5月29日 南へ

  
夜の墓地に降り続いた雨も、明け方にはやんでくれたようだ。
しかし霧が濃い。
あずま屋の中でベンチの上にかけておいた衣類はどれもまったく乾かなかった。
 
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少しあやうい天気だがそのぶん涼しく、次の町ファイエットビルまでサクサクと進む。
これぐらいの気温が一番ありがたい。
 
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ファイエットビル。 
昨日の雨の中、あれほど着きたかったこの町だが、
やんでしまった今となっては着いても特にやることがない。
 
メンフィス以来ずっとお世話になってきたハイウェイ64号線とはこの町でお別れである。
このあたりは道が入り組んでいてどのルートを選べばいいのかずっと悩んでいたが、
ベリーがくれた特製マップを信じて、ここからアラバマ州に向けて南下するつもりだ。
 
 
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まあせっかくなので、ガソスタでコーヒーを飲むぐらいはしておく。
このピザは特定のガソスタでたまーに扱っていて、ちょっと高いがうまいので、みつけたら買う。
日本のコンビニなら温かい弁当だの肉まんだの選び放題だが、
こちらのコンビニはお菓子以上のちょっとした食べ物がなかなか無いのでこういうのが貴重なのだ。
 
ちなみにこちらに向かって歩いて来ているイカしたじいちゃんとは直後に会話する。
俺のようにコンビニ前で座り込んでモノを食べている人間は珍しいのだろう。
アメリカはクルマ社会でかつ治安がイマイチなせいか、
コンビニで買った食べ物やコーヒーは、ほぼ必ずクルマの中に持ち込んでから食べる習慣のようだ。
俺もクルマがあればそうするだろうし、人にもそう勧める。
 
さあ、これからついに南下の旅だ。
南へ!
  
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長くて緩いのぼり坂、峠と言ってもいいような道の頂点に、テネシー州とアラバマ州との州境がある。
 
今日の俺はなぜか調子がよく、のぼりなのにずっと走り続けて来られた。
涼しいから?
次のステージであるアラバマやハンツビルが近いから?
今日は宿に泊まって休むつもりだから?
墓で寝たから?
昨日44キロしか進んでいないから?
よくわからないが、とにかく行けるうちにグングン進もう。
たまにはこんな日があってもいい。
今日は珍しく、ユニサイクリングを楽しめる日だ。
 
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アラバマに入り、あと19マイル(約30キロ)でハンツビル。
向かい風だが緩やかで涼しく心地よい。
でもやっぱりな、ポツポツと雨が降ってきたよ。
で、しばし雨宿り。
  
雨雲が通り過ぎたスキを見てさらに進み、
ヘイゼルグリーンという町にあるマクドナルドの前で、またしてもポツンときて立ち止まる。
雨が降るなら建造物が多い場所でやり過ごしたほうがいい。
 
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図書館をみつけたので無料WIFIを使わせてもらう。
図書館でWIFIを使えるというのはベリーの奥さん、アンジェラから教わったことだ。
どこの図書館でも使えるというわけでもなさそうだが、これは役立つ情報である。
 
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ネットの用事を終えてさあ出ようと思ったら、ザーッ。
うわ、またか。しかも今度は強い。
しょうがない、図書館前のあずま屋で待機だ。
  
はぁ、こんな感じじゃ今日中にハンツビルに着けないかもな。
ずっと待ってるのもヒマだ。
 
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やることがないので、あずま屋の中でユニを転がしたりする。
あいかわらず広い道での前進しかして来なかったから、こういった狭い場所ではうまく乗れない。
一輪車で旅をしても特に一輪車が上達するわけでもないというのはここでもキッパリ強調しておきたい。
 
ところで、アラバマ州ではオートバイのヘルメット着用が義務化されているようだ。
たしかにみんなちゃんと被っている。えらい。
要るか要らないかと言えば、俺は絶対に要るほうを推す。
誰だってアタマをアスファルトですりおろされたくはないだろうし、見たくない。
 
さらに余談だが、このあたりはマディソン郡に属するらしい。
有名な橋でもあるのかと思ったら、『マディソン郡の橋』の舞台は全然別のアイオワ州だった。
まぎらわしいんだよ!
 
