5月26日#1 奥の手

 
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静かで鏡のように美しいテネシー川を渡り終えると、そこはサバンナという町。
なかなかの規模のようだ。
マクドナルドの前を通りがかるとWIFIを拾う。
朝食がてら店に入ろうとも思ったが、今は充電も余裕があるしテントでスナックを食べたので腹も減っていない。
ここは申し訳ないが、歩道の上からWIFIだけ借りるとしよう。
が、スマホで作業していた俺をみつけたのか、店内から中高生ぐらいの男子が出てきた。
 
「中でブレックファストを食べていかないか?」
 
彼は親切にもそう言って誘ってくれるのだが、うーん、今はやっぱりいいや。
彼はまだ少年なのに思慮深く賢そうで、なかなかの好青年だった。将来大物になりそうだ。
少年が店内に戻っていくと、今度は駐車場からおっちゃんが現れて、また話しかけてくる。
 
「ウェルカムテネシー!」
 
そう言ってくれる。なるほど、彼はテネシー人なのだ。
そんなテネシー人の彼、1960年代にはロサンゼルスに住んでいたそうだ。
懐かしそうにロサンゼルス時代を語ってくれる彼。
そうかー、ロサンゼルスって、昔の思い出話になるぐらいここから遠いんだな。
  
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テントで食べたから朝食は要らないと言いつつ、
町が出口に近づくとなんとなく食べておいたほうがいいような気分になって、
カラアゲで微妙に有名なDodgesに入ってみる。
 
しかし、この食料で8ドルも使ってしまった。
WIFI使い放題のマクドで通常7ドルぐらいしか使わないのに、一体何をやってるんだ俺は。
高くついたなーこの朝食は。
それはそうと、この店はガソスタなのかチキン屋なのかメインはどっちなんだ。
まーどっちもなんでしょうよ。カラアゲがおいしいから許す。
 
ところで、メンフィスあたりで衝撃を受けた、英語の発音の変遷具合。
テネシーに入って以来、ひそかに自信のあった「フロリダ」の発音すらだいぶ通じにくくなってきた。
これまでは幾分大げさに、フロォーリダ!って言っていれば通じていたのに、
今はどちらかと言うと、フロォーダッ、と手短かに言わなければわかってもらえない感じ。
 
広いアメリカを東西に移動しながら英語の発音を習得するのも案外厄介なものだ。
しかしまだそれほどたくさんの人間と会話しまくってきたわけでもないので、
これが方言の違いなのか個人差なのかがいまいちハッキリしないんだけどな。
 
ハァ、今日も暑い。
関係ないけど、前から思っていたがドル紙幣ってのはつくづくチャチな造りだ。ペラペラ。
こんなの偽造しまくりなんじゃないか。
ひそかにNASAが開発したインク状ICチップだのが織り込まれてたら感心するけどな。
 
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暑い、暑い、たまらん。
 
今日はどうもヤル気がでない。ダメな日だ。
一輪車の旅には無風が最高だと思っていたが、今日ほどの蒸し暑さだと無風は本当にこたえる。
次の町、ウェンズボロまでのあと30キロが異様に長い。
さらにその先にあるローレンスバーグなんていつ着くのか。
今日はローレンスバーグまで行けるかもなんて考えていた計画はとっくの昔に白紙撤回だ。
 
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どういうわけか今日は特に暑さが響いてたまらないというのに、
おまけに路肩が急に悪くなった。
 
おいおいなんだこれは。
クルマに轢かれたくなければ押して歩けってことか。
やってくれるぜーー。
 
道はさらに峠にさしかかる。
いつでも倒れられそうな状態でなんとか峠のてっぺんまでカラダとユニを押し上げると。
そこには、ポッと店が。
 
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こんなガスステーションは地図になかったような気がする。
峠の頂上にある、まさに峠の茶屋だ。
とにかく、ここで休ませてもらおう。
 
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建物の裏のわずかな日陰でぐったりと座り込む。
 
この店はアメリカでは珍しくクレジットカードが使えないし、店員の女性の愛想も全然ないが、いいんだ。
この店は、あってくれるだけでありがたい。そういう存在なのだ。
 
一息つく。つもりが、何息もついてしまう。
ふたたび動き出す気にならない。
風通しがいいメッシュのジャケットも、風が吹かなければ意味がない。
この際脱いでしまいたいが、ジャケットの中に入ったゴツいプロテクターのせいでザックにも入らない。
あー、どうしたもんかな。
 
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峠を越えて、ついに決断。
この旅で初めて、メッシュジャケットを脱いで走る!
 
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デカいジャケットはザックに括りつけることで解決。
背負うと結構重いな。
 
思い切ってTシャツ1枚になってしまえば、さすがに涼しい!快適だ!
 
しかし、この手はなるべく、できるだけ使いたくなかった。
理由はいくつかある。
転倒や事故でダメージを負いやすいこと。
パスポートや携帯などの貴重品をジャケット内部に隠せなくなること。
そしてもう1つバカにならないのが、日焼けである。
 
これほどの快晴で紫外線に当たり続ければ、生っちろい俺の肌などはすぐに焼け焦げてしまう。
多少の日焼けは健康的?
いや違う、俺の場合は旅の最中に日焼けしてしまうと、とにかく疲れてしまうのだ。
だからこれまでの旅でもメッシュジャケットだけは脱がなかった。
灼熱のキューバでも、殺人光線が降り注ぐパプアニューギニアでもだ。
だが、今回はもう限界。
防御力を重視してこれまでよりゴツいメッシュジャケットに買い換えたのが裏目に出たか。
 
それでもなんでも、今はとにかく、Tシャツは涼しい! 
この勢いで進めるだけ進むぜ!