5月30日 甘くないアラバマ
全米チェーンのモーテルなら朝食ぐらいつくだろうと思っていたら、あった。
しかしハニーバンだ…。
スーパーで50セントで買えるやつ。うまいけど。
コーヒーと一緒に2コもらってきてやった。うまいけど。
さて、毎度ながら快適なモーテルを出るのはつらいが、いてもしょうがないので出発だ。
ハンツビルは大きめの街なので、案の定出るのに時間がかかる。
だがこれでも大きな街は極力避けるルートを選んでいるわけだから、これぐらいは許容範囲だ。
ようやく街が終わったと思ったら、出口は峠。よくあるパターンだ。
勾配がキツくて道も狭い上に、峠の頂上を越えたら今度はこの路肩。
なにこのガタガタ!
クルマの脱線防止用なのはわかるが、こんな真ん中でやられたら自転車も一輪車も乗れたもんじゃない。
昨日までのテネシーとはやはり違う…。
これがアラバマの道か。
峠を越えて、やっと完全にハンツビルの郊外に出た。
これでまだ12キロ。時間のわりにロクに進んじゃいない。
まあいい、これからは平地だ。
ガンガン巻き返すぜ!
って、えええええーーーー。
路肩が、無い!!
2車線分離で幅の広い幹線道路なのに、路肩がまったくない。
これは怖いぞ。
歩くのすら後続のクルマが気になるのに、こんな道で一輪車に乗るのは相当に危険だ。
やっぱりそうなんだな。
昨日、アラバマ州に入ってからずっと考えていたことだが、
これがアラバマのやり方なのかもしれない。
アラバマ州の道は、自転車が路肩や道を走ることを想定していないのだ。
アラバマの州法によると自転車はデバイス。
玩具的な扱いだから道を走るための乗り物ではないということだ。
ロードシェアの概念が徹底していたテネシーの64号線とはまるで対照的。
州が変わると隣どうしでもここまで違う。
これがアメリカ。
ベリー考案のルートは、アラバマの広い道をたどってほぼ南北に縦断するようなコースだ。
しかし、広い道でも路肩がないと知った今、このままアラバマを走り続けて良いものか。
一縷の望みをかけて東に逃げ、ジョージア州に脱出したほうがいいのかもしれない。
とはいえ、アラバマの道がダメだとしても、まずはこの道を進まなければどうにもならない。
ヤル気ガタ落ちの中、仕方なく路肩の草の上を歩く。
あまりのペースの遅さに耐えかねてちょっと乗ってみるも、
交通の流れが多くてやたら怖い上にクラクションは鳴らされるしで、すぐにやめた。
ええい、こうなったらもう、オーブリーになってやる。
今もアーカンソーだかオクラホマだかを歩いているハズのオーブリーに習って、俺も徒歩旅とシャレこむぜ!
そう決めてトボトボと歩いていたら、今度は雨だ。
あーあ、今日も来たか。
しかも勢いが強い。さらに雨宿りできる場所がまったくない。
草の上で急いでカッパ着ていたら、脇にクルマが止まる。
中から兄ちゃんが出てきて興奮気味にまくしたてる。
「え、カリフォリニアからフロリダまでユニサイクルで?それはすごい!
クルマから君が見えて、何をしてるのか知りたかったんだよ。
じゃあ、エンジョイ!」
行ってしまった。
なんじゃそりゃ!エンジョイじゃねえよ!
一瞬助かったと思った自分が恥ずかしいわ!