こんな風にひたすら考え事をしながら待ち、ようやく雨はやんで、少しだけ晴れ間が見えた。
よし思い切ってあずま屋を出るか。
 
この道は2車線で広いのに路肩が狭く、走りにくい。
アラバマ州に入ってから急に路肩が狭まったような気がする。
本道を避けて店の駐車場を通っていたら、クルマから声がかかる。
丁寧な口調の人だ。エクスキューズミー、なんて話しかけられるのは珍しい。
柔らかい物腰からして教会関係者かもしれない。
 
「ぜひ聞きたいのです。この旅のモチベーションは何なのですか?怖くはないのですか?」
 
「怖いですよ。クルマ、悪人、天気とか。もう毎日、いつでも怖い。でも、やりたいことなのでやってます。」
 
こんな説明でわかってもらえただろうか。
そもそも発音が伝わったかどうかが定かではない。
 
雨の合間を縫って進んでみれば、その先にはまたマクドがある。
なんだよ、マクド多いぞこの道。
たまになら入ってもいいのだが、スマホの充電や食料が充分の場合は店内に入るほうが面倒なのだ。
しかし、前方の空には超怪しい黒雲が居座っている。
これは絶対に降る…と思っていたら、やっぱり来た。
今日3度目の雨。
 
そうか、暑さの次は雨に悩まされるんだな…。
むしろこれまで1ヶ月ぐらいロクに降られなかったことをよしとすべきか。
さてどうするか決めないと。
これはもう、この先1キロ地点にポツンとあるらしいモーテルに行くしかないか。
でもそこ、ネットでの評判がかなり芳しくないんだよな。売春の温床とかなんとか。
難しいところだが、路肩の狭い道を雨のなか歩き続けるよりはマシか。
 
とにかく、ビショ濡れになる前に!と先を急いでいたら、
一台のピップアップトラックが路肩で俺を待っているのだ。
ヒゲのおじさんが運転席から一言。
 
「ハンツビルのホームデポに行くところだが、乗っていくかい?」
 
乗ります!乗せてください!
おおっ、雨でも助けてくれる人がいた!
 
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ハンツビルまでは10キロほどだが、その間に叩きつけるような強い雨。
まさしく黒雲の真下を突破している感じ。
いやー、助かったよー!
 
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強烈な雨を乗り越えてハンツビルに着いてみたら、なんと雨はすっかりやんでいる。
雨雲1つ単位で降ったりやんだりってところが本当に大陸的だ。北海道もそうだよな。
 
この親切なおじさまは、カーターさん。
奥さんを迎えにホームデポに来たみたいだが、それ以外のことがよくわからない。
ほんとにもう、なんでここまで英語を聞き取れないのか。
俺が話す英語モドキも相手には聞き取れないようで、
もはやスペイン語しか通用せず誰ともマトモに会話できなかったキューバを彷彿とさせる。
おたがい紙に書けばまだわかるのだろうが、
同じ言葉でも発音の違いでここまで意味不明になるんだから言語ってのは難しい。
 
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会話はともかく、もらった名刺はこのとおり、実にユーモアがあっておもしろい。
 
こんな人ともっと話せたら楽しかったんだろうなぁ。
 
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待ち合わせの奥さんが現れたカーター氏と別れて、ここはホームデポの駐車場。
さて、まずはホームデポのWIFIでモーテルをいくつかみつけて移動だ。
 
ハンツビルは想像よりも大きな街。
都会と呼べるところに来たのはメンフィス以来だな。
 
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奥にあるPARK WAY INNは42ドルで安かったが、痛恨のWIFIなし!
これまで見てきたモーテルでWIFIが無かったのはこれが初めてだ。
田舎ならいざしらず、ハイテク宇宙センターがあるこのハンツビルでWIFIなしかよ!
 
仕方なく隣のAMERICA'S BEST INNというモーテルチェーン店にシフト。
 
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こっちは一泊57ドル!たけぇ!
でも当然WIFIバリバリだし、風呂とエアコンも完備で洗濯、乾燥にはもってこいだ。
ひさびさの有料宿泊だからたまにはいっかー。
 
しかしモーテルも最初のころは一泊30ドルあたりで泊まれていたのに、いつのまにやら高くなったよな。
東部に来れば来るほど物価も上がるものなんだろうか。
まぁそんなことはいいとして、宿が決まれば次は買出しだ。
 
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買出し行脚中。
出た、エセ中華屋、TIN TIN BUFFET!
そんな微妙な名前にするから閉店の憂き目を見るんだよ!
 
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街の中に踏切があるのはなんだか珍しい。
アメリカの線路といえばほとんど貨物列車しか走らないので、とにかく長い。
車列も長けりゃ待ち時間も長い。
これだけ長いと加速も減速も大変そうだ。
あと、ひっきりなしに鳴らす警笛がとってもうるさい。
 
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はぁ、買出しが遠くて、しかも道を間違えたりしたのでえらく疲れたよ。
 
そんなこんなで今日の走行は57キロ。
外はまた雨模様。今夜ばかりは宿に泊まって正解だ。
これから1週間ずっとこんな空模様らしい。
やれやれ、明日も降られるのかなぁ。