クロスロード

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本日、日光東照宮で売れたTシャツ「微速前進」。
いわき駅前で描いたもの。
それとなく色々あって、思い出深い一品だった。

17時の閉館より少し早く日光東照宮を出て、
そのまま山の中を縫うように伸びる夕暮れの国道を進むと、
やがて群馬県の桐生という場所に着く。

なんせ今回はあえて地図を持ってないので、
たまにコンビニに寄った時ぐらいしか自分の位置関係が掴めない。
うーん、とりあえず、
桐生から近い前橋に行ってみるとしよう。
群馬の県庁所在地だしちっとは賑わってるやもしれぬ。

そんな感じで、
国道でもなさそうなよくわからん道を、
前橋っぽい方角に向けて走っていると、
対抗車線側にあるマクドナルド(以下マクド)の駐輪場に、
一台のヒドいバイクを見かけた。
よって、Uターンして引き返す。
やあ、元気そうやね。
キャプテンハンサム。

キャプテンはあいかわらず黒く汚れていた。
エリミネーター400はあいかわらずボロく、
荷物は夜逃げなみに多く、
犬のミナミちゃん(メス)はいつ見ても愛らしい。

福島の道の駅で初めて会ったのが今月の2日だから、
約1週間ぶりである。

彼はそんなカッコでマクドに入るつもりだったのかと思いつつ、
昨日bypさんに貰ったマックコーヒーのタダ券を2枚出して、
さっそくキャプテンをお茶に誘う。

そして、こんなカッコの行商ライダーが2人揃って入店し、
タダのコーヒーのみを注文したのである。
バイトの可愛い女の子の心中は、察するにあまりあった。

この1週間、
俺は水戸だの宇都宮だのにいたが、
キャプテンは房総半島だの東京の代々木公園だのにいた。
代々木公園に着いた際の持ち金は12円だったらしい。
俺はこれから前橋に向かうが、
彼は草津温泉に行く。

全然違う場所を走って、
これから全然違う方向に進み、
後で知ったが俺はこの時走るべき道を間違えて走ってすらいて、
そして俺たちは再会した。

「別に、不思議じゃないよな。」

そういって互いに笑う。

話は尽きない。
この1週間、互いの苦汁の日々。
そして今後のこと。

バイクの走行距離が20万キロになると終了する彼の旅は、
1週間前はあと2000キロだったが、
今はあと1500キロにまでなっていた。
今後は一気に距離を稼ぐらしいので、
キャプテンハンサムの1年半に及ぶ旅は、
おそらくあと1週間前後でゴールを迎えることだろう。

その時、彼のかけられないがかろうじて受けられる携帯が鳴った。
相手は、旅の途中の北海道で知り合った彼女だという。
大阪出身の彼女は今はもう地元に戻っており、
キャプテンが旅を終えて大阪にゴールするのを待っているそうだ。
そういえば、彼は旅の途中で今後の就職先まで決まっていたのだった。

所持金12円だの4円だのを繰り返してもしぶとく明るく生き抜いてきた彼のことだ。
大阪に帰って生活の基盤を固めたら、
いずれ間違いなく一流の人間になるだろう。
そして大勢の人々に慕われることだろう。

俺は…と、つい考えてしまう。
今だに何がしたいのかもよくわからず、
フラフラヘラヘラしながらも、
最近は苦笑いがクセになりつつある。

「クロスロードやな…。」

キャプテンがそう言った。
俺たちの再会のことだ。

直訳したらタダの十字路やな。
そう軽く返そうとして、なぜか言えなかった。

クロスロードか…。

確かに俺たちは、
点で会い、点で再会した。

俺が今朝、伸びたバイクのチェーンをそろそろ調整しようと思い立ったこととか、
日光東照宮で話しかけようと試みた一人旅らしき欧米人金髪女性と絶妙なタイミングで行き違って話す機会を逸し、
ひとしきり悔しがっていた時間、
などがもし無ければ、
あの時彼がマクドにいて、
俺がその前を通るなんて条件は整わなかったハズだ。

再び会った俺たちは、
やがてそれぞれの方向へと走り出す。

クロスロードを経て、
俺たちにはそれぞれどんなゴールが待っているのだろう。

キャプテンと別れた後、
前橋に行ってはみたが、人はほとんどいなかった。
確証はないが、前橋は夜が早い街らしい。

考えてみれば、俺はどこにでも行っていい。
何も群馬にこだわることはないよな。
そう思い、国道50号ってのを一気に50キロほど走って、
今は栃木の道の駅にいる。
群馬や茨城、埼玉なんかがすぐ近くの場所だ。

野宿場所はココで決まった。
今日は久々にTシャツも売れた。
今日という一日を構成してくれた全てのものに感謝しつつ、
これから近くのコンビニまで走って、
1本の缶チューハイを買ってくる自由を、俺に。