。
なんせモーテルなんて、新聞の取材を受けたトゥクムカリで泊まって以来だ。
あれは5月の4日だったから、もう2週間近く金を払って泊まっていないことになる。
よし、まずは受付で値段を聞いてみるか。
…え?25ドル?
安ッ!即決!!
おおお、なんて素敵な部屋なんだ。
広くてちょっと豪華。
今まで泊まってきたモーテルの中では段違いの高級感。
これで本当に一泊25ドルかよ!?
…と思ってクレジットカードのレシートを見たら、おお?61ドル!?
おいおいおいおい。
どうやら、25ドルと55ドル(+税金で61ドル)を聞き間違えたらしい。
いくら英語リスニング能力の低い俺とは言え、通常では25と55を聞き間違えたりはしない。
きっと8割方泊まる気マンマンだったので、ちゃんと聞いていなかったのだろう。
俺にとっちゃビックリするほど高い宿泊代だが、まぁいい。
なんといってもすっごく久しぶりのモーテル泊なのだ。
今日は不安定な天気だし、ハイウェイでは寝床を探すのも大変そう。
これぞ値千金ってヤツだろうよ。
今日の走行は42キロ。
大して進んでもいないが、これも気にしない。
休養も大事だからな。
たまーにモーテルに来たら、まずは洗濯だ。
コインランドリーは使わずに風呂で入浴のついでに洗うだけだが。
一斉に洗ってしまったので干す場所に困る。
今誰かが部屋を訪ねてきても応対できるような格好ではまるでない。
よっしゃー、洗うもん洗って手持ちのスナックを食べたら、あとはもう寝るのみ。
では。ひたすら寝かせていただきます。