まあそんなヤツもいる…と思ってフル装備で雨の中を歩き始めたら、なんと、またクルマが。
今度は女性だ。クルマの後部ハッチを開け、早く乗りなさいとすすめてくれる。
自分が濡れるのもかまわず一緒に荷物を積み込んでくれた彼女は、バーニーさん。
この先のニューホープという小さな町まで乗せて行ってくれるそうだ。
「ニューホープって、いい名前だね。」
「そうでしょ?私もそう思うわ!」
なんともノリの良いバーニーさん。
学校の先生のような明るくハキハキした女性だが、
クルマの中は足元までゴミでいっぱいであり、ついオクラホマのパーカーを思い出してしまう。
雨の勢いは強く、今日の天候もあまり期待できそうにない。
この際今日の移動はニューホープで切り上げようとも思ったが、
残念ながらニューホープにモーテルはないそうだ。
俺が雨宿り用のモーテルを探していると知ったバーニーさん、
ニューホープからさらに走って、ガンタースビルという湖畔の町まで連れてきてくれた。
挨拶もそこそこに引き返していく黒いクルマがバーニーカー。
おそらく急いで家に帰る途中だったのだろうに、寄り道までしてくれてどうもありがとう。
ガンタースビル湖。
雨に降られた地点から約30キロの移動だ。クルマってのは本当に速い。
ところでこの看板を見た大部分の日本人は、この町の名前をガンタースビルと読むと思う。
だがさっきのバーニーさんには、俺の発音で言うガンタースビルがまっっったく通じなかった。
すぐ目の前にある町の名前を、いろいろ言い方を変えつつ何度も発音しているのに、やっぱり通じない。
これはよほど致命的に発音が間違っているのだろう。
日本在住の英語教師であれば経験から言いたいことを推測してくれたりもするだろうが、
相手はこれまで日本人と会話したことがあるかどうかというような筋金入りのネイティブなのだ。
日本人風の英語の発音はなかなか通じない。
ましてやここはアラバマ、アメリカ南部だ。
たとえば、標準的な日本語をちょっと勉強してきただけの外国人が、
日本にやって来ていきなり大阪のオバチャンと会話しているようなものなのではないか。
うーむ、そう考えると通じないのも当たり前という気がしてきた。
さっきはあれほど強く雨が打ちつけていたのに、今や何事もなかったかのように静かなガンタースビル湖畔。
昨日のハンツビルと同じパターンだな。
まあ、とりあえず雨具を乾かしつつ休憩しようか。
雨が降らないのならもうちょっと進んでみるのもいい。
ガンタースビルは観光地か保養地のようなところらしく、小さな町並みもオシャレな雰囲気。
しかし賑やかなところはあっという間に過ぎ去り、
路肩のない道路が当然のように復活する。
ほんと、これぐらい広い道なら路肩を確保することぐらい容易なハズなのに作らないってことは、
やっぱり初めから作ろうという気がないんだなと納得。
アラバマの考えることは大体わかったよ。
湖を渡る橋のようになっている道で、おもむろに路肩復活!
やったぜ、俺の熱いユニサイクリングを見せてやる!
そう思ったのも一瞬で、今度は長い峠の上り坂が登場するのであった。
いやもう、疲れたよ。
危険な道のりが続いてヤル気がひたすら削られる。
画像のような牽引車はアメリカではよく見かけるが、車体より牽引車のほうが幅が広いから怖いんだぜ。
昨日までのテネシーがどれだけ良い道であったかを思い知る。
こんなことならあのままできる限りテネシー州を走り続けるべきだった。
広い道がいいという俺のリクエストでわざわざベリーが選んでくれたこのルートだったが、
さすがに俺も2車線の道路で路肩がないなんてことがあろうとは思わなかった。
苦労して逞しく坂を上りきってみれば、そこはやはり元通りの危険な道。
もういい、わかった、結構。
明日アラバマを出てやる。
アラバマの他の道も全部同じとは限らないが、もう確かめる気にもならない。
今日も何回か声をかけられ、時には興奮気味の男たちとあまり伝わらない会話もしたが、
丁寧に乗って見せてくれと頼まれても、
こんな道で乗れるかよ!文句はアラバマに言え!
ってな感じで、とっても不毛なテイストであった。
そんな今日はアルバートビルという町のあたりで暗くなったのでフテ寝する。
良い場所を見つけられずに広い空き地の草むらでこっそりテント泊。
ちょっと心配なポイントだ。
今日の移動は35キロ。
ほとんど徒歩。ムダに疲れた。
俺は今日一日、一体何を学んだのだろう。
雨に降られるわ、太陽が出れば今度は水ぶくれができるぐらいの日焼けでヒリヒリするわ。
はあ、なんてこった。
アラバマ、出よう。